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テニスの王子様
- From:幸村 精市
Sub:こんばんは突然だけど明日、空いてるかな?
チケット使おうと思うんだけど。
‐‐‐END‐‐‐
海原祭から1日が過ぎ、今日は1日かけて、各自の後片付けをした夜に幸村くんからメールが入った。
明日は振替休日。
彩香は携帯を片手にカチカチと文字を打っていく。
「……空いてるよ、っと」
送信ボタンを押して、机の上に置いてあるチケットを手にした。
幸村くんが「赤ずきん」を見つけた景品の1日フリーパスポート。
行きたかった遊園地であったが、本当に私でいいのだろうか?と首を傾げてしまう。
そんなことを考えているとメール音がなり、ブブブと携帯が震えた。
- From:幸村 精市
Sub:良かった明日、9時に駅で待ち合わせ、でいいかな?
‐‐‐END‐‐‐
それに対し彩香は色々考えた結果、いいよ。とメールを返した。
自分と行く、と幸村くんが決めたならそれでいいやと思いながら、階下にいる母達に明日出掛けることを告げる為、部屋を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ベッドの上に放っておいた携帯が鳴り、幸村はそれを手に取った。
受信箱にある未読メッセージを見て、口元が緩む。
- From:倉橋 彩香
Sub:オッケーです9時に駅だね。大丈夫です。
楽しみにしてるね、また明日。
‐‐‐END‐‐‐
「……楽しみにしてるね、か……俺もだよ」
フフッと微笑して、ベッドに仰向けになった。
俺ともあろう者がここまでなるなんて、正直思わなかった。
思いがけないクラスイベントで彼女を捕まえることで出来て、本当に良かったと思っている。
もし、自分以外のヤツが彼女を捕まえていたら、きっとそいつを叩きのめしていたかもしれない。
まぁ一番侮れなかったのは不二だったが、今回は立海(うち)で開催されたことが大きなハンデだった。
不二は立海に慣れてないし、これが青学だったなら負けていたかもしれない。
そう思うのと同時に、後夜祭での彼女の様子を思い出す。
「なんで、いきなり……あんな事を…」
──好きな人、いる?──
それには「気になる人ならいる」と答えた。考えてみれば告白すればよかったのかもしれない。
でも、彼女にはきちんと自分を知って欲しい、そして好きになってもらいたい、と思った。
あのタイミングではきっと断られると思うから。
だから、俺を知って欲しい、君を知りたい。色んなことをもっと。
「………彩香…」
君の名前を呼びたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
久々の遊園地にわくわくしながら、駅に行くと幸村くんの姿を見つけてびっくりした。
慌てて携帯の時計を見たが、まだ約束の15分前。
「ゆ、幸村くんっ!」
「おはよう、倉橋さん。早いね」
「幸村くんこそ、まだ15分前だよ?」
「君を待たせる訳にはいかないからね」
フフッと微笑する幸村くんに思わずドキッとしてしまう。
綺麗な顔だから見惚れてしまう。
「あ、ありがとう」
「じゃあ、行こうか」
そっと手を差し出され、え?え?と慌ててしまう。
「ごめん、イヤだったかな?」
「ううん! そうじゃなくて……」
まさか、絵になるなぁなんて言えなかった。あまりにも様になってて、格好いいと思えた。
「……ありがとう…」
未だ差し出されていた手をとって、二人は駅構内へと入っていく。
今日は平日ということと通勤ラッシュ時間からズレているので人は少ない。
ガタンガタンと揺れる景色を眺めながら、学祭のことなど談笑していれば遊園地の最寄り駅へと到着した。
「やっぱり平日だけあって人がいないね」
「何か贅沢な気分だよね、あまり並ばなくても乗れるのって!」
「フフッ、そうだね。何から乗ろうか? 苦手なのがあったら教えてね」
「うん、ありがとう!」
遊園地に来たら先ずはコースター系という事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
意外にもスピード系の乗り物に強い倉橋さんに驚きながらも、笑顔を向けられてとても嬉しかった。
「そろそろお昼にしようか?」
「幸村くんは何が食べたい?」
「うーん、俺はなんでもいいよ。倉橋さんは?」
「私? 私もなんでもいいんだけど…」
「じゃあ、あそこでいいかな?」
指差した先にはレストラン街。
彼女はうん。とにっこりと笑って俺たちは食事にした。
メニューを見ながら、なにがいいかな〜と選ぶ姿に微笑んでしまう。
学校生活が始まったとはいえ、まだ半月も経ってない。同じ教室にいても海原祭の準備でこんな彼女は見たことがないから、つい頬が緩む。
「幸村くん、決まった?」
「うん。倉橋さんは?」
「私も決まったよ、じゃあ押すね」
ピンポーンと音が鳴り、店員が注文を取りに来て、料理が来るまで雑談をした。
「来週からテストか〜」
「倉橋さんは苦手な科目あるのかい?」
「ん〜、どうだろ? 特にない、かな。幸村くんは?」
「俺は、化学かな。あの薬品の匂いとかが病院を思い出させて…」
「…………」
「ああ、そんな悲しそうな顔をしないでいいよ。化学室に入らなければいいだけなんだし」
「うん、なんかごめんね」
「こちらこそ。そういえば今年はシルバーウィークってあるんだね」
悲しげな顔を見たくなくて、話題を変えた。
確か、今年は……。
「そうだね、テスト休みもあるから1週間も休みになるなんて嬉しいな」
「フフッ、そうだね(その間、君に会えないのが残念だな)」
そんな会話をしていれば頼んだ品がテーブルに並び、食事にした。
午後からはまだ乗り物に乗ったり、パレードを見たりして楽しく過ごせた。
好きな子と一緒にいると時間も早い。ラストに観覧車に乗ることにして並んでいた。
「う〜、怖かった〜…」
「フフッ、倉橋さんかなり驚いていたね」
「だってまさかあそこで出るなんて思わなかったんだもの〜、不意打ちだよ〜」
「フフッ」
おかげで倉橋さんに抱きつかれるというナイスハプニングに、俺は嬉しかったけどね。
「あ、ほら順番が来たよ」
ゴンドラがガタンと音を立てる中、俺たちはそれに乗り込み、遊園地のアトラクションが小さくなっていくのを眺めていく。
高くなるにつれ、遠くに海が見え太陽によって水面がきらめいていた。
「今日はありがとう」
「こっちこそ、楽しかったよ」
「でも、本当に私でよかったの? 気になる人がいるならその子誘えばよかったのに…」
申し訳なさそうに見つめてくる倉橋さんに、胸が痛くなる。
そんな訳ない。君と来たかったのだから。
「いくらイベントの景品?とはいえ、捕まえた人と1日デートってないと思うんだけど……もっと可愛い子いるんだし…」
ブツブツと文句を言っているのはきっと企画をした委員長に向かっているんだと思う。
蓮二の言う通り、倉橋さん自身は知らないんだ、自分がどれだけ人を惹き付けているかを。
「……俺は、倉橋さんと来たかったからそれでよかったと思ってるよ」
「幸村くん……ありがとう、そんな風に言ってくれて。でもそういう事は気になる人に言ってあげて」
倉橋さんの言葉に苦笑せざるおえない。鈍いんだね、君って。
「(……うまくいかないもんだなぁ…)フフッ」
「わぁ、頂上だよ」
「ホントだ。景色が最高だね」
「うん!」
満面の笑みを浮かべる彼女に、ホッとした。
「よかった…」
「え?」
「元気そうで」
キョトンとしている彼女に笑って、続けた。
「後夜祭の時から倉橋さんの様子が少し違っていたから、気になっていたんだ。昨日も何かアレだったし…」
そう、なんだか違っていた。
何が?と聞かれれば、どうしたと具体的なことは言えなかったけど、どことなく考えてたりしていたから、気になっていた。
「…え、あ……それで、今日誘ってくれたの?」
「……うん、ごめんね。いきなりで」
「ううん……ありがとう。優しいんだね、幸村くん」
笑う姿にホッとする。余計なお世話とかだったらどうしようと思っていたから。
「何か悩み事? 俺でよかったらいつでも相談していいよ、」
君の力になりたいから。と言えばほんのりと頬を染めて、ありがとうと言ってくれた。
「でも、自分で考えなくちゃって思うの。私がどう思っているか、どう感じているか、中途半端だと傷ついてしまうから」
「……そっか」
「あ、でも……幸村くんの気持ち、とても嬉しかったの! そんな風に言ってくれて、ありがとう」
「ううん。倉橋さんだから、だよ」
「え?」
ガタン、とゴンドラはいつの間にか一周してしまったらしい。
係員のお姉さんが「お疲れさまでしたー」と元気よくドアを開けて言った。
もうすぐ陽が暮れる。
俺たちは観覧車でのことは触れずに、来週から行われるテストの事を話ながら帰路へついた。
「送ってくれて、ありがとう」
「いいよ、家に帰るまでがデートだからね」
そう言うと顔を赤く染める倉橋さんに胸の鼓動が早くなる。
「風船も、どうもありがとう」
彼女の手には白いハートの風船の中に一回り小さな赤いハートの風船。
「記念になれば、と思ったし、倉橋さん欲しそうだったから」
「なんか、恥ずかしいなぁ……幸村くん、今日本当に楽しかった! デートって初めてだったけど……相手が幸村くんでよかった」
「っ、そ、そう。俺も楽しかった。じゃあまた明日」
「うん、また明日。気をつけてね」
そう言っていつまでも手を振ってくれる倉橋さんに口元が緩みまくるのを手で隠しながら、俺は帰り道を歩いた。
(……ああ、君が好きだ…)
To be Continued
あとがき
はい。遊園地篇でした。
すみません、管理人遊園地にはあまり思い出がないので、テキトーになりました。
不二はどうしたって感じですね。
次、頑張ります!
2009/11/15