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テニスの王子様

幸村くんが国光のプレゼント買いに付き合ってくれる、ということを楓ちゃんに話した。

「え、幸村も行くの?」

「どういう意味かな、楓」

「いや、ほら、機嫌悪かったし、まして手塚くんへのプレゼント選びだからさ」

「別に機嫌悪くなんてないよ。朝はお前が体当たりしてきたせいだよ」

「あらあら、それはすいませんねぇ」

「幸村くん、よろしくね」

「構わないよ、全然」

お礼を言うと、幸村くんはニコッと笑って答えてくれて、なんだか嬉しかった。
帰りのSHRが終わったら、街へ行こうという話になったのだった。

─放課後─

「――では、以上だ。気を付けて帰れよ」

「起立、礼」

ガタガタと椅子が床にぶつかる音を立てながら、皆、教室から出て行ったりしている。
荷物を机の上に置くと、パタパタと楓ちゃんが走り寄ってきた。

「彩香〜、じゃ行こっか」

「うん」

「幸村ー、行くよー」

「そんな大声出さなくても聞こえてるよ、楓」

席が離れたせいもあって、大きめな声で呼ぶも、幸村くんは荷物を持ってこちらに近づいてくれていた。

「んじゃ、早く行こ!」

ガシッと腕を掴まれ、張り切る楓に彩香は苦笑してしまう。
そんな様子に幸村も苦笑だ。

「どうしたんだい、楓。随分と張り切っているようだけど」

「う、煩いな! 私もプレゼントあげるんだから、色々みたいのよ!」

クスクスと笑う幸村に楓は頬を赤らめながら、答えると幸村はキョトンとしていた。

「……お前、もしかして…」

「な、なによ!」

「手塚のこと、す「ギャーッ!」」

「か、楓ちゃん」

「幸村っ、な、なん……」

途端に真っ赤になる楓に幸村はニヤリと口端を上げた。

「へぇ、ふーん、やっぱりそうなんだ」

「ち、違っ! そんなんじゃ…」

「俺は何も言ってないよ、ね、倉橋さん」

「え、あ、あの…」

笑う幸村くんは、なんだか面白そうに笑い、楓ちゃんはあたふたとしている。
そこに、後ろから声を掛けられた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


楓が手塚に気があるのは、前々から気付いていた、というか感付いていた。
そんな真っ赤な顔をして否定しようとしても無駄に決まっているだろう?バレバレなんだよ、と笑ってやると「ムキーっ!」と声を荒げる。
そんなことをしていると後ろから声を掛けられた。

「一体、何を騒いでいるんだ?」

「柳くん」

「蓮二、どうかしたのかい?」

まさか、本当に蓮二にも頼んだのか、楓は。
そんなことを思っていると、フッと微笑した。

「俺は今日、用事があってな。だから心配するな」

言いたいことが分かったのか、そんな事を言う蓮二を眺めていたら、また微笑された。

「沢渡、お前は今日買い物には行けないぞ」

「はぁ? なんでよ!」

「生徒会の仕事があることを忘れていただろう」

「はぁ!? なんでよ、そんなの聞いてないわよ!」

「文句なら顧問と片倉に言え。体育祭の事だ。というわけだ、倉橋、手塚へのプレゼントととやらは精市に見立ててもらえ」

「え、あの……でも、」

「気にするな。精市も構わないんだろう」

繰り広げられる会話に、蓮二がわざと楓を連れていこうとしているのを感じる。フフ、流石蓮二だね。

「あぁ、もちろん俺は構わないよ」

否定するつもりなんてないし、これで二人きりにもなれる。
今朝聞いた噂は気になるが、それはまた後日蓮二に聞いてみようかな、とりあえずは今、倉橋さんと出掛けるということだ。

「倉橋さん、気にしないでいいよ。俺でよければ協力するから」

手塚へのプレゼント選びだろうが、君と出掛けられるならね。
少し戸惑ったような倉橋さんは、楓と蓮二を交互に見て、それから俺を見た。

「えっ、と……じゃあ、よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げる彼女がなんだか、可愛く見えた。
じゃあ、行こうか。と今度こそ教室から出ようとした時、後ろから制服を掴まれた。
振り向けば、楓と蓮二が掴んでいる。

「どうかしたのかい? 行くな、とでも?」

「そう言いたいのは山々だけどね。つか、なんで今日なんだよ、片倉め!」

「精市、帰りは送ってやれよ」

「……」

「詳しい事は後日話す。帰りは倉橋を送ってくれ」

「そうそう、頼んだわよ。幸村」

「あ、あぁ。もちろんだ」

二人そろって同じ事を言われ、気になったが、入り口のところで待っている倉橋さんを見て、二人から離れた。
詳しい事?蓮二がいう言葉を気にしながら、俺は倉橋さんと学校を出たのだった。





「ちょっと、幸村に話すの?」

「精市が、俺と倉橋が一緒に帰っているという話を知ったようでな。俺とてあまり広げたい話題ではないが…」

「幸村が怖い訳ね」

「精市は意外にも倉橋に惚れ込んでいるようでな、気になるだろう」

好きな相手が誰かと一緒に帰っているのだと聞けば。

「まぁ、そりゃあね。幸村って独占欲強そうだし、付き合い始めたりなんかしたら、男子と会話させなさそう」

「……容易に想像がつくな」

「そうならないように祈るしかないわね」

「それは精市が独占欲が強いことか、それとも付き合うということか?」

「どっちもよ!」

二人はそんな会話をしながら、生徒会室へと向かったのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


街へと繰り出し、まずはスポーツショップへとやってきた。

「へぇ、手塚って意外にアウトドアなんだね」

「そうだよね。登山と釣り、キャンプが趣味でね、小さな頃から伯父さんと山登りしたり、お祖父さまと釣りに行ったりしてるの」

「倉橋さんも一緒に行ったりしてたの?」

「私? 私は小さな頃は身体弱くって付いて行けなかったんだ。でもたま〜に、釣りやキャンプに行ってたの」

手塚の意外な趣味を聞きながら、店内を歩いた。

「身体弱かったの? 今は大丈夫なのかい?」

「今はもう丈夫なんだ」

両腕をムンっと、まるで力瘤を作るような動作をする彼女にクスクスと笑ってしまう。
しかし、手塚がアウトドア派だなんて、テニス以外の趣味はてっかり読書とかと思ってたんだけど。

「結構、迷いそうだね」

アウトドア派であるなら、スポーツ用品店なら色々見つかりそうだ。
テニス用品もさることながら、登山や釣り、キャンプ用品だって充実している。

「そうだね」

頷く倉橋さんを見ながら、手塚の誕生日プレゼント選びをしたのだった。
羨ましいな、手塚。
こんな風に一所懸命プレゼント選びをして貰えるなんて。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


幸村くんが付き合ってくれたおかげで、プレゼントを無事買う事が出来た。
というか、やっぱり男性視点からの方が普段目にいかない色とか選ぶことが出来る。

「幸村くん、今日は本当にありがとう」

「ううん。俺も普段見ないコーナーを訪れたりしたから、色々新鮮だったよ」

「ならいいんだけど…」

付き合わせちゃって悪かったな、と思うと同時に、送ってもらっていいのかな、なんて思う。
駅でまた明日、と言おうとした時「送っていくよ」と言われた時は、断ったのだが、頑として受け入れなかった幸村くん。

「前みたいな事があったら心配なんだ」

「……」

「心配で帰るより、きちんと送って安心して帰りたいから、送るよ」

「……ごめんね、ありがとう」

「じゃあ、行こうか」

そんなこんなで住宅街を歩いていると自宅近くまでやって来た。

「あそこだったよね、倉橋さん家って」

「うん。よく覚えてるね」

「俺、記憶力はいい方だからね」

「それって、嫌み?」

あまり覚えることが得意ではない、私は思わず頬を膨らませた。
すると幸村くんはフフッと笑うと人差し指で私の頬を突いた。

「違うよ。それに倉橋さんはその方がいいよ。可愛らしいから」

「なっ……」

突然の言葉に顔が熱くなる。
いきなり、なにを。恥ずかしい。突かれた頬が熱い。

「あら? 彩香?」

急に名前を呼ばれて、振り返るとそこには母の姿があった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ぷくっと頬を膨らませた倉橋さんが可愛くて、思わずその頬を突いてみた。
本当に可愛い……なんて思っていると声を掛けられた。正確には倉橋さんの名前が呼ばれたんだけど。

「お母さん」

「あら、今日は蓮二くんは一緒じゃないの? って、あら? あなた…」

『お母さん』という事は倉橋さんのお母さんってことだよな。といいのと同時に、蓮二のことを『蓮二くん』って呼んでるのが気になるんだが……じーっと見られてる?

「初めまして、倉橋さんのクラスメイトの幸村 精市といいます」

頭を下げて挨拶をすると、倉橋さんのお母さんはニコニコと笑っていた。

「やっぱり、幸村くんね。お噂はかねがね。良かったら夕飯どうかしら?」

「お母さん?」

「ほら、色々とお礼も言いたいし、幸村くんさえ良かったら、上がっていって」

いきなりの事で面食らってしまう。倉橋さん宅に上がる?

「……はい、それでは」

なんとなく、自宅にいる彼女の姿を見てみたいのもあったし、せっかくの機会を逃すものかと承知をした。

「良かった。じゃあ上がって上がって。っと、彩香、蓮二くんはどうしたの?」

「柳くん?」

「そうよ。今夜、蓮二くんのお宅誰もいないらしいから、一晩預かる約束なのよ」

嬉しそうに上がってといった倉橋さんのお母さんの口から出た言葉に唖然とした。
蓮二が泊まる? というか、本当にどんな関係なんだ?と思っていると

「精市」

名前を呼ばれ、振り向けば、そこには肩にバックを背負った蓮二が立っていた。

「あら、蓮二くん。いらっしゃい」

「お世話になります」

「いいのよ、気にしないで。ほら、幸村くんも上がってね」

「は、はい…」

どういう事だ?と振り向けば、いつものように、微かに笑ったのち「後で説明する」といって、背中を押された。
玄関には困ったような倉橋さんの姿があり、小さな声で謝られたのだった。

「お母さんが強引でごめんね。いらっしゃい」

「お邪魔します」

入るとどこからか、香の匂いがした。
倉橋さんに促されて通されたのは、広い和室。
着替えてくるから待ってて、という彼女を見送ってから、蓮二に色々聞こうじゃないか、どういう事かを。






To be Continued



あとがき

方向がだんだん分からなくなってきた。
とりあえず、柳との関係と祖母、父も出る。予定……。


2010/08/13


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