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テニスの王子様

──春、本日は始業式。
転校してから2ヶ月が経ち、まだちよっと不慣れだけれど、友人も出来て穏やかに過ごしている。
桜の花も綺麗に咲いて、風が吹けば髪とともになびかせる。

「彩香ーっ!」

「楓ちゃん」

不意に名前を呼ばれ、振り返れば転校してすぐに仲良くなった沢渡 楓ちゃんの姿があった。

「こんなところにいたの? ほら、クラス発表見に行こう」

「うん」

「同じクラスになれるといいね! 彩香はのんびりしてるから色々心配だわ〜」

「うっ……そんな言い方しなくても…」

「しっかりしているように見えるけど、結構迷子になるし──なんたって人を覚えるの苦手ときたしね」

「その節はご迷惑おかけしました」

「ま、しょうがないか。あんた、転校生だしね!」

「新入生並みに制服も新しいしね」

ピラっとスカートの裾を持ち、くるっと回って彩香は苦笑した。
2月に転入したとはいえ、3月は1ヶ月も通わず、春休みがあったので制服は真新しい。

「ふふっ、じゃあ行こ」

「うん」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ガヤガヤと騒がしいクラス表を見にくれば、3年生の所は凄かった。特に女子の姿が。
喜ぶ者もいれば、嘆いている者もいる。いったいなんだろう?

「か、楓ちゃん? これは……なに…?」

「ん、あぁ……テニス部よ、テニス部」

「テニス部?」

やや背伸びしながら掲示板を見ようとしている楓に彩香は首を傾げながら、訊いた。

「ほら、うちの男子テニス部って『王者立海』って呼ばれているの知ってるでしょ? 加えて、そのレギュラーがイケメン揃いなもんだから、ファンクラブやら親衛隊やらあるのよ」

「ファ、ファンクラブ!?」

「そう抜け駆けなんかしたら、恐ーいファンクラブの方々から狙われちゃうわよ〜」

「……す、すごいね……(青学でもそこまで酷くなかった……はず)」

1月まで通っていた青学を思い出し、みんなに会いたいな……と思ってしまう。

「あっ! 私たちまた同じクラスよ!」

「本当っ!? 何組?」

「C組、さぁ早く行っていい席取ろう」

「うん」

ギュッと腕を掴まれ、新しい教室へと目指して行った。

(そういえば、桑田くんは何組だったのかな……)

隣の席だった親切な元クラスメートを思いながら、掲示板の方を見れば、相変わらずすごい人混みだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


教室に入れば、黒板には『席は自由』と書いてあった。がすぐに席替えもするとも書いてあった。

「あーらら、すぐ席替えするんじゃ、早く来ても意味なかったわね」

「そだね。とりあえず空いてる席に座ろう」

ちょうど真ん中の席が2つ空いていたから、二人はそこに座った。
キョロキョロと周りを見渡せば、女子の様子がなんだか嬉しそうだった。
彩香は首を傾げ、隣の楓に聞いてみた。

「ねぇ、楓ちゃん。クラスの雰囲気、なんだか浮かれてない? 特に女子が」

「ん? あー、ちょっと待って。ねぇ、────」

楓が近くにいた女生徒に訊くと興奮したかのように、彼女が話し始めた。

「うちのクラス、幸村くんがいるのよ! 今は入院中だけど、退院したら同じ教室で過ごせるのよーっ!」

きゃあきゃあ!と喜ぶ彼女たちを見て、楓は呆れ、彩香はコソッと楓に訊いた。

「……楓ちゃん、幸村くんって?」

「男子テニス部の部長で、今は入院しているのよ。なんでもテニス界の貴公子とか神の子とか呼ばれるくらい強いみたいよ。しかも美形だから、校内で一番のモテ男よ」

「……へぇ…(テニス強いって、国光より強いのかな?)」

学校に慣れたかと思ったけど、まだまだ分からないことだらけだと、彩香は思いながら、楓と違う話題に花を咲かせた。
やがて、担任がやって来て、講堂にて始業式を終えた。
LHRになりクラス委員や委員会などを決め、席替えもした。
運良く楓と席が近くになり、窓際から二列目の後ろになれた。
隣は空いていたが、今日欠席したのは入院中の幸村の他にもいたため、結局分からずじまいのまま本日の授業は終わった。

「さーて、委員会行きますか! 彩香はどうする?」

「うーん、楓ちゃんは?」

「私は生徒会があるから。一緒に帰るなら、待ってる?」

「うん。じゃあ図書室で本読んでるよ」

「オッケー、終わったら行くから」

「分かった、待ってるね」

グッと親指を示す楓に彩香はニコッと笑った。

「慣れたとは思うけど、迷子になるなよ」

「が、頑張りまーす……」

「ほいじゃ、後でね〜」

「うん。生徒会、頑張ってね!」

鞄を持って、教室から出ていく彩香の姿を見ながら、楓は微笑した。
するとクラスの何人かが近づいて来た。

「ねぇ、楓。今のって倉橋さんだっけ?」

「そ、2月に転校して来た」

「なんか可愛いよね、友達になれるかな?」

「なれるって。でも可愛いっていうより面白いよ。慣れるまで大変だけど、気軽に話しかけてあげて……あーあと、わざとじゃないから嫌わないであげてね」

楓がクスッと笑うと何人かが顔を見合わせた。

「あの子、人の顔と名前を覚えるの苦手らしくて、覚えるまで全く違う名前で呼んだりするから面白いよ」

「そうなの? しっかりしてそうなのに」

「本当〜。でもなんか可愛いね、そういうの」

「うん、話し掛けるの楽しそうかも」

他の子たちも笑いながら、彩香が出ていった出入口をみていたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「えーっと、図書室は…こっちだよね」


てくてくと廊下を歩いていると、前方から元クラスメートが歩いて来たのに気付いた。
あちらも気付いたらしく、よぉと手を上げてくる。

「よぉ、倉橋か」

「こんにちは、桑田くん」

「……………………」

名前を呼ぶと、彼はそのまま固まってしまった。

「桑田くん?」

不思議に思い覗き込むと、はぁ〜とため息をつかれた。

「……俺の名前は桑原だ、ジャッカル桑原!」

「……あ、ご、ごめんなさいっ! 私ったら、また……桑原くんね、桑原くん!」

わたわたと慌てる倉橋を見て、桑原は苦笑した。

「桑原は呼びにくくないか? ジャッカルでいいんだぜ」

「う……でも、大丈夫! 桑原くん、覚えたよ!」

「ホントかよ」

うん!と頷く、転校して来た奴をみてジャッカルは笑うしかなかった。

(面白れーよな、コイツ)

なにより、良い奴だし。そんなことを思いながら、ジャッカルは話題を変えた。

「そういえば、倉橋は何組だったんだ? 俺はI組」

「そうなんだ、私はC組。楓ちゃんと一緒なんだ」

「沢渡とか、じゃあ安心だな」

「うん、楓ちゃん一緒だから嬉しくて。あ、私、図書室行くから」

「おぉ、じゃーな」

パタパタと小走りで行こうとしたが、パタと足音が止んだのに訝しげに振り返れば

「……桑原くん、図書室ってこっちでいいんだよね」

申し訳なさそうに聞いてきた。
ジャッカルは笑いながら「真っ直ぐ行って左だ」と答えると、ニコッと笑って「ありがとう」と手を振って行った。

「相変わらずだな…」

ジャッカルはそう呟くと、自分も委員会へと向かった。



To be Continued



あとがき

いきなり4月になりました(笑)
季節は結構飛ぶ予定です。すみません。
ヒロインは名前を覚えるのは苦手です。あと男子を名前を呼ばないのはちょっとした理由があります。(しょうもない感じですが)
男子にも自分の名前は呼ばせません。

ジャッカルと親しくなるのは当初からの予定。だって唯一の常識人だから(笑)


2009/04/23


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