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テニスの王子様

彩香は、事件の事を知った楓、紫に寄って、部屋に連れて行かされた。
楓と紫から心配をかけるなー!と怒られ、心配され、話を聞いたらしい国光は部屋に入る早々、大丈夫か?と散々心配した。
ついでに動揺しているだろうと夕食を持って来たので、多少小言を言われながら、共にご飯を食べた。
本当は今思い出すだけでも、ゾッとして鳥肌が立つけれど、なんとか笑ってみせたら、優しく頬を撫でられて「無理をするな」と言われた。
やはり国光には分かってしまうらしい…苦笑すれば、ぽんぽんと軽く頭を叩かれた。
国光はご飯を食べると、改めて幸村くんに礼を言ってくると部屋を出ていった。
楓たちもまだ戻って来ず、自分も行く。と言えば今日はもう休んでいろと言われてしまった。
ベッドに腰掛けて、ぼーっとしていると不意に身体が震えた。
本当は怖かった、怖すぎて、どうしようかと思った。思い出した今も身体が強張る。ギュッと自分で身体を縮こまらせると、不意に顔が赤くなった。

「…………」

さっき、幸村に抱きつき、抱きしめられた事を思い出してしまった。

『もう、大丈夫?』

『う、うん!……ご、ごめんね、その……』


思わず抱きついてしまったことを思い出し、彩香はあたふたと慌ててしまった。
その様子を見た幸村は頬が緩み、それは見惚れるくらい優しい笑顔をくれた。

『大丈夫、気にしないでいいよ』

にっこりと笑う姿に、彩香は恥ずかしくて顔を俯かせてしまうのだった。
その時、幸村がどんな顔をしているのかも知らないで。

「あー、……幸村くん、呆れたかも……」

きちんとお礼言いに行かなきゃ…いつも、いつも助けられて、迷惑ばっかりかけて……情けないな、と彩香は枕をギュッと抱きしめ、ベッドに寝転んだ。

「……幸村くん…」

何故か、不意に口から名前が零れる。
なんでだろう……でも自然に零れた名前に、彩香は安心感を覚えていた。
ほんの少し、胸の鼓動が速くなっていることさえも心地好く感じていたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


買い出しから帰って来た彩香は、幸村に部屋に戻っていなよ。と言われて、こちらに視線を向けながら、出ていったのを見送った。
そして、幸村から発せられた事を聞き、驚愕した。
どこかの大学生らしき輩が彩香を無理矢理、車に乗せようとしていたという話に。
またしても幸村が助けて、大事には到らなかったらしいが……これでまた男性恐怖症にならなければいい。
手塚は彩香を心配しつつ、一緒に聞いていた跡部へと身体を向けた。
その跡部は幸村にナンバーは控えたから探しておいてくれないかな、などと言われていたが……何をする気だ?

「跡部」

「なんだ、相手の奴は探しておくぜ?」

「それもだが、彩香、倉橋の夕食は部屋に運んでくれないだろうか」

「ああ、構わない。なんなら、お前の分も運ぶか?」

あんな事があって、青学や立海のメンバーはともかく、他校が多くいる食堂で食事は辛いだろうと思っていたので、跡部の気遣いには感謝した。

「あぁ、すまないが俺の分も部屋に頼む」

「ハッ、随分とお前とあろう者が従妹には甘いんだな」

「そうか?」

「あぁ」

「大事な従妹だからな。では夕食を頼む。幸村も、身内として礼を言う。彩香を助けてくれてありがとう」

「いや、臨時とはいえマネージャーを頼んだのはこちらなのに、危ない目に合わせてこちらこそすまなかった」

幸村が謝るのを苦笑し、夕食を取る為部屋を後にした。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


夕食の時間、食堂には手塚の姿も倉橋さんの姿もなく、首を傾げた。

「英二、手塚は?」

「手塚〜? そういえばちょっと前から姿見てないねー。大石、手塚は〜?」

「ん、……えーと、手塚はちょっとあって倉橋さんの所だってさ」

「倉橋ちゃん? そういえば倉橋ちゃんの姿も見えないけど、なんかあったの?」

「えーと…大きな声じゃ言えないんだけど、倉橋さん、なんだか連れ去られそうになったとかで……」

大石の口から聞かされた話に僕の頭の中は真っ白になった。
倉橋さんが大学生に連れ去られそうになった?
しかもそれを助けたのが、また、幸村…だなんて。
あの時、2人で出掛けて行くのを本当は引き止めたかった。幸村が倉橋さんの肩に手を置いてるのをみて、邪魔したかった。
なんで……いつも倉橋さんを助けるのは僕ではなく、幸村なんだろうか……。
ふと幸村の姿を探すと、真田や柳と一緒にいるのを見つけた。
そして、手塚がこの場にいないのは倉橋さんの傍にいるからだという……。
ああ、今すぐにでも君の姿を見たいよ……倉橋さん。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


食事を終え、真田たちと廊下へ出ると声を掛けられた。

「幸村、」

「……先に行っているぞ、精市」

「ああ。不二、どうしたんだい」

気を利かせたのか、そう言う蓮二に頷くと彼らは先に歩いていった。

「…………倉橋さんを、また助けたそうだね」

「あぁ、聞いたのかい。でも、俺が一緒にいながら未然に防げなかったけどね」

「……そう、か……」

いつも笑みを絶やさない不二が少し、悔しそうにしているのは、自分が守れなかったから、いや守りたかったからなんだろうか……。
彼女を想う気持ちが強ければそう思うだろう……もし、自分でない他の誰かが彼女を守っていたならば、自分もそう思うから。と幸村は不二を見て考えていた。

「幸村」

また声を掛けられ、振り向けば跡部と真田、蓮二の姿もあった。

「跡部」

「さっきの事で連絡がついた。今、手塚も来るが…」

「僕も行っていいかな」

あまり大袈裟にしたくないのか、跡部が眉を潜めたかと思うと、フンッと鼻を鳴らし、「まぁ、いいだろう」と踵を返した。
たどり着いた先は多目的ルームで、その場にいるのは各校の部長・副部長たちとマネージャーたち。
跡部が大まかな説明をし、マネージャーたちに買い出しに行く際の注意を促した。
手塚は楓と紫と少し会話をして、彼女たちが部屋から出て行ったのを見送っていた。
話し合いは解散となり、今、残っているのは、手塚、跡部、真田、蓮二、俺、そして、不二だった。まぁ、跡部の後ろには樺弛くんもいたが。

「で、倉橋のその後の様子はどうなんだ」

「隠しているつもりだが、まだ少し動揺している。余程、怖かったのだろう……」

「まぁ、今考えてもあと少し助けるのが遅れていたらと思うとゾッとするよ」

「あぁ、そうだな……」

「たるんどるな、そのような輩!」

「彩香に関してはもう合宿も終わりに近い為、先に帰そうと思うのだが」

「まぁ、それが妥当だな。このままでは仕事にならねぇだろうし」

「あぁ。すまない、こんなことになってしまって」

「いや、倉橋のせいではないだろう。マネージャーも足りているし、倉橋は今は帰宅させるのが一番だろう」

「だが1人で帰して大丈夫なのか?」

「俺がついていくから大丈夫だ」

「車は出してやる」

「すまない、跡部」

「気にするな」

手塚はこんなにも倉橋さんのことが大事なのに、なぜ恋愛感情じゃないのか不思議に思う。
けれど、もし手塚が倉橋さんに向ける愛情が恋愛だったなら、きっと誰も適わないような気がする。

「……手塚」

「どうした、不二」

「倉橋さんの様子、見に行ってもいいかな」

不二の申し出に手塚は眉を潜めた。倉橋さんが心配で一目見たいという気持ちは分かる。

「すまないが、それはダメだ」

だが、手塚からの答えは拒否だった。

「っ、」

「心配してくれるのは有り難いがな」

「……そう、だね」

倉橋さんと不二の間で何があったかは知らないが、今は倉橋さんをこれ以上混乱させたくないのだろう。
誰もが無言になり、沈黙が落ちる。そこに声を掛けてきたのは跡部だった。

「手塚、そんなに大事にしてるのになんでお前はそうなんだ?」

「そう、とは?」

「従妹といえどお前が大事にしているのを見ると不思議に思う、恋愛感情はないのか」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


跡部が言った事に誰もが手塚を見たが、以前風呂場で聞いた倉橋と同じ答えだとはいうのは聞かなくても分かる。
だが一般的に見れば、なぜ恋愛に持ち越さないのかが気になるのだ。

「抱いてみたいとは思わねぇのか」

「なっ、だ、だだだ抱く…!?…は、破廉恥なっ!」

動揺する弦一郎は今は無視だ。
幸村も不二も『恋愛』に決してならないという手塚の気持ちが知りたいのか、ジッと見ている。
手塚は沈黙の後、長いため息をついた。

「なぜ、そんなことを訊く」

「ここにはそれを知りたいヤツがいるみたいだがな」

「俺は彩香を抱きたいとは思わない」

そのはっきりとした拒絶に驚いた。

「彩香の事は好きだ。なにより大切だ。だが、抱きたいとは思わない。気持ちが悪いんだ、自分の欲が彩香を汚してしまうかと思うと、一生、彩香の目を見ることが出来ない。俺は彼女を妹として見て来た、なのにそんなことを考えさせられるだけで、嫌悪する。お前たちだってそうならないか? 兄妹ととして育って来た人間をそんな風に見えるか、俺は友人に指摘された時、嫌悪以外の何も抱かなかった」

確かにそれはゾッとする。
俺とて姉がいる。その姉を犯す? 冗談ではない、そんなこと出来るはずがない。姉は姉でありその対象ではない。
手塚にとって倉橋は従妹であり、妹、守るべき家族でしかないのだろう。
ただ、周りがそれを信用しないだけ。
従妹であれば、恋人になれると思う奴らには彼らの家族愛が見えていないのだろう。



To be Continued



あとがき

まぁ、手塚はヒロインを家族としか見てないってことで。
書けば書くほど意味不明になりました。
次はヒロイン先に帰ります……その前に不二と決着ですね。


2010/05/09


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