19
青学が宿敵氷帝学園を下し、ベスト4に進出が決定した。
全国制覇まであと2試合となった。次の試合は午後からで彩香は作ってきたお弁当を国光に手渡した。
「はい、お弁当」
「あぁ。ありがとう」
中身は手塚の好きなうなおにぎりで容器にだし汁なども持ってきたから、彼の好きなうな茶が出来た。
「遅かったが、何かあったのか?」
「う、うん。ちょっと……ね、国光」
「なんだ?」
「立海の人たちってどの辺にいるかな? ちょっと、幸村くんにお礼したくて」
「何かあったのか?」
そう訊いてくる手塚に、彩香はここに来る途中の事をお弁当を食べながら話した。
掴まれた手首を擦れば、ほんの少しだけ赤くなっている。
「大丈夫だったか?」
「うん、なんとか…」
「そうか……」
カチャと箸を置き、手塚は時計を確認してから彩香の頭を撫でた。
「礼を言いに行くなら、俺も行こう。差し入れもするのだろう」
そう言って持っていた紙袋を指差した。中身は先程レギュラーたちに配ったレモンの蜂蜜漬け。
結構沢山作ってしまい、余っていたのだ。
「余り物で失礼かもしれないけど……」
「大丈夫だろう。行くか、互いに午後から試合もあるしな」
「うん」
手塚は弁当箱を片付けると、座っていた彩香の手を引っ張った。
「そういえば、楓ちゃんが国光に頑張って!って言ってたよ」
「そうか、ありがとうと伝えておいてくれ」
「うん。決勝は見に来るって言ってたよ。応援は立海大の方だけどね」
「立海の生徒なのだから仕方ないだろう。お前はいいのか?」
「うん。だって私の願いは国光と同じで青学の全国制覇だもの」
「……ありがとう」
周りの人には分からないだろうが、微かに笑った手塚に彩香も微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どこかに行こうとする手塚と倉橋さんに気づいて、声を掛けた。
「あれ、どこかに行くの?」
「不二。あぁ、ちょっと立海の待機所へな」
「立海?」
「彩香がちょっと世話になったから、礼を言いに行こうと思ってな」
「(…お礼?)僕も一緒に行ってもいいかな」
「別に構わないが」
なんとなくそう口に出していた。倉橋さんもいるしね。
「不二くん、氷帝戦は出なかったんだね」
「うん。大石が自らの判断で手塚と先生に志願したらしくてね。まぁ、英二の黄金ペア復活への声援と、昨日の誰かさんの試合で大石の責任感と魂を奮い立ったしね」
「そっか。でも次の試合は出るんでしょう?」
「竜崎先生が決めることだけど、試合したいしね」
「頑張ってね」
「ありがとう」
そんな会話をしていると前方に芥子色のジャージが見えて来た。
どう話し掛けようかな、と思っていると柳が気付いたようだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の試合の事を話していると、蓮二が声をかけてきた。
「精市」
「なんだい、蓮二」
「お前に用事があるようだぞ」
くいっと示された方を見れば、そこには倉橋さんと手塚、不二の姿があった。
こちらが気づいたからか、歩み寄ってくるのが分かった為こちらも近寄った。
「やあ、どうかしたのかい」
「あの、お礼をと思って」
そう話す彼女に「気にしなくていいのに」と言うと手塚も口を開いた。
「いや、彩香を助けてくれて感謝している。すまなかった、幸村」
「(…なぜ手塚に礼を言われるのかは分からないが)何事もなくて良かったよ」
「あぁ、だが彩香一人だったら大変だったかもしれないからな」
「あの、幸村くん。本当にありがとう。さっき渡せば良かったんだけど、差し入れなの…良かったら」
一瞬、手塚の顔が曇ったような気がしたが、倉橋さんが紙袋を差し出して来た。
中にはタッパーとスポーツドリンクがレギュラー分入っていた。
「お礼ってほどでもないんだけど…」
「ありがたく頂くよ。ありがとう」
そう言うと微笑されてしまった。
あぁ、なんだかこの笑顔に癒されてしまう。
「あれ? 彩香?」
「あ、紫ちゃん」
会話をしていると、マネージャーの紫が倉橋さんに気づいたようだ。
「どうしたの? あ、差し入れ?」
「そうだよ、紫。これをみんなに渡しておいてくれ」
「わっ、やった。彩香の作るものって美味しいのよね」
「そんな大したものじゃないよ」
二人がそんな風に会話をしているのを眺めていると、手塚が話し掛けて来た。
「……幸村、」
「なんだい、手塚」
「男に絡まれた時、彩香の様子はどうだった?」
「手塚?」
急に何を訊いてくるのだろうと疑問に思っていると、傍らの不二も蓮二も不思議そうに様子を伺っている。
「彩香は男性数人に囲まれるのが苦手、というか怖いらしくてな……心配だったのだが」
「囲まれるのが、怖い……?」
「以前にゴタゴタがあって……アイツは基本的に男が苦手だから」
倉橋さんの方を見て手塚はただ呟いた。その光景がやけに印象に残る。
なんだかもっと彼女を知りたくなった。その時、蓮二が思案するようだったが、気付かなかった。
紫と話し終えたのだろう、パタパタと駆け寄って来た。
「幸村くん、午後から試合なんでしょう? 頑張ってね」
「フフッ……君は応援に来てくれないのかい」
「、あ……、その…」
「ごめん。あまりにも君が青学側ばかりにいるから、困らせちゃったね。話は聞いていたのに」
「ううん、こちらこそ。同じ学校なのに……」
入院中に何回か話した時に、青学を応援しているという話を聞いていた。従兄がいるからだと。
だから君も青学なんだとばかり思っていたから、学校で君の姿を見た時は心底驚いた。
困った顔も可愛らしい、ヤバいな。結構ハマっているのかもしれない。
「少しは応援してくれたら嬉しいよ」
「次の試合は応援してるよ」
「そうか。では、決勝で会おう。手塚」
「あぁ。油断せずに行こう」
そうして、彼らはそこから去って行った。その時、視線を感じた。
いや、倉橋さんと話していた時も同じ視線を感じていた、そうか。君もなんだね、不二 周助。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
倉橋さんと手塚と三人で立海大の場所へ行けば、部長の幸村と話す彼女の姿を見て、何か悔しくなった。
親しいのだろうか、同じ学校というのが羨ましく思えた。
それに最近まで入院していた幸村の名前をしっかり覚えてる彼女にも驚いた。
僕ですらちゃんと覚えてもらうのにかなりかかったというのに。
「倉橋さん、幸村と知り合いだったのかい?」
「んー、前にお祖母ちゃんが入院した時に会ったことがあったの。そんな親しかった訳じゃないの、顔見知り程度だったんだけど…。それに同じクラスみたいなんだ」
「へぇ」
「って言っても知ったのは夏休み入ってからなんだ」
「そっか。あ、大石たちだ」
見れば、大石とタカさんが手を軽く上げていた。
話を聞けば、今から不動峰と四天宝寺の試合を見に行くところらしい。次の対戦する相手はどちらかだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
準決勝の相手は四天宝寺になった。
先程の試合は圧倒的な強さと実力を見せられ、シングルス3、ダブルス2共に棄権、シングルス2も5‐7で負けてしまった。
準決勝は建物内のコートでやるらしく、彩香は観客席に座り、試合が始まるのを見ていた。
シングルス3は不二vs四天宝寺の部長、白石 蔵ノ介だった。
彼のプレイスタイルは全く無駄のない、完璧なテニスだった。
あまりの強さに不二が圧倒され、信じられない光景に皆が驚いていく。
そして、三種の返し球も第4の返し球『蜻蛉包み』すら全部返されてしまった。
〈40‐0! マッチポイント白石〉
コート上に倒れ、起き上がらない姿にザワザワと騒めく。
「不二くん!」
「不二ぃーっ!!」
その時、不二くんの傍に降りたリョーマが一言言い放った。
「本気でやってよ」
リョーマは皆に叱られたが、不二はそれに触発されたのだろうか、立ち上がった。
「……そうだね。このまま負けたんじゃ、何か悔しいや」
あと1球!と騒がれていても、目付きが変わり粘りを見せ始めた。
「このチームを全国優勝へ! それがボクの願い!! だから絶対に負けられないんだ!!」
〈40‐30!〉
0‐5だったのを1‐5へと土壇場で返した。
返された三種の返し球が進化していき、次々と止まらない勢いをみせていく。
そして、試合中に彼は第5の返し球『百腕巨人の門番』を生み出した。
「不二先輩、無敵じゃん…」
「す、凄い。これが……不二先輩」
一年生たちが驚いていた。あのリョーマでさえ、息を飲んでいる。
「不二、これがお前の答えか」
「……凄い…」
「無敵じゃん……不二」
ゲームは6‐5の逆転になった。
しかし相手は着々と『百腕巨人の門番』を破ろうとし、マッチポイントでとうとうそれは破られてしまった。
コードボールを白龍で返すもアウトで試合は負けてしまったのだ。
悔しがる不二に誰も声を掛けられなかった。
「は、初めて見た…。こんなに悔しがる不二は」
「……不二くん…」
「…………」
「凄かったよ、とっても、とっても格好良かった!」
「…………倉橋、さん」
「頑張ったね」
頑張った、頑張ったけど負けてしまった。
どうせだったら、勝って、君のその笑顔を見たかったよ。
「不二くん。負けることでもっともっと強くなれるんだよ。だって、負けた時の悔しさを知る事が出来るから……だから、もっと強くなれる。これからが楽しみだね」
「……っ!」
そうか、負けたことがなかったから……いつだって勝てていたから、ボクは執着出来なかったんだ。勝敗に。
(……ありがとう…倉橋、さん)
それを気付かせてくれて、ありがとう。
To be Continued
あとがき
えーと、すみません。色々適当になりました。はい。
2009/08/19