21
ドンドンと花火が上がり、本日全国大会決勝が行われる。
彩香は青学寄りの客席に腰を下ろし、辺りを眺めていた。
常勝と謂われる立海側スタンドには応援団、チアガール、そしてテニス部員たちが盛り上げていた。
準決勝の時はガラガラだった客席もほぼ埋まっているのはやはり決勝だからなんだろうか。
青学も立海もコートに並ぶとアナウンスが流れた。
『只今より決勝戦、立海大附属vs青春学園の試合を行います!!』
ワァっと歓声が鳴るなか、彩香はコートに並ぶ人物を見つめていた。
『俺は来年、ドイツへ行く。プロになる為に』
その言葉が過った。
「……最後の試合、頑張れ」
そう呟いてから違和感を感じた。
手塚の隣にいるのはリョーマではないということに気づくのに時間は掛からなかった。
「え、なんで……」
遅刻?遅刻だとしてもこんな大事な試合に?
呆然としていると挨拶が終わったのか、見ながらベンチに集まって来たので、彩香は近寄った。
「今さっき連絡があって、越前は……軽井沢にいるそうじゃ!」
やれやれという風に竜崎先生は説明した。
「か、軽井沢───っ!?」
「おチビの奴、何やってんだ。そんなトコで!?」
皆が驚くのも無理はないと思う。だがなにか嫌な予感がしたのはなんなのだろう。
「電車のトラブルで帰って来れないらしい。越前抜きで決勝を戦わなければ…」
「お、俺、捜して来ますっ!!」
「桃っ、捜しにってどーやって!?」
桃城くんが駆け出そうとしたが、大石くんが止めた。確かにどうやって捜すというのだろうか。
「事情は把握した。ついて来い、桃城!」
見れば階段上に氷帝の部長さん(阿部さんだったかな)が立っていた。
「跡部さん!?」
「ここは任せとけ。手塚」
「すまない、跡部」
「ハッ、気にするな。行くぞ、桃城」
そう言って、桃城くんを連れて彼は行ってしまった。
「大丈夫なの? 国光……あの阿部さんって……」
「……跡部だ。大丈夫だろう、奴なら」
なんだろう、信頼しているようで彩香は心配しながらも少しだけホッとした。
「……試合、頑張って」
「あぁ」
見てるから、日本で最後の試合を。口には出さずにいるとバババババと激しい音が。
「ヘリコプター?」
「…………あぁ」
なんでこんなところに?と疑問を抱く彩香と、跡部か…とため息をつく手塚の姿があった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『第1試合シングルス3の試合を始めます。立海大附属──真田 弦一郎vs青春学園──手塚 国光』
ざわざわと騒がしかった中、アナウンスの声と共に会場が静かになったのは気のせいではなかった。
ポン、と肩を叩かれ振り向けば楓の姿があった。
「おはよう。彩香」
「おはよう、楓ちゃん」
椅子を横に移動すると、楓はそこに座った。
「あの2人が出て来ただけで会場の空気変わったね」
「うん。いきなり頂上対決だね」
「弦一郎はさ、ずっと気になっていたみたいだよ。手塚くんに負けたこと。全国2連覇したけど、この3年間、一度も直接対決してなかったから」
「そうなんだ」
「かなり気合い入ってるみたい」
3年くらい前に対決し、圧勝したという国光。それに対し真田くんは悔しかったのだろう。
そして、ようやくこの機会に恵まれた。折しも国光の最後の公式試合の相手として。
「だからって」
「ん?」
「国光だって気合いが入ってない訳じゃないよ」
「当たり前でしょ」
どこまでもテニスに真っ直ぐな二人は真っ向勝負をするだろう。
彩香は手塚の勝利を、楓は真田の勝利を信じて試合が始まった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
すぐさま出された『風林火山』に手塚は『手塚ゾーン』で返していた。
それを力でねじ伏せようとしていく真田により、いつも出来る円形の跡がブレて広がってきていた。
真っ向勝負で『手塚ゾーン』を破ろうとしているのだろう。
尚も『風林火山』で攻めていく真田に手塚は『百錬自得の極み』を使った──が、打った場所に真田の姿があった。
そして、返した打球はあっという間に手塚のコートへ入った。
「……っ!?」
「手塚くんが、」
呟いた楓に彩香が振り向けば、コートを見ながら楓は静かに口を開いた。
「あの技を封印していたように、弦一郎も手塚くんを倒す為に2つの究極奥義を封印していたの」
「……2つ…?」
「1つは今の『動くこと雷霆の如し』の『雷』」
「…………」
「びっくりした?」
「うん。でも…」
苦笑にも似た笑いでこちらをみる楓に彩香はコート内を見て、微笑した。
「国光は、恐怖には落ちないよ。むしろ逆に火が付いちゃうよ」
「そっか。そうじゃなきゃ面白くないよね。でももう1つを見ても冷静かな」
その言葉にゴクンを溜飲する。一体、どんな技なんだろうか。
だがそれは直ぐにわかった。『才気換発の極み』を使っても、国光は手先を読めなくなっていた。
「知り難きこと陰の如く――『風林火陰山雷』これが風林火山の本来の形だ」
「…………」
「どうした手塚…? 顔が青いぞ」
その威圧感に周りは歓声を上げ『皇帝』のコールがなる。
「『陰』は一分の隙も無くし様々な行動パターンを匂わせる事で『才気』ではダブルスの時のように読めないらしいよ」
「楓ちゃん、詳しいんだね」
「家が隣の腐れ縁だしね。練習してるとことか、色々語られてるから」
その『雷』と『陰』は、『百錬』と『才気』をことごとく破り、ゲームは取られてしまった。
「……関東大会で出さなかったのは国光を倒す為の奥の手だったの」
「かもね。弦一郎がこの技を使う相手なんて限られているよ。多分、立海では幸村だけ、後は手塚くんのみ」
「……これが『皇帝』と呼ばれる姿なんだね」
試合は3ゲーム取られ、零式ドロップショットを出したが返されてしまう。
だがその打球は『手塚ゾーン』で引き寄せたが、あまりの打球の重さにラケットは弾き飛ばされ、ガットには穴があいていた。
「……国光…」
『て、手塚ゾーンが破られた…。それも真っ向から』
信じられない、という言葉が青学側から零れ『ゲーム真田 4‐0!』とコールが鳴った。
「貴様の細腕では一生返せん!」
「返せない打球ならば………返さなければいい」
そう呟いて、手塚はラケットを交換した。その言葉に青学側は誰も言葉が出なかった。
「ほう…ヤキが回った様だな。手塚よ」
真田は手塚の言葉に嘲笑を浮かべていた。
「その面ももう見飽きたぞ! 我が立海の3連覇に死角は無いわ!!」
「どうしちゃったの、手塚くん? あんな事いう人じゃないよね?」
隣の楓に話し掛けられるが、彩香は何も答えずコートを見ていた。
次々と出される『雷』に押され、誰もが手塚が負ける、と思った時、彩香は無邪気に訊いたことを思い出した。
だがそれは『不可能』だと言っていたのに。
〈ア、アウト…!!〉
「国光っ!」
そう雷の打球が押し出されるようにアウトボールになった。
「手塚ゾーンを逆に使って……バカな!? 俺の打球を全てアウトにする気か!?」
手塚ゾーンを逆に使う事で打球を全てアウトにする。そんな事が出来る訳がないと驚く者、出来るから手塚部長なんだとあちこちで歓声が上がっていく。
そんな中、彩香はただただ祈る様に試合を見ていた。
「…彩香? どうかしたの?」
手塚に驚いていた楓も、隣の彩香の様子が気になった。
ふるふると震え、涙目になっている姿に。
「……ダメ、ダメ……お願い、国光…」
試合はゲームを返し、2‐4、3‐4へと追い上げていく。
『手塚ゾーン』に対し『手塚ファントム』は打球を全てアウトへと変えていく。
「不可能だって、言ってたじゃない……そんなことしたら…腕が…」
今にもポロポロと頬に涙が溢れてきそうになっていた。
「その辺にしておけ…二度とテニスが出来なくなるぞ」
「お前の覚悟はそんなものか」
「たわけが!」
手塚は客席を見渡し、彩香を見つけると眉を潜めた。
今にも泣きそうな顔は手塚の胸を締め付けた。
だが――青学を、再び青学の時代を築き上げる、全国制覇が目標だ。だからこそ負ける訳にはいかない。
グッとボールを握り、零式サーブを打った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〈ゲーム手塚 4‐4!〉
試合は追い付いた。追い付いたが彩香は手塚の姿に手を覆っていた。
手塚ファントムの連打、零式サーブを立て続けに4発も打ったせいだろう、左腕が鬱血し、紫色に腫れ上がっている。
「弦一郎っ…!」
彩香の隣にいた楓は真田の方を見て、口に手を当てた。
真田もまた『雷』を酷使し過ぎて両膝が紫色に腫れ上がっていた。それでもまだ二人は真っ向勝負を捨てずに、真田は『雷』を、手塚は『手塚ファントム』を使った。
〈ゲーム手塚 5‐4!〉
ベンチに座る手塚の元へ彩香は階段を降りていった。無論、楓は立海側へと。
「…手塚、油断せずいこう」
「……………わかっている、俺達は勝つために来た…」
そういって青学の2本柱である部長と副部長は拳を合わせた。
途端に上がる「青学」コール。
「…………彩香…」
近くにいたのに気づいたのだろう、手塚が声をかけた。
「倉橋さん…」
不二は場所を譲るように移動すると、彩香が眼を擦り、グッと息を吸う姿を眺めていた。
涙に濡れたその眸はとても綺麗で、こんな時だというのに胸が鳴った。
「…………っ、見てるから、頑張って…」
「……あぁ」
見つめ合う二人は、まるで恋人同士のようだった。
To be Continued
あとがき
えーと、手塚オチではないです。多分(笑)
ここで手塚オチだったらありきたり過ぎますしね。
早く全国終わらせたいです(苦笑)
2009/09/13