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不二くんは眸を閉じて尚、コードボールが狙えるのかゲームを取り返していく。
「準決勝のあの敗戦が…不二を更なる高みへ押し上げおった」
〈ゲーム不二 6‐5!!〉
「よっしゃあああ──────っ!!」
「うおおおお! 『心の瞳』スゲェーッ! 再度逆転したぁーっ!!」
「やっぱ凄いよ、不二ぃ──っ!!」
会場は歓声をあげ、辺りからは『不二』コールが沸き上がった。
仁王くんのイリュージョンは凄くても、彼のはあくまでも模造にしか過ぎず、完璧ではないことが分かった。
それでも手塚に真似られ、繰り出せる技は実力がないと難しい。
彼は次は準決勝で不二くんを負かした四天宝寺中の白石くんを真似た。
だが──
「悪いけど僕は同じ相手には2度負けない。第6の返し球『星花火』」
彼は新たな返し球を宣言した。
試合は再開され、出していく返し球は次々と返されていく。
「次ぃ──っ!! 第6の返し球!? 出来るもんならやってみんしゃい!!」
「──第6の返し球『星花火』」
皆、呆然となった。何が起きたのか。
「…昼間、なのに……花火が…」
「うん…花火が見えた…」
呟くリョーマに彩香も頷いた。
そんな2人を見て、手塚は説明をした。
「コードボールを上空にへ強烈に打ち上げ、打球から視界を消す―そして、すり鉢状の会場に吹く風が高速落下するボールに不規則な回転を与え客席の中へ……風を読める不二だからこその究極技、だな」
〈ゲームセット ウォンバイ不二 7‐5!!〉
ワアァァァと歓声が鳴るなか、客席に戻った不二くんは真っ直ぐに国光へと歩いて来た。
「この大会が終わったら、僕と勝負してくれるかい?」
その言葉に国光は(顔には出さず)驚きながら、嬉しそうに(顔には出てない)握手をした。
「ああ、望むところだ」
「…不二……………先輩」
二人の様子を見ていたリョーマは言葉を発したが、まだ何も思い出してはいないようだった。
どうするのだろう…このままでは試合が。不安がっていても時間は止まらない。
次は第4試合、ダブルス1だった。黄金ペアの最後の試合でもある。
「来い! 越前っ!!」
「おい、桃っ、どこへ!?」
「あ、あのボクは…」
ザッザッと歩き、リョーマにラケットを持たせると言葉を告いだ。
「───なら思い出させてやる。お前の失われた記憶を。越前、アップさせて来ます」
「………いいだろう」
国光は考えた末、答えた。
「桃城くん……無茶は、しないでね」
「はいっ!!」
そう言って彼はリョーマを連れていってしまった。
その後を1年生たちが追い掛けていく。
「……大丈夫、かな?」
「今は桃城に頼むしかないだろう」
「うん…そうだね」
何も出来ない、出来ることなど何一つない。そんな時、自分のちっぽけさが情けなくなる。
だからと言って彩香が何かしたとしてもリョーマの記憶が戻るという保証はなにもないのだ。
国光にしてもそうだ、彩香が傍にいたところで何もならない。
結局は国光自身がそれを克服し、遣り遂げている。
そんな風に考えていると、ポンと頭に手を乗せられた。
「国光?」
「気になるのなら見てこい」
「でも、私が行ったって何も変わらないよ」
役に立たないよ、そう呟く彩香に手塚はため息をついた。
「そんなことはない」
「……?」
「少なくとも俺は試合中にお前が見てくれていれば安心してプレイ出来ていた。彩香はいつだって信じてくれていただろう…それだけで充分なんだ」
「……」
「ましてお前と越前は『姉』と『弟』なんだろう。ならば信じてやれ、それだけで越前も安心するだろう」
「……今度から国光はリョーくんに『国光お兄ちゃん』って呼んでもらいなよ」
「何を言って…」
「私とリョーくんが『姉弟』なら、国光とリョーくん『兄弟』ってことでしょう」
ニコりと笑って彩香はそう言い切った。
彩香と手塚は『従兄妹』であり『兄妹』でもあった。
「私、リョーくんの様子見てくるね!」
「ああ、頼んだぞ」
「うん」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
会場から出て、近くのテニスコートではリョーマが桃城に願いでていた。
普段の彼から口には出ない言葉を。
「あ、あの……僕にもテニス教えて下さいっ」
それから荒療治という感じでリョーマはもう桃城とラリーを続けられるようになっていた。
身体に染み付いた感覚はそう簡単には忘れる事は出来ない。
きっと身体は自然に動いていく。
「頑張れ、リョーくん」
それしか出来ずに彩香はフェンス越しに彼らを見ていた。
桃城くんはダンクスマッシュを何度か打ち、リョーくんはもっと教えて欲しいと願っている。
でも、きっとそれだけじゃダメだ。そう思っているとポンと肩を叩かれた。
「っ……!? 誰?」
振り向けば、そこには顔、というか頭部に包帯をぐるぐる巻き付けた背の高い人物がいた。
横にはバンダナをつけた海堂くんの姿。
「……倉橋先輩、乾先輩っスよ」
「い、乾くん!? そ、そう……。大丈夫なの? その……」
「病院抜け出して来たんスよ…」
「えっ!?」
海堂の言葉に彩香は絶句した。そんな状態で病院を抜け出してくるなんて。
「後で怒られる確率100%……だが、全員が一丸にならないと勝てない気がしてな」
「……そうね。乾くん、海堂くん」
「分かっている」
そう言って2人はコートへと入っていった。そして――バタバタと足音と共に1年生たちが色んな人を連れて来た。
彼らは、今までリョーマが対戦した相手だった。
「俺、先輩たちに言って来るっス!」
対戦したことがある相手と打ち合いしているうちに、記憶が蘇るかのようにリョーマは徐々にテニスを取り戻していく。
「リョーくん…」
カシャン、とフェンスを握り彩香は微笑した。
その時、ザッと歩いてくる足音を聞き振り向けば、そこには真田くんと……跡部くんだったろうか、がいた。
「……真田くん…?」
「倉橋……」
互いに何故、ここに?と思いながらもコート内にいる彼らを見る。そして彩香は2人に頭を下げた。
「ありがとうございます」
「あん?」
「……まだ何もしとらん」
跡部は何を言ってるんだ、と言いたげだったが、真田はフェンス内のコートへと入って行った。
みるみる内にリョーマは記憶を取り戻していく。
彩香はその場から離れ、再び会場へと戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
第4試合は黄金ペアの勝利となり、残るは1試合。シングルス1だ。
彩香はエントランスホールにてリョーマが来るのを待っていた。会場ではざわざわと騒めいていたが、リョーマが失格になるようなことにはなっていない。
やがて足音が響き、彩香はそちらを向いた。
そこにはいつもの彼の顔があり、彩香は微笑んだ。その微笑みにリョーマは一瞬驚きながらも、いつもの生意気そうな笑みを浮かべた。
「彩姉には悪いけど……優勝するのは青学(うち)だから」
「ふふっ…期待してるね。リョーくんが勝てますように……」
そう言って彩香は数年ぶりに、リョーマにしていたおまじないをかけた。
いきなりのソレに一瞬動じたリョーマだったが、笑って
「信じてていいよ、彩姉ちゃん」
そう言って、会場へと入れば歓声が沸き起こる。誰もが彼を待っていたのだ。
ラケットを振り上げ、一点を差した。
「お待たせ」
さぁ、いよいよ最終決戦が始まる。
彩香は階段を降りる途中でコート内にいる幸村を見た。
会場内に吹く風は不規則でハタハタと彼の羽織ったジャージを揺らしていた。
病院で、学校で、試合会場で見せた顔とは全く違う。優しげな表情とはかけ離れ、そこにいるのは『王者 立海』を束ねる部長としての顔なんだろう。
視線に気づいたのか、ゆっくりと視線をこちらに向けてきて、眸が合った。
その眸はガラス玉のように冷たく無常さを感じた。が、彩香はそれに対し怯むこともなく、微笑した。
試合を、テニスを楽しんでくれればそれでいい。
彩香はコート内に入ったリョーマと幸村を眺め、ただそんな風に思ったのだった。
そうもいかないだろう、と心のどこかで分かっていながら。
テニスを純粋に楽しんで欲しいと願った。
1人は記憶を失っても尚思い出したように、もう1人は二度と出来ないと言われ復活したのだからと。
タンッと最前列へとたどり着き、手塚の隣に並ぶ。
「いよいよだね」
「あぁ」
いよいよ、優勝を決める試合が始まるのだった。
To be Continued
あとがき
もうすぐ第1部終わり……かと思う。
リョーマへのおまじない……前回でので察しがつくと思いますのであえて書きませんでした。
2009/09/20