29
不二くんから話がある。と言われて私はどこか話が出来る場所を探した。
本当はその場で聞こうかと思ったのだが『他の人に聞かれたくないんだ』と言われ、校舎裏へとやって来た。
「……」
「……」
「あの、不二くん? ここじゃダメ、かな?」
「あ、うん。いいよ」
そうは言ったもののなかなか話を切り出さない不二に彩香は首を傾げた。
今日の不二はなんだかいつもと違う気がしてならない。
少し寂しげな様子につまらなかったのかな、と彩香は心配になった。クラスのイベントにまで参加させてしまったし、迷惑、だったかな……?
そう思うと彩香はなんだか悲しくなってしまった。
青学にいた時、友達と呼べるのは男子テニス部の人たちだけで、(1年の時の事で)怖かった時期もあったけど、個人個人ではとても優しい人たちでホッとしていた。
もちろん、不二も友達だと思っていた。国光の親友と言ってもいい彼はなにかと優しくしてくれたりした。なのに──。
(……どうしたのかな…)
「………」
黙る不二を彩香はただジッと見つめるだけだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話がある。と言って、倉橋さんに連れて来られたのは文化祭の喧騒が少し遠退ぐ校舎裏だった。
手塚は真田に呼ばれ、テニスコートの方へ行った。きっとテニスの事など話し合うのかもしれない。
ただ二人が並んで歩いてる姿を見て『年齢不詳だよね、二人とも』と笑ったのは仕方がない。
さっきから、倉橋さんが少し困った顔をしていて、自分から『話がある』と言ったのにも関わらず、そんな顔もいいな…。と違うことを考えていた。
「……あの、不二くん?」
心配そうな声音にハッとなった。
告白すると決めたのは自分なのに……こんなに弱気になるなんで僕らしくもない。
ただ、本気で好きになった相手に気持ちを伝えるのがこんなに緊張するものだなんて知らなかった。
そう思うと、いつも真っ赤になって告白してくれた女の子たちに申し訳ないと思った。
だってこんなに勇気がいるだなんて、思わなかったから。
「いきなりだけど……倉橋さんは、気になる人とかいる?」
「気になる人?」
「うん」
ん〜、と考える姿を見つめながら、返事を待っていた。その時間は決して長くなどないのに、やけに長く感じた。
「うーん、い「見つけたぞ! 倉橋さん!!」……へ?」
「は?」
『いる』か『いない』かを聞くだけなのにいきなり割り込んで来た声に、僕も彼女も驚いて横を向いた。
そこには立海の制服を着た男子。
いったい、何の用なのかな?はっきりいって邪魔だよ。
「えっと……あの、谷くん、?だっけ……?」
「田代だって。君はそうやって俺の気を引きたいのかい?」
「えっ、違っ……きゃっ!」
見れば、谷だか田代だかよく分からないヤツが倉橋さんの手を握っている。
僕は素早くその手を掴み、捻り上げた。
「彼女に触れないでくれないかな、嫌かってる」
「っ、不二くん!」
「な、なんだお前はっ! は、離せっ!」
抵抗するなんていい度胸だね。
ぐっと力を込めて押し出すと、そいつは呆気なく尻餅をついた。
「くそっ! なんで邪魔するんだ、その女は俺のだぞ!!」
その言葉に「は?」と呆れる。
倉橋さんに名前すら覚えられてないお前なんかが?
振り向けば彼女は困ったように眉を下げ、キュッと僕の服の裾を握った。
怖いのだろうか、少し涙目になっている。
「キミこそ何を言っているんだい? 彼女……彩香は僕の彼女だよ」
「っ不二くん!?」
嘘を吐くなり、僕は倉橋さんの肩に手を回し、白い頬にチュッと口付けた。
「お、おおおお前っ! 何をっ」
そう言い放つ男の横の壁にダンッ!と足を置いた。
そして耳元でボソリと呟けば、ヒィっ!と言って走り去ってしまった。
振り向けば、顔を真っ赤にして頬に手を当てている彼女の姿。
驚いてしまっているのか呆然としている……とりあえず今の姿は見られてないようだ。
「倉橋さん……」
「……」
「倉橋さん…」
返事がない彼女が気になって、頬に当てている手に、僕は自分の手をそっと重ねた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前を呼ばれて、返事をしなくちゃって分かっていたのになぜか身体が動かなかった。
頬にキス、だなんて大したことないはずなのに……なんでこんなに顔が熱いんだろう。
国光やリョーくんとは彼は違う。違うからこそ……
「倉橋さ「イヤッ!」」
気付けば不二くんの手を払ってしまった。
彼の顔を見た瞬間、サーッっと血の気が引いた。傷つけてしまった──。
「あ、……ご、ごめんな、さい……」
ただ不二くんは助けてくれただけなのに。ただしつこいあの谷くん?を追い払ってくれようとしただけなのに……。
ザァッと風が吹いてくる。海が近いせいか潮の匂いがして、少し寒い……。
「彩香? 不二? どうかしたのか?」
聞き慣れた声にハッとして振り返れば、そこには国光と楓ちゃん、幸村くん、真田くんたちがいた。
その瞬間、私は国光へと抱きついていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
彩香と不二がなにやら話すことがあるから、とどこかへ行き、俺は真田にテニスコートに来ないかと誘われ訪れた。
さすがは『王者』と呼ばれているだけに設備はきっちりされていた。
その後はテニスに関すること、腕や脚、あの時の試合など話していれば沢渡や幸村、柳や乾までもいた。
「あれ、彩香は?」
「あぁ、不二と話があるとかであちらに……」
そう指差せば、幸村がピクリと動いたのが分かった。が見ればそこには血相をかいて走る男の姿。
「アイツ、田代じゃない。田代の行く先、彩香あり」
そう話す沢渡になんだ、それは?と疑問を抱けば、彩香にストーカーめいた事をしているとか……許さん。
それにあの男が走って来た方向は彩香たちがいる方だ、不二がいるから大丈夫だろうと向かえば、二人を見つけた。
ただ何か様子がおかしい気がして声をかけた。
「彩香? 不二? どうかしたのか?」
途端、ドンっ!と重みが身体にぶつかる。抱きついて来たのは彩香だった。
「彩香? どうかしたのか?」
問い掛ければ、胸に顔を押しつけたままふるふると頭を振った。
不思議に思いながら、不二の方をを見れば顔を青くしていた。
「……不二、何かあったのか?」
「…………」
「不二っ!」
「ち、違うの!」
「彩香…」
「不二くんは助けてくれただけで……別に、なに、も……」
ぎゅうっとシャツを掴み訴える彩香の顔が赤くなっている。
仕方なく俺はため息とともに、彩香の肩をポンポンと叩いた。
告白でもされたのだろう。きっと彩香も驚いているだけだろう、そう思った。
「……そろそろ帰ろうかと思うのだが、不二」
「そうだね、もう終わる時間なんだろう」
「う、うん。一般公開は4時までだから……」
答えたのは沢渡だった。彩香は未だに俺にしがみついている。そのせいで多少殺気が交じった視線を感じるが。
「彩香、大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫…。あ、あの、不二くん……。さっきはごめんなさい……助けてくれて、ありがとう」
「……ううん。僕の方こそごめん……」
「……」
「……」
この微妙な雰囲気に誰も声を出さなかった。
「幸村部長〜、真田副部長〜、そろそろ終わり……っス……よ……(な、なんだ、この微妙な雰囲気…)」
「あぁ、今行く。では、またな手塚、不二」
「あぁ、また会おう」
「……あ、彩香。私たちも行かないと…」
「う、うん……。じゃあ、またね。国光、不二くん……」
「ああ」
「うん。またね、倉橋さん」
彩香は離れると、苦笑いをしてから手を振って沢渡と行ってしまった。何度かチラチラと振り向きながら。
「……行くか、不二」
「……あ、うん…」
ジッと彩香を見つめる不二に声を掛け、俺たちは立海を後にした。
とりあえず、彩香が言ってくるまでは俺は何も聞かないことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
きちんとした片付け作業は明日だが、とりあえず片付けをしてもうすぐ後夜祭の時間だった。
楓とグランドに向かう途中でポケットに入れていた携帯が震えた。
メールかと思ったが、いつもより長いと思い、携帯を見れば着信だった。
【着信:不二 周助】
その名前に頬が熱くなるような気がした。
「か、楓ちゃん…。先に行ってて、電話してくる」
「もうすぐ始まるから早くね〜」
「うん」
ひとまず、人があまり来ない校舎脇へと逸れ、未だ震えている携帯の通話ボタンを押した。
「、もしもし…」
『あ、倉橋さん……良かった出てくれて』
「ごめんね、すぐに出れなくて。移動してて……」
『……こっちこそ、ごめんね。さっきも』
“さっき”というのはさっきのことだと思うと彩香の頭の中に『どうして』という気持ちが生まれてくる。
例え、谷くん?から助ける為に彼氏のフリをしたのだとしても、頬にキスするのはやり過ぎたと思う。
「……あ、の……なんで…」
『……』
「なんで、あんなことしたの?」
『……倉橋さん』
「はい?」
『本当はちゃんと君を見て言いたかったんだけど……僕は君が好きなんだ。だから──』
──付き合って欲しい。
その言葉に彩香は驚きを隠せなかった。
「っ、」
『君が僕にそういう気持ちを抱いてないのは知っている。だから、それを踏まえて僕の事を考えて欲しいんだ……恋愛対象として見て欲しい』
「……」
『返事はいつでも待ってるよ、考えておいて』
「彩香ー? 彩香、どこぉ? 後夜祭始まるよー」
反対方向から声が聞こえると電話先の不二くんは苦笑して『クスッ…じゃあ、切るね。後夜祭楽しんで』と言って切ってしまった。
耳から携帯を離し、呆然としてしまった。
思いがけない告白に、彩香はその場にしゃがみこんでしまうしかなかった。
(だって……そんなこと考えたことも、なかった……)
ずっと友達だと思っていたから……。
To be Continued
あとがき
はい、不二選手先攻いたしました。
うーん、ここからどうしたらいいのか私も分からなくなって来ました……。
2009/11/03