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テニスの王子様

夜、部屋で楓ちゃんや紫ちゃんたちと過ごしていると、国光から話があるから多目的ホールに来てくれと促された。
楓ちゃんや紫ちゃんにも一緒に着いて来てもらい、ホールを開けると中には国光の他に、幸村くん、真田くん、柳くん、大石くん、不二くん、跡部くん、後は不動峰と四天宝寺の部長・副部長の姿があった。
まだ幸村くんたちの姿は大丈夫なのに、ホールに入るのに躊躇してしまう。

「彩香…?」

「入らないの?」

そう話す二人に「入るよ」と言いながらも、身体が動かない。
身体中がざわざわとざわめき、何故か動揺していた。

「…………やはりか」

そう言ったのは国光だった。
後ろにいた国光は背中を押し、中へと促した。

「跡部」

「ああ、そうだな」

二人は顔を見合わせると、国光は私の手を取り中へと引っ張った。
跡部くんは「この通りだ」と他の人たちに言っている。何が?と思っていると、目の前に四天宝寺の部長さんがいた。
条件反射のように、私は国光の後ろへと隠れて、抱きついていた。

「ほんまや。昨日までは平気やったのに」

「白石。すまないが、あまり近づかないでくれ……彩香は分かっていないんだ」

「あー、すまんすまん。ごめんなぁ、倉橋さん」

「……い、いえ……こちらこそ、すみません…」

なんでこんな態度を取ってしまうのか、分からなくて、謝った。それでもなんだか、怖い…。

「……彩香」

「なに、国光?」

「お前は明日、帰れ」

「え……?」

名前を呼ばれ、見上げれば肩に手を置かれ、そんなことを言われてしまいポカンとした。

「手塚くん? 何いって…」

「国光?」

「お前は今、軽い男性恐怖症に陥っている……と手塚は言う」

「柳くん…」

「今日のことで少なからず倉橋は恐怖を抱いたはずだ。そして、そもそも多少なりと男性が苦手なお前は、今日の一件でそれが増したはず。この男だらけの合宿では身がもたないだろう」

「あ、あの……」

「今しがた、ここに入るのを戸惑っただろう。手塚だけならまだしも、他に男がいる部屋が怖かったのではないか?」

「……っ」

「図星か……」

ふぅ、と跡部くんがため息をついた。

「明日、車を出してやる」

「あ、あの……」

「彩香、帰宅の準備をしておけ」

「国光……」

「こうなったお前をこのまま置いておくにはいかない」

「…………ご、ごめんなさい。迷惑をかけてしまって……」

「アーン? お前が謝ることじゃねぇ」

「で、でも……最後まで仕事出来なく…」

「ハッ、気にするな」

「……ありがとう、ごさいます…」

そう言ってくれる跡部くんに、国光の背中からだけどお礼をいえば、また鼻で笑われてしまった。

「倉橋さん……」

「…幸村くん」

「近寄っても大丈夫、かな?」

そう聞いてくる姿を見て、先ほど近くで見た四天宝寺の部長さんよりは怖さがなくて、頷いた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


近寄っていけば、さっきの白石とは全く違うようでホッとした。
全身で拒否されたら、それはとても苦しくなってしまうから。

「良かった……、俺も大丈夫っぽいね。ごめんね、今日は君を一人にしたばっかりに怖い目にあわせてしまって」

「そんなっ、幸村くんのせいじゃないよ……こちらこそごめんなさい。迷惑かけて、それにお礼言ってなかった……ありがとう」

礼を言う倉橋さんに「当たり前のことをしたまでだよ」と話すと何故か顔を赤らめた。
もしかして、抱きしめたことを思い出したのかな、それで意識されてる?と思うと口元が緩みそうになる。
そこへ声を掛けてきたのは、蓮二だった。

「大丈夫か、倉橋」

「柳くん……う、うん。大丈夫」

「ふむ、見知った奴は大丈夫なようだな。弦一郎は平気か?」

「た、多分……」

見れば、恐がらせてしまうのではとこちらを躊躇している真田の姿。隣には楓がいて、ドンッと押している。

「……む、無理をすることはないぞ、倉橋」

「大丈夫だって、ね、彩香」

「う、うん……」

確かに怯えはない様子に見知ったというか、普段話す相手は大丈夫らしい。
真田がおどおどしながら近づいてくる姿を見て、なんだか笑えた。そして──

「倉橋さん」

「不二、くん…」

不二の姿にビクッと身体を揺らした倉橋さんに眼をやった。

「僕も大丈夫かな……」

「う、うん……」

「……」

近づいてくる不二に倉橋さんは無意識にか、ぐっと手を握っているようだ。……怖い、のかな?

「大変な目に合ったみたいだね、話を聞いた時は驚いたよ」

「ご、ごめんね。心配かけちゃって…………」

「倉橋さんが無事ならそれでいいよ…」

「っ、あ、ありがとう……」

目の前で繰り広げられる会話に少しムッとしてしまう。だって、さっきまでと違い、倉橋さんが恥ずかしそうにほんのりと頬を染めているんだ。

「明日、帰るなら支度しなくてならないんじゃないか?」

「あ、うん……そうだね…」

真田が二人の間に割って入るかのように声を掛けると、倉橋さんが少ししょんぼりしてしまった。

「倉橋さん、」

「幸村くん?」

サッと差し出した手にキョトンと見てくる彼女に、俺は微笑した。

「合宿、参加してくれてありがとう。とても助かったよ」

「そんな……でも、最後までキチンと出来なくてすみませんでした」

お礼を言うと、彼女は慌てて頭を下げた。謝る必要なんてどこにもないのに…。そんなことを思いながら、彼女の肩に手を置いた。

「それでも、君には感謝しているんだ。だから気にしないで、ね」

「…………あ、ありがとう…」

頬を赤く染めた彼女が笑い、俺は自分が赤くならないように気を引き締めたのだった。
そして、学校毎にミーティングをする為に部屋から出たのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ミーティングをするからと行ってしまった楓ちゃんや幸村くんたち、国光に先に行ってくれと言われた大石くんと不二くんたちを見送った。
室内には国光と跡部くんが何かを話していて、予定を狂わせてしまって申し訳なくて仕方なかった。
ふと肩を見て、さっき幸村くんに触られたことを思い出すと恥ずかしくてなった。
誤魔化すように笑ったけど、おかしくなかったかな…と思ってしまう。
カーっと火照る頬にパタパタと手で扇いでいると、声を掛けられた。

「……明日は、9時頃出発で構わないか? 彩香」

「あ、うん。……ごめんね。国光、練習休ませちゃって…」

「気にするな。……大丈夫か?」

跡部くんと何かを話した後、近づいて来た国光に頬を撫でられた。
大きな掌はいつも包んでくれるので安心する。

「大丈夫、本当にごめん…」

「お前が無事でなによりだ。それにあまり酷くはないようだし、落ち着けば大丈夫だろう」

「……うん」

「おい、イチャついてんじゃねーぞ」

不意に跡部くんから声を掛けられたが、イチャつく?どこが?と不思議に思う。
国光も同じようで、少し首を傾げていた。

「「?」」

「チッ…………無自覚かよ…。まぁいい、明日は9時にエントランスに車を回しておくぜ」

「すまない、跡部」

「ありがとう、跡部くん」

「……気にするな(これじゃあ誤解もされる訳だな)」

二人で礼を言うとフンッと鼻を鳴らしながらも、出ていった。
傲慢な態度ではあるけれど、彼は優しい人なんだな、と思える。
その後、国光がミーティングに行くと言ったので伝言を頼んだ。
終わったら非常階段に来て欲しい──と。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれから、30分もせずに不二くんがやって来た。

「話、って何かな。倉橋さん」

なんだか、今の不二くんは怖い。あの時の事と今日の事のせいでごちゃごちゃになっているせいかもしれないけど……今を逃がしたら返事する機会がない。

「あ、あのっ……返、事……を」

「……うん…」

「私、不二くんとは付き合えない」

「僕のこと、嫌い?」

「そんな、嫌いじゃないよ!……好きだけど……それはみんなと同じなの。考えてみて……不二くんを友達以上に考えること、は……っ」

「黙って!」

自分の気持ちを述べていると、いきなり抱きしめられた。一瞬、身体が強張り、怖いと思ったが……不二くんが震えてるのが分かった。

「ごめん……今だけ…」

「…………不二、くん…」

こんな私を好きだと言ってくれたのに、応えられなくて、申し訳なくて、彩香はただ為す術がなく、小さく心の中で、ごめんと呟くばかりだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


手塚に言われ、非常階段に行くのが嫌だった。だって答えが分かってしまうんだ。
彼女は応えてはくれない──ということが。
行けば、謝られて、振られると分かった時彼女を抱き締めた。ビクッと強張るのを感じ、失笑した。
好きだというのに恐がらせてしまっているなんて、情けない。情けな過ぎる。
なぜ、もっと早くに気付かなかったのだろう、彼女に惹かれていたのはもう大分前のことだったのに。
ずっと気にしていたのに、見ていたのに……そして、なんで気付いたのだろう、彼女が誰を眼で追い始めているのかを。
鈍い彼女はまだ気づいていないだろう、だから教えてなんてやらない。そんなの悔し過ぎるだろう。
──好きな人、いるんだね。なんて。

落ち着いた頃、身体を離せば、困ったような顔をされた。いつだって笑った顔をみていたいのにな。

「ありがとう、考えてくれて。はっきりしてくれて……今はまだ辛いけど、またメールしてもいいかな…」

「っ! う、うん! 不二くんさえ、良かったら……」

「……うん、ありがとう…」

そういって笑えば、ホッとしたような久しぶりの笑顔を見れたような気がした。
本当に、好きだよ、倉橋さん。
でも幸せになって欲しい、なんて言えはしない。
僕だって、人間だからそんな綺麗事は言えないんだ、今はまだ。





To be Continued


あとがき

詰め過ぎた……。


2010/05/27


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