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テニスの王子様

午後練は乾特製汁を渡された後輩たちは阿鼻叫喚を発しながら、終了した。
レギュラーであった1、2年生はかろうじてそれを受けることはならずに済んだ者もいた。
夕食は学校毎ではなく、交流も兼ねて自由となり楓は彩香と手塚くんと一緒に夕飯を食べた。
なんだか弦一郎は煩く、幸村からの視線がなんとも言えなかった。

(一緒に食べたいなら声掛けりゃいいのに)

奥手というか慎重な幸村に楓は意外性を感じていた。
お風呂は大浴場があるらしく、マネージャーはみんなで入りに行くことにした。

「つか、なんで大浴場なんてあるのかよく分からないわね…」

「まぁ、跡部財閥だし……いちいち驚いてたら身が持たないわよ、楓」

溜め息混じりで湯船に入っていると、もう諦めろという感じで紫に言われた。

「そりゃそうだけど……って紫〜」

「な、なによ」

「胸、でかくなってんじゃない!?」

「なっ!? 何をバカなこと言って! 私的には彩香のカタチがとてもいいかと…」

「ゆっ、紫ちゃん!?」

隣でゆったり寛いでいた彩香は紫の発言にザバッと水しぶきをあげながら胸元を隠した。

「あー、彩香はああ見えて出るトコ出てるし」

「倉橋先輩ってプロポーションいいですよね…」

いつの間にか、他のマネージャーたちも彩香をジッと見ている。
それによって彩香は真っ赤だ。

「倉橋先輩って、手塚先輩と従兄妹同士なんですよね? どう見ても恋人同士にしか見えないんですが、どう思っているんですかー?」

ハキハキした小坂田さんが手を上げながら彩香に質問してきた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


今の時間、大浴場の男風呂は寄りにもよって青学と立海が使っていた。
隣に女子が入った途端、皆口数が減ったのは男の性だろうか。
反響してくる声は聞き覚えのある声、紫と沢渡だ。が紫の発言によって隣の精市が反応した。

『なっ!? 何をバカなこと言って! 私的には彩香のカタチがとてもいいかと…』

『ゆっ、紫ちゃん!?』


年頃の女子は胸を気にするとは本当なんだな……ふむ、倉橋はカタチが良いのか。

「……聞いてる方が辛くなるっスね」

隣の赤也がボソリと呟いた理由は想像してしまうのか、あるいは──精市と不二が醸し出す黒い何かなのか……両方だろう。
倉橋の従兄である手塚は気にせず湯に浸かっている。

『倉橋先輩って、手塚先輩と従兄妹同士なんですよね? どう見ても恋人同士にしか見えないんですが、どう思っているんですかー?』

女子の話はコロコロ変わると言うが、胸の話から一転し、青学の臨時マネージャー、小坂田によって皆の視線は手塚へと向けられた。

「…………」

「「「「……………」」」」

『どう思っているって、好きだけど?』

『じゃあ、恋人同士なんですか?』

『え? 従兄だよ』

『だって好きなんですよね?』

『うん』

『なんで付き合ってないんですか?』


次々に訊かれる倉橋はきっと困った顔をしているに違いないと、彼女の性格上想像つく。

『……なんで、っておかしいかな? 恋愛にならないと好きでいちゃいけないの?』

『んー、だってお似合いですし。うちら、二年はてっきり付き合っているんだと思いましたよ。手塚先輩と倉橋先輩、いつも一緒だったじゃないですか』

『そうなんですか? 先輩』

『うん、手塚先輩に片思いしたって倉橋先輩が傍にいるからダメだねって、みんな言ってたし』

『………私、は…国光の事は大事だし、好きだけど……みんなが思っているような好きじゃないんだ。大事な大事な従兄なの。だから国光には素敵な人と結ばれて欲しいんだ』


それを聞いていた手塚がふっと小さく微笑したのを見た。
ああ、互いに信頼しているのだな、と少しばかり手塚が羨ましく思えたのは俺だけではないような気がした。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


両手を合わせながら話す彩香はにっこり笑ってそう言った。
彩香にとっては手塚くんは親愛している相手であって、それは手塚くんも同じ。
だけどそれは嘘だとしか見えないのは周りの人間だったのだろう。
確かに短い時間しか見てないけど、彩香と手塚くんはお似合いで互いに大事にしているのが分かる。

(……ありゃ嫉妬もされる訳だ)

あんなに仲がいいのを見せ付けて置いて恋人じゃないだなんて誰が信じるだろうか……。互いに優先度は高いだろうし。
この佐藤さんという二年生は手塚くんが好きなんだろうか?
なにも起きないといいけど。
そんなことを思いながら、楓は湯に浸かって話を聞いていた。
小坂田さんはどうやら越前くんが好きらしく、もしかしたら合宿に現れるかもしれないと思って、臨時マネージャーをしているらしい……動機が不純だが、仕事してるからいいか。越前くん本人はいないしね。
越前くんといえば、彩香と仲が良いんだが知ってるのかなと彩香を見れば、ニコニコ笑っている。がそこに佐藤さんが話し掛けていた。

「……あ、の…倉橋先輩」

「どうかした? 佐藤さん」

小坂田さんが大声で越前くんについて語っているから、竜崎さんと橘さん、紫は気づいていない。

「倉橋先輩、不二先輩と仲良いですよね…? もしかして、付き合ってたり、しますか?」

「へ? まさか、そんな訳ないよ」

(ああ、手塚くんじゃなくて不二くん狙い……)

言い方は悪いかもしれないが、耳を傾けて聞いていた。
ほんの少しホッとしたのは、内緒だ。

「……わ、私、不二先輩が…………す。協力…てくれ……んか?」

小さな声で言っているのか少し離れたここでは聞き取りにくいが、だいたいは予想がついた。
協力って……彩香にとっては苦手そうだし、なにより不二くんって……

(……彩香のこと、どう見ても好きなんだよね)

それを分かってて、協力を請うなんて彩香が不二を好きにならないよう牽制しているんだろうな。
そう思うと手塚を好きだというより、厄介な気がしてきた。
逆恨みしないで欲しいな、とそっと二人を見ていた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……あ、の…倉橋先輩」

小坂田さんがリョーくんがいかにカッコいいかを楓ちゃんたちに話しているのを聞いていると、佐藤さんが話し掛けてきた。
その表情はどこか真剣でどうしたんだろう、と思うくらい。

「どうかした? 佐藤さん」

他の人たちから少し離れると、佐藤さんが寄ってきて、小坂田さんたちが喋っているのを確認してから、口を開いた。

(もしかして、国光のことかな?)

そんなことを思っていると発せられたことに驚いた。

「倉橋先輩、不二先輩と仲良いですよね…? もしかして、付き合ってたり、しますか?」

「へ? まさか、そんな訳ないよ(……そう、いえば、後で会うんだっけ…)」

昼間言われたことを思い出し、頬に手をあてた。

「……わ、私、不二先輩が好きなんです。協力してくれませんか?」

真っ直ぐと見つめてくる双眸に、本気で好きなんだというのが分かった。
でも、まだそれは出来ない。
不二くんへの答えは決まっていたとしても、今はまだそれは約束は出来ない。
それは不二くんにも佐藤さんにも失礼になるから。

「……え、とそれは無「彩香〜、そろそろ上がろう」」

言おうとすれば紫ちゃんから話し掛けられ、佐藤さんも橘さんたちに言われていた。
佐藤さんはこちらを見て「お願いしますね」と言って、上がってしまった。
……どうしよう…。
彩香はため息を吐くしかなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


お風呂から上がり、先に部屋に戻った楓たちとは別に彩香は自販機の前にいた。
傍にあった椅子に腰を降ろし、火照った頬に今さっき買ったお茶を当てた。

「倉橋さん?」

見ればそこには浴衣を着た幸村の姿があった。

「倉橋さんも飲み物買いにきたの?」

「うん。幸村くんも?」

「ああ、温泉は気持ち良かったんだけど流石に熱くてね」

「そうだね」

ふふっと笑うと幸村も微笑した。

「隣、いいかな?」

「うん、どうぞ」

「ありがとう。……そういえば、調子はどう?」

買った清涼飲料水を一口飲んで、幸村が聞いてきた。

「大丈夫。マネージャー増えたし、紫ちゃんは1人で作業してるけど他のみんなは2人1組でやってるから」

「紫は元々だから大丈夫だろうけど、倉橋さんや楓は臨マネだから、無理しないでね」

そう気遣ってくれる幸村に彩香は嬉しくてお礼を言った。

「大丈夫。ありがとう、幸村くん」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


風呂上がりに暑くて飲み物を買いに行ったら、浴衣姿の倉橋さんの姿を見て、かなり焦った。
風呂上がりというのもあって、火照った頬に、纏め上げられた髪に濡れたうなじ、口唇も血色が良くて、胸の鼓動が早まる。
なんとか理性を飛ばさないよう会話をし、いきなり臨時マネージャーを頼んだから大丈夫かな、と心配していた。
かなりの人数だし、大丈夫かなと心配していたけどニコッと笑って「ありがとう」と言われて、ギュッと抱きしめたくなった。

──可愛い過ぎる

もっと話していたかったけど湯冷めするといけないから、と部屋に戻るように促され、俺も倉橋さんが風邪でも引いたら大変だと思って、部屋に戻ることを促した。
エレベーターで手を振って「おやすみなさい」と言う彼女に、姿が見えなくなってから、思わずしゃがみこんだ。

「……破壊力、ありすぎ」

浴衣姿であんなこと言われたら、保たないよ……。
どんどん、君を好きになっていく。






To be Continued



あとがき

もっとお風呂では恋ばなとか書きたかったけど、女の子の会話はいきなり変わるので止めました。
風呂上がりの浴衣……合宿所にて浴衣はおかしいですが、気分です。


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