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テニスの王子様

「とりあえず、これから4日間、選手のサポート頑張っていきましょう! じゃあ、改めてマネージャー同士で自己紹介しようか」

そう口に出したのは紫ちゃんだった。

「私は立海大附属の3年、切原 紫。2年の切原 赤也の姉でもあるわ、よろしく」

そう言って、紫は楓と彩香の方を見て、次を促した。

「立海大附属の3年、沢渡 楓。テニス部ではなく、今回は手伝いという形で合宿に参加だから、よろしくね」

「私は立海大附属、3年の倉橋 彩香です。私もテニス部ではなく手伝いなので、よろしくお願いします」

そう自己紹介すると、三つ編みをしている女の子がじっと見つめてくるのが分かった。

「……どうかした?」

問いかけると、その子はハッとしたように「ご、ごめんなさい」と謝ってきた。
その後、三つ編みの子は竜崎 桜乃ちゃん。元気いっぱいなツインテールの子は小坂田 朋香ちゃん。
ボブカットで不動峰中の子は橘 杏ちゃんで部長の橘くんの妹さんらしい。
因みに桜乃ちゃんは竜崎先生のお孫さんだとか。

「あ、あの……倉橋先輩って青学に通ってませんでしたか?」

チラチラと戸惑うように聞いてくる桜乃ちゃんに彩香は頷いた。

「う、うん。今年の1月まで通っていたけど?」

もう遠い昔のことのようで懐かしい。でもなんで知ってるのかしら?と思えば、竜崎さんは「やっぱり」と呟いた。

「桜乃、どうかしたの?」

「朋ちゃん、倉橋先輩って青学の学校案内に載ってた人だよ!」

「学校案内……、あーっ!」

小坂田さんが首を傾げながら、言葉を反芻したかと思えば、ビシッと指を差された。

「知ってる! 学校のパンフレットにモデルとして載ってましたよね!」

「「「パンフレット? モデル?」」」

「……あ、あれ…のこと…?」

「はい! 私、あの倉橋先輩の姿見て凄く憧れて……てっきりもう卒業した方だと思ってたから……。そういえば、男子のモデルって手塚先輩じゃなかった?」

「あ、そうだったかも」

楓ちゃん、紫ちゃん、橘さんは訳が分からないと?マークを頭の上に出しているが、彩香は恥ずかしくなった。
まさかあの学校案内の事を知ってる人がここにいるなんて(青学テニス部2、3年は知ってるが)
去年の秋に学校側から頼まれて、来年度入学案内パンフに制服モデルとして出されたのだ。
断ったのだが、生徒会と伝統のせいでやらなければならなかった。

「あー…竜崎さん、小坂田さんそのことは忘れて下さい」

「えー、なにそれ! そんなことやってたの彩香ってば」

「キャー、見たい! 彩香の青学時代の制服姿!」

「ちょっ、楓ちゃん、紫ちゃん!」

恥ずかしいから止めて〜と懇願したところで、二人は収まらずもなく、しまいには小坂田さんに送ってくれるように頼んでいた。
もう、早くミーティング始めようよ!
その時、思い出したように竜崎さんと小坂田さんが「そういえば」と声を上げた。

「実は青学の手伝いにもう1人来る予定なんです」

それを受けた紫は、プリントを捲って訊ねた。

「え? そんな話聞いてないけど?」

「実は2年生の方なんですが、桃城先輩が待ち合わせ時間を間違って連絡したみたいで、集合時間に間に合わなかったんです」

「えーと、それでその子は来るの?」

「はい……遅れてくるそうです」

「ふーん、そっか。じゃあ、分担は2人1組にしよっか。その子が来たら、私は1人で平気だから」

テキパキとマネージャー業を決めていく紫に彩香と楓は「さすがテニス部敏腕美人マネージャー!」と褒め称えのだった。
グループ分けは揉めることもなく決まった。

・楓、彩香
・紫、杏
・朋香、桜乃

あと、もう1人が到着したら、紫と変わってもらうということになり、皆に異存はなかった。
橘さんのことが気になったが、おおらかなのか「大丈夫ですよ!」と笑っていた。
とりあえず、明日からの予定などを決め、各自部屋へと行くことになった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うわーっ、すっごい部屋〜!」

マネージャーの部屋は3人、4人部屋と分けられている。
無論、3人部屋には立海の3人が、4人部屋には青学マネと不動峰のマネだ。

「スウィートルーム、というよりはデラックスルームってとこかしら……流石跡部財閥の別荘だわ…」

楓ちゃんが部屋を見ながらそんなことを呟いていたが、間もなく昼になる。今日は弁当持参だが。
夜は特別に跡部くんがマネージャーたちの体力も考慮してか、夜だけは食事の支度は、手配した方々がしてくれるらしい。
但し、後片付けなどは自分たち、朝、昼食はマネージャーが作るという形になっている。

「さって、お昼は各自弁当持参だから今日は何もしなくていいから楽だね〜」

「そうだね。あ、私国光のお弁当届けに行ってくるね」

「手塚くんの作ってきたの?」

「うん」

彩香はそういって部屋から出ていった。
部屋割りのプリントを見るとマネージャーと先生方は6Fで、後は2Fから各校が使用しているようだ。

「青学は3Fか……とりあえず電話しよ」

プルル…
電話の向こうから無機質な機械音が聞こえ、数回コールした後相手が出た。

『もしもし』

「私、彩香だよ。お昼食べた?」

『いや』

「今、どこにいるの?」

『2階にある多目的ルームだ』

「そうなんだ。お弁当、国光の分も作って来たんだけど」

『そう、か。すまないな、取りにいくか?』

「ううん、大丈夫。今から行ってもいい?」

『あぁ、構わない』

じゃあ、届けに行くね。と電話を切り、彩香は手塚がいる多目的ルームへとエレベーターに乗り込んだ。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


多目的ルームにて大石と竜崎先生とで1、2年の練習メニューについて話し合うことになっていた。
が竜崎先生は他の先生方と昼食を一緒にしてるらしく、まだその姿がない。
そして横で大石が珍しく焦っていた。昼食の弁当を忘れてしまったらしく、頭を掻いて苦笑している。
その時、携帯が震え、着信だと分かった。
相手は彩香で俺の分の弁当を作って来たらしい。ちょうど良かったと俺はそれを貰うことにした。
電話を切り、大石を見て口を開いた。

「大石、俺の弁当をやろう」

「え、ええ!? いや、悪いよ、手塚。俺のことは気にしないでくれ」

慌てる大石を眺めつつ、彩香が俺の分の弁当を持って来ていることを伝えれば、一瞬驚いたものの「そうか」といって弁当を受け取った。

「気にするな」

「すまないな、手塚。……だけど、倉橋さんとは…」

「彩香がどうかしたのか?」

「いや、なんというか、相変わらず仲がいいんだな、と思ってさ。その気を悪くしないで聞いてくれよ、二人が従兄妹だって分かっているけど……」

やや口籠もる大石の言いたいことはなんとなく分かっている。

「俺と彩香は従兄妹同士だ。仲は確かに“普通”の従兄妹よりは仲はいいだろうが、お互い一人っ子同士で兄妹みたいなものだ」

「そ、そうか。そうだよな、悪い。変なことを聞いて」

「いや、いつものことだ」

そう“いつものこと”だ。
幼い頃から従兄妹であると同時に幼なじみであった俺たちには。
何度も、何度もそう周りに伝えてきた。それでも誤解されるのは俺たちが“男”と“女”だから、それだけ。
それだけの理由で彩香は──。

コンコン

頭の中に過った思考はノックによって霧消された。
開いたドアの向こうには小さな頃から、絶えず見て来た彩香の笑顔。

「お弁当の配達に来ました〜」

「あぁ、ありがとう」

「蒲焼きが余ったのでうな茶お弁当を作って来たよ」

手渡された弁当を受け取った手塚は小さく笑ったのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


午後の練習は基礎練から始まった。
2年生を中心としてランニングから始まった。無論3年元レギュラーたちも参加するが、そこにペナルティはない。
だが、2年レギュラーたちは3年よりも遅れた場合、乾特製の恒例野菜汁をお見舞いされていた。
マネージャーたちはその間、ドリンク、タオルの準備、コート整備、ボール運びをしていた。

「あ、あの……」

声を掛けられ振り向けば、そこには見知らぬ女の子がいた。

「遅れてすみません! 青学臨時マネージャーの佐藤 佳代です」

「あぁ、無事に着いたのね。良かった」

「……っ、倉橋先輩」

頭を上げた彼女に名前を呼ばれ、彩香は驚いた。自分を知ってるとは思わなかったから。
だが、後ろから名前を呼ばれた。

「倉橋さん」

「不二くん…」

振り向けば、そこに不二の姿があった。あの海原祭以来会ってなかったので少し気まずかった。

「あ、不二先輩! 遅くなってすみません!」

「え、あ、ああ。佐藤さん、着いたんだね」

「はい! 四日間よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

佳代が不二に話し掛けているのをなんだか居心地悪く彩香は見ていた。
そして不二に笑いかけられ、頬をピンクに染める佳代を見て(好きなのかな……)と思った。
そんなことを思っている間に佳代は竜崎先生の元へ走っていっていた。

「倉橋さん…」

「え、あ……ひ、久しぶりだね」

「うん、そうだね」

「……あのっ…」

「今夜、9時に非常階段で待ってるから」

「え?」

不二の顔を見上げると青い眸とぶつかる。真摯な眼差しが彩香を真っ直ぐに見ていた。

「待ってるから」

再びそう告げて、不二は踵を返して歩いていってしまった。
彩香はそれをただ呆然と見つめていた。
その光景を影から見てる人物がいることもせず。






To be Continued



あとがき

合宿編、始動。
とりあえずこの合宿は1、2年生主体なので3年生は自由です。
新オリキャラは青学2年生です。
恋愛関係もやや進展するかもです。

2010/01/22


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