27
倉橋さん(と黄口さん)が教室を出て30分、参加者は出発することになった。
海原祭は中、高、大と合同で行われている。だから倉橋さんたちは中学エリアのみで逃げているらしい。
制限時間は1時間。誰よりも先に彼女を見つけだしてみせる。とは言ったもののこの広い場所から見つけるのはなかなか厳しい。
赤ずきんの格好をしているとはいえ、本当にしているのか不明だ。
制服は教室に置いてあるはずだから、着替えることは不可能なはず。とりあえず、探すことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
このゲーム、はっきり言えば僕は不利だった。慣れない校舎、しかも学園祭ということもあり人がごった返している。
姿格好もその雰囲気に合わせて、へんな格好も多い。
ああ、手塚ならそんなこと気にすることもなく、倉橋さんを見つけられるんじゃないか、と思いながら案内図を眺めながら、校舎を回った。
(手塚にも負けたくはないけど……幸村にも負けたくはないな)
わざわざ僕らが来た所へやってきた幸村。
倉橋さんが彼を格好いいと褒めた瞬間、ざわりと胸が騒めいた。
嫌な予感は当たるモノで、分かってしまった。彼が、倉橋さんに気があることを。
だからこそ、負けられない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
時間は少し遡る。
「…………大丈夫かな、紫ちゃん…」
ボソリと呟いた声音は隣の彼に届いた。
「気にすることなか。紫はなにやら楽しんどるからのぅ」
「……でも、ごめんね。仁王くん、せっかくのデートだったんでしょ?」
「まぁの。しかし面白いもんも見れたじゃき、あと少しの辛抱じゃ」
ポンと頭を撫でられ、彩香は困ったように笑ったのだった。
「ついたぜよ。ここなら誰も来ないじゃろ」
連れてこられた場所は立海男子テニス部の部室だった。
紫はといえば彩香と制服を交換し、彩香の代わりに赤ずきんのコスプレをして歩き回っている。
「ごめんなさい、暫く隠れさせてね」
「時間までゆっくりしとんしゃい。ほんじゃ、俺は楓に報告してくるか、じゃあの」
「ありがとう、仁王くん」
ペコリと頭を下げると、頬をポリポリと掻いて、楓へ知らせに歩いていった。
(なんつーか、眩しくてかなわん感じじゃ…)
そんなことを思う仁王だった。
部室に残され、彩香は何も弄らないよう置いてあった椅子に腰を下ろした。
テニス部の部室というのは初めてて(青学の時すら入ったことはない)ついついキョロキョロとしてしまう。
壁には写真が並び、トロフィーなども飾られている。意外にも綺麗な部室に感心してしまった。
「これって……幸村くんたち?」
近づいて見た写真の日付を見れば、それは2年前の全国優勝した時のであろう。
今よりもっと少年らしい見覚えのある3人が真ん中に並んでいる。
「……へぇ、柳くんって髪長かったんだ…」
幸村くんも相変わらず綺麗な顔立ちをしていて、2人は女の子みたいに見える。なんて思ってしまった。
真田くんは、男らしいというか格好いいという印象がある。
「……すごいなぁ…」
なんとなくそんな言葉が口から零れた。それからはあまり見てはいけないと思い、また腰掛けた。
ふぅと小さくため息をついてから、時間までを静かに過ごそうと眸を閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
探しても探してもどこにも彼女の姿はなかった。
「……まさか、中学エリアから出てないよな…」
そんな事を考えながら、視界に過る赤ずきんの格好。それを追い掛ける男たち。
だが不二は違和感を感じた。
(……倉橋さん?)
確かに赤ずきんの格好をしていたし、逃げているのは彼女に違いないと思うのだが、なにか違う気がする。
確認しようと不二は案内図を眺めてから、先回りをしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
人込みを掻き分けながら、辺りを見回すが彼女の姿は見当たらない。
途中、女の子たちが声を掛けてきたが「忙しいから」と断った。
こっちは少しでも早く彼女を見つけなくてはならないのだから。
(倉橋さんは普段どこに行くんだろう…)
同じクラスだといっても彼女のことは全く知らない。不二の方が彼女を知ってると思うと苦い感じが広がる。
華道部の和室を覗いたが姿はなかった。屋上庭園にも姿はない。
幸村はため息がちにコート近くの花壇までやって来たが、やはり見当たらない。
時間はあと20分もない。
喉が渇いたので部室に置いてあるドリンクを飲もうと、ドアノブを回すと椅子に寄り掛かって寝ている人を見つけた。
流れるウェーブからして紫だろうと近づいた時、呆気に取られた。
そこには、ウェーブのカツラをつけ、いつ制服に着替えたのか知らないが、探していた倉橋さんが寝ていたのだから。
「……倉橋、さん?」
「…………」
声を掛けても聞こえるのは寝息だけで、部室の外からは海原祭の喧噪が幸村の耳には遠く聞こえていた。
ずるり、と落ちそうになるカツラをなんとか床にぶつかる前に受け取り、机に置いた。
窓からの陽射しがキラキラとしている。どこか神聖な雰囲気に幸村は髪を一房取ると口唇を当てた。
「……捕まえた…彩香」
それでも、スースーと寝息をたてる彩香に微笑した。
こんなことはいけないと分かりながらも、止まることが出来なかった幸村はそっと白い頬に口唇を当てたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
先回りをして捕まえたのは赤ずきんの格好をしていたけれど、倉橋さんではなかった。
「……」
「……」
「……あなた、不二くんよね?」
「君は、切原さんだよね? どうして、その格好……」
捕まえた赤ずきんは、先日の夏祭りで会った切原 紫さん……切原くんのお姉さんで立海のマネージャーだ。
「あー…もしかして、不二くんも彩香を探してたりした?」
「う、うん…」
「そっか……いや、彩香が助けてって言ってたから時間まで私と制服交換して、隠れてるんだよね」
「……」
「彩香はテニス部の部室に隠れてるよ……っと、もうすぐ時間だね」
その言葉に時計を見れば時間は5分もなかった。
とりあえず「彩香と服を交換するから」と切原さんに言われて時間はオーバーしたから一緒に行くことになった。
そして、驚くこととなる。まさか、倉橋さんが幸村に捕まっていたなんて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「倉橋さん、そろそろ時間じゃき。教室に……」
「…………」
「……ゆ、幸村…」
ガチャと開いたドアを見れば、そこには仁王の姿。
なんでキミがここに倉橋さんがいること知っているんだい?
それに色々聞きたいことがあるな、と思っていれば「……んっ…」と擦れた声が聞こえた。
ムクッと起き上がり、こしこしと目蓋を擦っている倉橋さん。
「……あれ…」
寝呆けているのかは分からないけど、可愛いらしい仕草にドキッとしつつも、俺は倉橋さんへと近づいた。──そして
「……幸村、くん?」
「捕まえたよ、倉橋さん」
「ふぇっ?」
どさくさに紛れて抱きしめれば、甘い薫りがする。──それは以前貰った匂袋のと同じ薫りだった。
仁王がニヤニヤ笑っているけど、気になんてしない。君とデート出来る機会が与えらるしね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう時間は制限時間をとっくに過ぎてしまっていた。
切原さんの案内で立海テニス部の部室前にくれば、そこには倉橋さんと幸村の姿。その後ろに困ったように立つ仁王の姿。
「あ、紫ちゃん! 不二くんも」
「彩香、ももももしかして…」
「あー、うん、幸村くんに捕まっちゃって……」
「っ、幸村ーっ!」
「なんだい、紫? ……残念だけどその格好は紫には似合わないね」
「っ! わ、分かってるわよ!」
幸村と切原さんがなにか言い合っているからか、倉橋さんが話し掛けてきた。
「不二くんももしかして参加したの?」
「うん、困っていたようだからね」
「そっかぁ、なんだかごめんね。ありがとう」
微笑する彼女に触れたくなった、が彼女はそのまま切原さんに話し掛け、着替えをするといって部室へ入っていった。
「フフっ……倉橋さんとのデート、楽しみだな」
「──悪いけど、僕は倉橋さんを諦めるつもりはないし、譲るつもりはないから」
「それは俺もだよ、不二」
「クスッ…」
「フフッ…」
「(……なんか寒いぜよ…)」
2人が笑い合うのを見て仁王は背筋が凍っていたのだった。早く紫たちが来るのを願いながら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
教室へ戻れば、彩香が幸村に捕まったことでそのイベントは終了した。
教室には交代時間で既に着替え終えていた楓と、紅茶を飲んでいた手塚の姿があった。
彩香もそそくさと着替え、その後は少し様子のおかしい不二と手塚を楓と一緒に案内すると言って、教室から出ていった。
幸村はその様子を眺めながらも、委員長から渡されたデート権である『遊園地』のチケットを見て、微笑した。
それを大事そうにポケットにしまうとテニス部の模擬店へと足を運んだのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「不二くん、どうかした?」
彩香は教室に着いてからあまり話さない不二の様子が気になって声を掛けた。
「もしかして、疲れちゃった?」
「そんなことないよ」
「本当に?」
「うん。……ただ」
「ただ?」
「倉橋さんとは違う学校なんだなって、思い知らされた気がしたんだ」
少し哀しげな様に彩香は何も言えなかった。
なんと答えたらいいのか分からなかった、それほど不二の様子が違っていたから。
「(……つまらなかった、のかな…)」
少し淋しくなった彩香だった。
To be Continued
あとがき
少し迷いました。どちらに見つかるべきかと…。
一応、不二とはデートしてるのもあり、勝者は幸村で。
切原姉はヒロインの代わりに撹乱しておりました。不二もかかった1人です。
どう展開しようか迷ってます、こうなって欲しいなどあれば拍手などで出して下さると嬉しいです。
参考になりますので。
2009/10/05