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テニスの王子様

急に走りだした彩香を追い掛けてると学校についてた。
そこで既に来ていた楓と合流し、様子がおかしい彩香を連れて、屋上へと移動した。

「どうしたの? 彩香」

「ゆ、紫ちゃん、楓ちゃん……私、変なのかな?」

胸を押さえて真っ赤になっている彩香の様子に、具合が悪いのかと思わず声を荒げた。

「え、なに? 具合悪いの? 保健室行く?」

「ち、違くて……あの、ね…」

「もしかして、昨日幸村に何かされたの!?」

「そ、そんなことないよ! あの、私……」

楓がそう言った瞬間、彩香の顔はますます真っ赤になった。
え、もしかして、これって……。
楓と顔を見合わせて、声を上げた。

「「はぁー!?」」

「ど、どうしたの? 二人とも」

「いやいやいや、ちょ、待って!」

「うん、ちょっと待って!」

「え? え?」

キョトンとしている彩香をよそに、私は楓と顔を見合わせてこそこそと話した。

「ねぇ、まさかとは思うけど、幸村?」

「思いたくはないけど、そうじゃないの、これは」

「だってあの幸村だよ!」

「そうだよ。でもさ、幸村は彩香にメロメロだよね」

「あー、やっぱり? そうだよね」

「うん。アイツ、昨日私を差し置いて彩香と買い物に行ったし」

「……なんか、しやがったのか。さっき幸村見て真っ赤になって逃げたし」

「……何しやがったんだ、あの野郎」


振り返って彩香を見てみると、小首を傾げているが、困ったように(まるで子犬のような眼差しで)こちらを見てくる。

「彩香って初恋まだなの?」

「青学ん時に先輩を好きだったって聞いたことあるよ」

「それなのに気付いてないの!?」

「う〜ん、少しは自覚してるんじゃない? でも迷ってるとか…」

「う〜ん……」


初恋を済ませているにも関わらず、この無自覚さはいったいなんだ。と彩香を見る。

「楓ちゃん、紫ちゃん……あ、あのね、私……」

「「……」」

「私……幸村くんのこと、好き、なのかも……」

「「((自覚してたー!?))」」

もじもじしながら、困ったように口唇が『ヘ』の文字のようになっている彩香に、私と楓は驚いていた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


昨日から、というかずっと幸村くんのことを考えているような気がして、恥ずかしくて、どうしたらいいのか分からなくなった。
さっきも幸村くんの顔を見た瞬間、恥ずかしくて逃げ出したくらいだ。

(変に思われてなきゃいいんだけど……)

楓ちゃんと紫ちゃんに屋上へ連れられると、私の様子がおかしいのが分かったのか心配された。
なんて言ったらいいのか、まごついていると二人は何か話している。
二人には言っておきたくて、制服の袖をグッと握りしめて、想いを口に出した。

「楓ちゃん、紫ちゃん……あ、あのね、私……」

「「……」」

「私……幸村くんのこと、好き、なのかも……」

「「…………」」

言葉にしたら、今までずっとモヤモヤしていた気持ちが形になったような気がしたけど、二人のの反応がなくて、戸惑ってしまう。

「「な」」

「名?」

「「なんっで、よりによって幸村なの〜〜〜!?」」

二人同時に肩に手を置かれ、グラグラと揺さ振られた。

「なんでって……」

「彩香〜、幸村の本性分かってるの!?」

「本性?」

「彩香だけは惑わされないと思ってたのにぃ〜! ハッ! まさか黒魔術かけられたんじゃ…」

「黒魔術?」

「ありえる! つーか、かけたに決まってる!」

なんだか二人が分からないことをポンポン言ってるんだけど…幸村くんの本性って……優しいけど強い人だよね?

「楓ちゃん、紫ちゃん……幸村くんの本性って…?」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


彩香から聞かされたのはやはりというか、認めたくない事実だった。
彩香なら幸村より柳とかの方が似合うと思うんだけど!
彩香ん家も茶会とかするし、ましてお祖母さんが香を嗜むくらいなんだよ。
匂袋持ってたり、ティッシュ代わりに懐紙持ってたりする柳なんかピッタリじゃんか!
それなのになぜ幸村……。
あんなヤツ、黒魔術は使うわ、人の嫌がること何げに好きだわ、本性を知らないのか…?
紫と「えぇ〜!?」と言わんばかりに彩香を揺さ振ってしまう。
そんな彩香は訳が分からなそうにキョトンとして「楓ちゃん、紫ちゃん……幸村くんの本性って…?」などと聞いてきた。
彩香は幸村をどんな風に見てるんだ?

「あ、彩香は……幸村ってどんな人だと思ってるの?」

「え? ……とっても優しくて、でも強くて、男らしくて素敵な人だと思ってるけど……」

「「…………」」

もはや、紫と共に無言になるしかなかった。誰だ、それ。
いやいやいやいや、そういえば、彩香の前で幸村は黒くなったことがない、とか?
あれ、なんか見たことないかも。
え、なに、わざと出してないの?
それとも彩香の前では白しか出ないの?
……マジで分からなくなってきた。

「楓ちゃん?」

不安げに見てくる彩香になんて伝えたらいいのか、分からない。
それは紫も同じみたいで、互いに顔を見合わせて困った。
そりゃ、私たちだっていざとなれば幸村が頼もしく男らしい、実は優しいヤツだと理解っている。黒いけど。
陰口が嫌いで、でもスパッと物を言ういっそ清々しい部分もある。いいヤツだとは知っているし、理解っている。

(理解る、理解るけど……なんで幸村…)

そう思ってしまうのも事実。
しかし……幸村はいつから彩香を好きなんだろうか?
退院する前に何度か会った、と聞いた気がするけど、二人が一緒にいるのを見た時には幸村は彩香に傾いていた、と思う。
夏祭りの時も文化祭の時も必死で探してたし……。
テスト後の席替えでは、ものっすごく不機嫌になった幸村
うーん、でもまぁ、人を好きになるのに理由なんてあまりないしね。
自分のことを考えると“いつの間にか”がしっくりくる。

「彩香は幸村が格好良いから好きなの?」

「え?」

隣の紫が質問しているのに耳を傾けた。
格好良いから好き、だなんてテニス部はあまり嬉しくないのを知っている。上辺だけに群がるファンクラブのせいでもある。

「ううん。格好良いだからとかじゃなくて……好きだなって思うの。なんだか、一緒にいてドキドキするんだけど、それが心地好くて安心して…でも恥ずかしくて……理由なんてないかもしれない、なんとなく、でも好きだなって。格好良いからとか優しいからとか理由付けは後からくるかもしれない」

両手を合わせ、頬を染めながら話す彩香の姿は今まで見たなかで一番綺麗に見える。

「それに、さっき気付いたの。気持ちに」

「「((自覚は今したのか))」」

自覚しないでそのままだったらよかったのに、と思わずにはいられない。
だって彩香が幸村のモノになるなんて……私が淋しいじゃない!

「…や、やっぱり理由っているのかな?」

黙ってる私たちの様子が気になったのか、彩香が恐る恐る訊いてきた。
私たちは顔を見合わせて、苦笑したのち、彩香の腕を組んだ。

「そんなことないよ」

「そうそう。大体、顔が格好良いから。とか言ってたら嫌だよ」

「うんうん。外見じゃなくて中身を見てもらいたいからね」

「「応援してるからね!」」

幸村の気持ちは知っているけど、まだ知らない彩香に向けて、エールを送った。友達なら当然でしょ。
すると彩香はキョトンとした後、頬を赤く染めて、恥ずかしさを隠すように頬笑んだ。

「……ありがと…」

「「((…………ヤバイ、可愛すぎ…))」」

彩香の余りの可愛さに鼻血が出るかと思ったよ(なんとなくね)

屋上を出て、紫と分かれてから教室に入る直前

「私も応援するからね、国光のこと

「──っ!?」

小声でいきなり言われたことに彩香を振り向き、頬が熱くなるのを感じた。

(自分の気持ちには鈍いのにこんなところは聡いなんて……勘弁してよ……)

そう思わずにはいられなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


教室に入った後、すぐ雅治が入ってきた。

「おはよーさん、紫」

「おはよ、雅治。ねぇ、さっき聞いてたでしょ

ボソッと呟けば、雅治の口元がニヤリと弛む。

「さぁの」

「余計なことはしないでよ」

「プリっ」

「しっかし、幸村ってもっと攻めていくのかと思ってたけど、そうでもないのかしら」

呟くと、雅治はクックッと笑った。

「なに?」

「いや、男はのう、殊に好きな女のことになると戸惑うもんじゃ。まして倉橋さんじゃしのう」

「彩香がなに?」

訊くと目を細めて笑い

「眩しいんじゃよ。下手に手を出して嫌われたくないんじゃ、幸村は」

「そりゃ、誰だって好きな人には嫌われたくないでしょ」

「まぁの。じゃから俺も不安だったきに」

スルリと腕を巻き付けてくる雅治に「私も」と答えた。
そんなことしていたら、ブン太から「朝からイチャイチャしてんじゃねぇ!」と言われた。





To be Continued



あとがき

なんだこれ?という感じな展開になってます。本当に。
ガールズトークという訳ではないですが、たまには女の子だけもいいですよね!


2010/09/04


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