15
幸村くんと再会してから数日経った。
5日後の17日から男子テニス部の全国大会が始まるという記事を掲示板で眺め、彩香はため息を吐いた。
(……国光、どうなんだろう…)
滅多なことでは頼ってくれない従兄の事を考えて、彩香は携帯を弄った。
メールをしようか、電話をしようか、それとも会いに行こうかな……と考えてしまう。
いつもは心配させる側だが、今回は心配してしまう。
「……会いに行こうかな…」
「誰にだい?」
無意識で零れた科白に返答が来て、ビクッと身体をこばらせた。
「…っゆ、幸村くん!?」
「ごめんね、驚かせたみたいで」
申し訳なさそうな顔をする幸村に彩香は慌てて、手を振りながら答えた。
「うっ、ううん! ちょっとびっくりしただけだから、気にしないで」
「なら、いいけど。倉橋さんは此処で何してるの?」
「楓ちゃんを待ってるの。部活あって、ほら、夏休み明けに海原祭始まるからね。幸村くんこそどうしたの?」
見れば制服姿で、鞄を持っている。部活の方は黄色い歓声が聞こえてくるから活動中だと思うのだが。
「ふふっ、長い間入院していたからね。テストを受けてたんだ」
「そうなんだ。身体の方はもういいの?」
あの手術からそんなに日は経っていない。普通なら日常生活に戻れるかどうかかもしれないのに。
「多少キツいけれど、もうじき全国だしね。負ける訳にはいかないよ」
「そう、無理しないでね」
「ありがとう、倉橋さん」
「勉強も大変そうだね」
「そうだね。でも蓮二がノートを貸してくれたりしたから大丈夫だよ」
「れんじ?」
誰だろうと小首を傾げてしまった。
「柳 蓮二──って知らない?」
「あっ、柳くんのことなんだ。名前までは知らなくて……えへへ…」
「そっか、じゃあ覚えておいたらどうかな(知らなくてもいいけどね)」
聞きなれない名前に不思議に思っていたら、にっこり笑って教えてくれた。
だけど柳くんのノートなんて、なんだかすごく綺麗に分かりやすく書いてあるんだろうな、なんて思いながら相槌をうった。
「ところで誰に会いに行くんだい?」
「えっ? あぁ、さっきの口に出してたんだっけ…」
「うん、聞こえたからちょっと気になってね。もしかして、手塚かい?」
「あー、うん。連絡があまりないから、心配で……」
相手は立海の部長さんだというのに、彩香は苦笑しながら答えた。
心配で仕方がない。もうすぐ全国大会が始まるというのに。
「確か……肩の治療でどこかに行っているんだっけ?」
「うん。宮崎に青学の付属病院があってね、そこの医療センターにいるんだ…」
「そうなんだ。早く良くなるといいね。俺も手塚と久しぶりに対戦したいんだよね」
「……幸村くん、国光と試合したことあるの?」
初めて聞いた話に彩香はびっくりした。国光の試合にはほぼ応援しに行っていたのに。
「3年前のJr.大会の終わった後で手塚が現れてね、準優勝した真田に6‐0、6‐1で勝っていたから対戦したんだけど、強かったよ。まぁ、試合は途中で邪魔が入ってね、引き分けだったかな」
「そんなことがあったんだ……」
3年前というと小学生の頃か、と考えて苦笑してしまった。
そういえば、あの頃はあまり国光と話さなくなっていたっけ…と思い出して少し悲しくなった。
「……倉橋さん、どうかした?」
「え、あ、なんでもないよ」
幸村くんが気にすることじゃないよと彩香は微笑したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
手塚を心配していた時とはやや違う顔をした倉橋さんにどうかしたのかと訊けば、ほんの少し悲しげな顔で微笑されてしまった。
初めて手塚に会ったのは3年くらい前のJr.大会後、準優勝した真田が現れた彼に負けて、怒鳴っていた時だった。
好奇心だった。いとも簡単に優勝して、強い奴はもういない状態だったから。真田に勝った彼と対戦したのは。
彼は予想より強く、試合をして楽しかった。久々にワクワクしていたのを覚えている。だが、試合は時間が押し迫ったせいで大人達に止められた。
そんなことを思い出していると、横から声を掛けられた。
「精市……倉橋も一緒だったのか」
「蓮二」
「柳くん、こんにちは」
「ああ、こんにちは」
ジャージ姿の柳が立っていた。
「蓮二、部活の方はどうしたんだい」
「片倉に呼ばれてな、生徒会室に行ってきたんだ。精市の方は今日のは終わったのか」
「あぁ、今から行こうと思っていたんだよ」
「そうか。倉橋は、部活か?」
相変わらず、見えているのか分からない双眸だか、倉橋さんを見ているようだ。
「はい、もう終わって楓ちゃんを待っているんですが「あ、いたいた彩香〜」……」
「噂をすれば影、だな」
蓮二の言う通り、楓が手を振りながら現れた。次から次へと。
「あれ? 幸村と柳もいたの?」
「いたのとはいい度胸だね、楓」
「なによ、ただ思ったことを言っただけでしょうが! 彩香、待たせてごめんね」
「ううん、大丈夫だよ」
クスッと笑う顔が楽しそうで少し魅力的だった。
「さっ、行こう! じゃあね、二人とも」
楓は倉橋さんの腕を組むとバイバーイと手を振って連れて行ってしまった。
慌てたようにこちらを向いて会釈する彼女に笑って手を振った。
全国大会──手塚が間に合うのかどうか、まあ、立海の三連覇には関係はない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
- From:手塚 国光
Sub:no title明日、東京に戻る。
‐‐‐END‐‐‐
あまりにも素っ気ないメールに彩香は呆気に取られた。
そしてカレンダーを確認すれば、明日はテニスの抽選会だったはず。慌てて電話をすればほんの少し懐かしい声音が耳に届く。
「もしもし、国光!」
『彩香か。どうかしたか?』
「どうかしたか、じゃなくて!」
『土産なら買ったぞ』
「あ、ありがと…じゃなくて! 肩は!? 肩は治ったの?」
『あぁ──どうやらイップスだったらしい…』
「……イップス…?」
イップスについて教えてもらいながら、克服出来て良かった。と呟けば電話の向こうで、ああ。と返された。
詳しい話はまた明日に、と電話を切った。
明日、学校に行こうかな……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
駅で国光を待っていると見慣れた白と青のジャージが目に入る。そして、懐かしい従兄の姿に彩香は笑みを零した。
「国光!」
手を上げて声を掛けると、やや仏頂面がこちらを向いた。相変わらず、中学生に見えないのは何故なんだろう。
幾度、一緒に出掛ける度に兄妹(しかも国光は良ければ高校生、悪ければ社会人)に見られていただろうか。
「彩香、来たのか?」
「うん。我が立海へ案内しようかな、ってね」
「場所は知っている。大丈夫だ」
「分かってるって! 少しでも早く国光に会いたかったんだよ」
「……ありがとう」
そう言って国光は私の頭を撫でた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
早く会いたかった。と話す彩香に相変わらずだな、と内心ため息をついた。
彩香とは生まれた時からほぼ一緒に過ごしていた。
小学校も同じでいつも一緒に通っていた、よく友人から『仲がいい』『ラブラブ』だの言われていたが、自分たちの間にあるものはいつだって、愛は愛でも家族愛だった。
彩香はよく抱きついたり、甘えてきたが、許してしまうのはやはり可愛い従妹だからだった。
一時期、離れたのは自分が原因だと知った時、腑甲斐ない自分に苛立った、悔しかった。
大事な、大事な妹のような存在である彩香を苦しめたことを。
俺を嫌いになるか、と考えたが中学は私立に通うことになり、また彩香は俺を頼るようになって、俺もまた守らなくてはとずっと傍にいるようになった。
端から見れば、俺たちは仲睦まじい恋人に見えるらしい、それによって彩香はとんでもないことに巻き込まれもした。
それでも彩香は俺にいつでも笑顔をくれる、色んな表情を見せる……だが、それに恋情はない。
近くにいすぎて、俺たちは恋愛にならなかった。常に間にあるのは、恋愛とは違う愛のカタチだった。
「そう言えば、なんでジャージなの?」
「私服で他校には入れないだろう」
「あ、私服だと中学生に見えないしね」
そう笑う彩香に手塚はコツンと小突いたのだった。
そうして、抽選会が行われている立海大附属中学校に着いたのだった。
手塚の登場に待ち望んでいた者は沢山いたようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
よく晴れた8月17日、全国中学生テニストーナメント全国大会が開催された。
全国から様々な強豪が集う。
彩香は楓とともに応援しにスタンドにて、開会式の模様を眺めていた。
To be Continued
あとがき
なんかどうでもいい話が入ってしまいました。
つか幸村って術後何日で退院したのか不思議ですよね。
跡部が立海に現れた時はいたんですから、かなり早い退院……。
私も術後1週間で退院したことありますが、腰だったし。
…どんだけ超人なんだろうと摩訶不思議です、テニプリ。
明らかにお盆休み中に抽選会してますね、大変ですね。
幸村、ヒロインに惚れてますよね(苦笑)まあ新鮮だったということで(逃)
感想など頂けたら幸いです。
2009/08/04