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テニスの王子様

合宿当日、まだちょっと早い時間校門前に彼らは並んでいた。

「今回はよろしく頼むよ。倉橋さん、楓」

「お役に立てるか分からないけど、こちらこそよろしくお願いします」

「ふぁ……まぁ、よろしく」

ペコリと頭を下げる彩香とは反対に楓は欠伸をしながら幸村に応えた。
部員への紹介は先日行ったので、合宿所までの送迎バスへと各自乗り込む。
彩香と座ろうと思っていた楓だったが、柳に押され何故か真田の隣、柳はその後ろに座り、通路を挟んだ反対側に彩香は幸村と並んでいた。
紫は仁王と並び座り、一番後ろに席には赤也、ブン太、ジャッカル。柳生はといえば柳の隣にいた。

「隣、よろしくね。幸村くん」

「フフッ、よろしく。倉橋さん」

柳の粋な計らいに幸村はニコニコと機嫌がいいのか、終始にこやかだ。
今回の合宿は跡部の別荘で5校で行われるものだった。
全国大会も終わり、3年は引退の時期でもあるが後輩指導をするので部員が多く参加する。
参加校は主催者側の氷帝、青学、立海、四天宝寺、不動峰。
正式なマネージャーは紫のみだが、手伝いという形で彩香と楓、青学からは1年生女子2人、不動峰から1人の6人らしい。
柳がそんな説明をしていると、不意に幸村の左肩にぽすっと重みがきた。

「…………」

見れば、小さな寝息を立てている彩香がいて、幸村はどうしようかと思った。
まだ朝早い時間の集合、いきなりの参加に疲れているのかもしれない彩香を起こすのに戸惑う。
まして、このぬくもりと目の前にある無防備な寝顔を見ていたいのだ。

「……どうかしたのか、精市」

「ん、倉橋さん、寝ちゃったみたいで……」

「きっと急なことでお疲れなのかも知れませんね」

「話の途中で寝るのとはたるん「真田、黙ろうか」……っ、しか「真田?」う、うむ!」

(……愚かだな、弦一郎)

(アホだわ、弦一郎)

(馬鹿ですか、真田くん)

幸村と真田のやり取りを間近で見ていた、柳、楓、柳生はそれぞれそんなことを思っていた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


真田が騒いで彼女が起きるかもしれないと思い、幸村は真田に注意をしたが、その間彩香は目を覚まさなかった。
触れる肩からじんわりと伝わるぬくもりに幸村は微笑しつつ、悪いとは思いながら、寝ている彩香の顔を眺めていた。
白い肌に健康そうな血色のいい口唇、睫毛は長く、影を落としていた。

(倉橋さんこそ、白雪姫のようだ…)

海原祭でやった芝居で自分よりやはり彼女の方が似合うと思う。
実際、紫が無理をいって着せた白雪姫の衣装は本当に似合っていたし。
だが眠っているので白雪姫というよりは、今は眠り姫と言った方がいいかもしれない。

(……ここで口づけをしたら、起きるかな…)

分かり切っている答えなのに、ふとそんなことを思ってしまう。
願わくは自分以外の口づけで起きてしまわないで欲しい……。
まだ恋愛の意識をしてないならば、俺を意識して欲しい。
誰も見てないのを確認してから、幸村は彩香の白い頬に口唇を落とした。

「……んっ……んぅ…」

キスしたせいか、眠そうな瞼を擦りながら、彩香は眸を開いた。
そして

「っ、ゆ、幸村くんっ! え、やだ、私寝ちゃてた!?」

やだ!と顔を真っ赤にして彩香は飛び起きた。

「フフッ、気持ちよさそうに寝ていたよ」

「ごめんなさい! 寄りかかってたよね……重かったでしょ?」

「そんなことないよ。それに急だったから準備も大変だったんだろうし……合宿が始まったらきっと忙しいだろうから、今はまだゆっくりしてていいよ」

ニコリと笑って幸村は彩香を見た。
見れば真田の隣に座っている楓も窓に寄りかかり寝ていた。

「……ありがとう。合宿でサポート頑張るね」

彩香はそう言って微笑んだのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


バスで数時間過ごし、たどり着いた場所は緑に囲まれた空気の良いリゾート施設だった。
彩香はバスから降り、目の前に建つ大きな別荘、というよりはホテルにしか見えない建物に唖然とした。
隣にいた楓も同じで「なに、これ」と呟いている。

「アーン? 遅かったじゃねぇか、幸村」

「フフッ、遅れてすまなかったね、跡部」

「他の奴らはホールで待っているから来てくれ」

「じゃあ、行こうか」

エントランスで待っていた氷帝の部長に挨拶し、各自荷物を持って後を着いていった。

「他の学校は来てるみたいだね」

「うん(国光も来てるんだよね。……あと、不二くんも)」

そう思うと少し胸が苦しくなった。どうしよう、と思いながら。

ホールに入ると各校とも並び、部長たちは前に並んでいたようで、彩香はすぐに手塚を見つけた。
それは手塚も同じ様で、小さく手を振る彩香に頷いたのだった。
開会式が始まり、選手の前には各校の部長と先生方が立っていた。
彩香には竜崎先生しか分からないが、他にバッチリスーツを着た男性と、無精髭を生やした先生の三人しかいない。

(……立海と、不動峰だっけ? 顧問っていないのかな?)

疑問に思いながらも話は進んでいた。練習時間や自由時間、食事やお風呂の時間ことなどを話し、マネージャーの紹介となった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


手塚から倉橋さんが立海の臨時マネージャーとして合宿に参加すると聞かされたのは、朝のバスでのこと。
聞いた瞬間、驚いてしまったのと、手塚にもっと早く言ってくれ!と思った。
海原祭で告白してから、未だに返事は貰えていない。互いに中間考査があったのとこの合宿があったからだ。
すぐに返事をもらっても良い返事は期待出来ないのは知っていた。
合宿が終わったら、改めて交際を申し込もうと考えてた矢先に、本人に会うことになるなんて……。
ホールで待っているとようやく立海が現れた。動きやすそうな水色のジャージを着ていた彼女を見つけたのはすぐだった。
でも彼女は手塚を見つけ、嬉しそうに笑い手を振っている。こちらには気付いてないようだ。
竜崎先生や氷帝の榊監督の話を聞き流していると、マネージャーの紹介が始まった。

「立海3年、切原 紫です。よろしくお願いしま〜す」

「立海3年、沢渡 楓。今回は臨時という形で来ました。よろしくお願いします」

「同じく立海3年の倉橋 彩香です。私も臨時ですがよろしくお願いします」

「不動峰2年、橘 杏です。よろしくお願いしまーす!」

「青学1年、小坂田 朋香です!よろしくお願いします!」

「同じく青学1年、りゅ、竜崎 桜乃です。よろしくお願いします」

マネージャーの自己紹介に英二や桃が「倉橋ちゃんだ!」と話しているのが聞こえる。
だけど相変わらず、可愛らしいと思えるのは惚れた欲目なんだろうか……。
隣に並ぶ氷帝の忍足が「美少女ばかりや」などと呟いているのが聞こえた。
……少し気をつけた方がいいかもしれない。

「それでは、昼食までは自由時間とし、午後からは基礎練をする!」

「まぁ、頑張りな」

「行ってよし!」

榊監督の解散宣言で開会式は幕を閉じた。
倉橋さんのところへ行こうとしたが、先生と部長、マネージャーはミーティングがあるから各自部屋に荷物を置いてくるように、と手塚に言われてしまった。
僕の同室は手塚か。うん、きっと倉橋さんと話す機会は沢山ありそうだ。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ミーティングを終えると彩香が近寄って来た。

「国光、今日からよろしくね」

「あぁ。あまり無茶はするなよ……あとあまり1人になるな」

集まった選手たちが彩香に何かするとは思えないが、集団で行動するのは多いだろうから、それで彩香が不安になるかもしれない。

「大丈夫、楓ちゃんと一緒にいるから」

「ならいいが……」

「手塚くん! 合宿の間よろしくね!」

「沢渡、こちらこそよろしく頼む。……あと、彩香のことも」

「まっかせといて! あ、手塚くんに話があるんだけどいいかな?」

「ああ、構わない」

やや首を傾げて見てくる沢渡に俺が答えると、彩香は気を利かせたのか「あっちに行くね」と切原のところへ行った。

「どうかしたのか?」

「んー、幸村がさ彩香のこと気になってるみたいなんだよね」

「そのようだな」

「それで、多分というか絶対に彩香の事聞いてくると思うの。幸村はしっかりしてるし、彩香を守ってくれると思うから……」

沢渡の言いたいことがなんとなく分かった。
幸村は彩香を何度か助けてくれている、と同時に彩香が恐がっていたのを見、気にしていた。
普通なら大したことではないかもしれんが……彩香のことになると過保護になるな。
彩香を見るとマネージャーたちと会話をしながら、こちらに手を振ってきたので頷いた。
その後、跡部と会話をしながら部屋へと戻ったのだった。



To be Continued



あとがき

全くもって話がグダグダと蛇行していてすみません!
何か要望などあればアンケのコメントにでもどうぞ。


2009/12/15


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