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テニスの王子様

昼休み、屋上にはテニス部の3年レギュラーと赤也が昼食を取っていた。
赤也は朝からなんだかもやもやした感じだった。そう、今朝の倉橋先輩と幸村部長の姿をみてから。

「なんか今日の柳の弁当、いつもと違くね?」

大食いの丸井先輩の言葉にチラッと柳先輩の弁当を見ると、美味そうなのはいつもと変わらないが、確かにちょっと違う。

「そういえば、お弁当箱が違うようですが…」

「……あぁ、今日は貰い物だからな」

「はぁ!? 柳が差し入れ貰うなんて珍しいんじゃねぇ!?」

「確かに……つーか、その弁当箱って」

俺も驚いた。あの柳先輩が差し入れを貰うなんて、しかも弁当。
丸井先輩がすげぇビックリしてるし、柳生先輩も真田副部長もジャッカル先輩も弁当を見てる。
因みに仁王先輩はここにいない。姉ちゃんと中庭で食べるらしい。
幸村部長は……なんか、笑ってんだけど、怖ぇ……。
なんか、弁当箱見てたジャッカル先輩がボソッと呟いた。

「それって、倉橋のか?」

「ほう、さすがジャッカルだな」

え、なんで弁当箱見ただけで倉橋先輩だって分かるの?
つか、マジで倉橋先輩の?

「はぁ? なんで倉橋のだって分かるんだよぃ?」

「いや、あのさ…俺前まで弁当とパン交互だったろ? あん時の弁当って倉橋が作ってくれててさ…」

話しだしたジャッカル先輩に俺は唖然とし、丸井先輩はまた「はぁ!?」と大声を上げた。
まぁ、聞けばなんつーか、倉橋先輩らしいっつーか、ホント、あの人優しすぎなんじゃねーのかと思う。
弁当がないジャッカル先輩に1日おきとはいえ弁当作ったり、お礼とかいってクッキーくれたり、差し入れくれたり、わざわざ俺のネクタイしめてくれたり……姉ちゃんとは大違いでビビった。
そんなこと考えてると、ジャッカル先輩の弁当にもびっくりしたが、そういえばなんで柳先輩の弁当を作ったのか気になった。

「そういや、なんで倉橋先輩は柳先輩の弁当作ったんスか?」

見れば、幸村部長が柳先輩からおかず貰ってる。なんかズルい、俺も倉橋先輩が作ったの食いたい!

「あぁ、昨夜泊まったからな」

「「「「「…………」」」」」

サラリと言われた言葉に幸村部長以外の俺たちは固まった。

「そうだ、弦一郎。今日、泊めてくれ」

「あぁ、蓮二。ウチでも構わないよ」

「ん、そうか。それでは頼めるか?」

「その代わり……フフッ」

「フッ、分かっている」

俺たちを無視して会話する幸村部長と柳先輩……あの、なんで幸村部長は柳先輩の発言にスルーなんスか?

「スルーしてる訳じゃないよ。昨日のうちに知ってたからさ。理由もね」

え、読心術!?

「赤也、口に出していたぞ。まぁ、理由としては我が家と倉橋の家同士で仲が良くてな。今、家族中で旅行に行ってる為に倉橋の家に預けられたというだけだ」

「な、なんだ……そういうことか」

「少し驚いてしまいました」

「なるほどな」

口々に話す先輩たちに俺の中で不意に浮かんだ事を思い出した。

『柳先輩に彼女がいるらしいぜ、赤也知ってるか?』

『はぁ、知らねぇけど…マジ?』

『なんか、毎日一緒に帰ってるらしいぜ、なんつったっけ? ほら沢渡先輩とよくいる…』


「柳先輩、倉橋先輩と付き合ってるってマジっスか?」

気になって、気になって、口に出していた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「柳先輩、倉橋先輩と付き合ってるってマジっスか?」

訊いてくる赤也の眼差しにふと疑問が過る。
それが好奇心でくるものならば、赤也らしい……がその眼はどこか違うような気がしてならない。
今朝のことを考えて、実に単純明快な答えが出てきた。
なるほど、倉橋に魅せられた人物がここに1人現れたという訳か……だが、赤也の場合、それは憧れに近いものだろう。
しいて言えば、理想の姉というべきか。
チラリと精市を見れば、ニコニコと笑みを浮かべているが眼が笑ってはいない。

さて、どうするか。

倉橋との関係は無論、赤也が聞いてくるような関係ではない。
謂わば、俺は狙われやすい倉橋のボディーガードだ。それは昨日、精市にも理解してもらえたし、今日から精市の役目になった。
が、学校の一部でそう噂され、今日から精市と帰る倉橋にどのように影響するか。

「いや、付き合ってはいない。お前も知っているだろう、うちと倉橋の家が近いことを」

「へ? そ、そうでしたっけ?」

「そういえば近かったな」

弦一郎が相槌をうちながら答えた。

「そういえば、真田が赤也と間違えて、倉橋さんを殴った時赤也も一緒に送っていったっけね」

「う、うぐ…」

まだきちんと許してはいないのだな、精市。弦一郎が俯いているぞ。

「倉橋はよく図書館で本を読んでいてな、帰りに会うことが多くて、近いし一緒に帰っていただけだ」

本来は違うがわざわざ言うこともあるまい。

「ふ──ん、そうなんスか」

「最近はだんだん暗くなるのも早くなりましたし、女性の一人歩きは危ないですからね」

「だな、倉橋って結構可愛いし、狙われやすそうだしな〜」

まだみんなの記憶にある夏祭りのことと合宿中のこと。

「まぁ、今日から俺が送って行くから大丈夫だよ」

「は? なんで幸村部長が? 家、反対方向っスよね? だったら俺が──」

「赤也は部活があるだろう」

バチバチバチと何やら火花が飛び散り始めたが、軍配は精市になるだろう。
倉橋のあの様子からすると、自覚した確率は高い。
まぁ、敢えて言わないでいてはやる。このわざと薄味にしてくれた弁当にお詫びにな。
俺はそうして、倉橋が作ってくれた弁当のおかずを口へと運ぶ。
優しい味がした気がする。

「──そういえば用事があるんだった。ごめん、先に失礼するよ」

立ち上がる精市に、皆がそれぞれ答えると屋上を出ていった。
ふむ、弁当箱の返却を頼もうと思ったが、やはり自分で渡すのが礼儀だな。
食した弁当を洗ってから包み、俺は残りの昼休みを過ごしたのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴り、教室へと入ると自分の席から離れた場所にある倉橋さんの席を見た。
そこには楓と話をする倉橋さんの姿。
何を話しているのか気になりながら、先ほど会った蓮二に頼まれた弁当箱(洗い済み)を持って近寄った。

「礼儀に欠けるが返しておいてくれないか?」

まぁ、普通なら本人が返すべきだろうけど、蓮二も忙しいらしい。

「倉橋さん」

声をかけると、びっくりしたのか肩が跳ねるのが見えた。

「ごめん、驚かせちゃったかな?」

「う、ううん。大丈夫。どうかした?」

びっくりしたのか苦笑する彼女に、スイッと手渡した。

「蓮二に頼まれたんだ。放課後忙しいらしくて、直接礼をいって渡せないのが申し訳ない、そうだよ。あ、洗ってもあるって」

「そんな、べつに構わないのに……ありがとう、幸村くん」

「ううん。気にしないでいいよ。あ、楓、なんだか放課後早めに生徒会室に来いってさ。伝えたから」

「……アンタ、私と彩香への態度全く違うわね! いいから、さっさと席に戻りなさいよ」

「それは楓もね。じゃあ、放課後ね、倉橋さん」

「え……あ、うん。じゃあまた帰りに」

控えめに手を振る倉橋さんに笑いかけながら、席へと座る。
なんだか、元気がないようだけど気のせいだろうか。
それでも、ひとつひとつの仕草が愛しくて、気持ちが止まらなくなる。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


キーンコーンカーンコーン
授業終了のチャイムが鳴り、帰宅準備をしてから倉橋さんの席へと向かった。
楓は先に挨拶して教室を出ていったようだ。

「倉橋さん」

「あ…幸村くん…」

声をかけるとやはりどこかいつもと違う。
今朝も違っていたが、蓮二がいうにはあれは照れている故だと言っていたし、お昼までは少し頬を染めながらも笑って接していてくれたのに……どこかよそよそしい。

「準備出来た? 帰ろうか?」

「えっ、あー…ごめん。私、ちょっと用事が出来て……」

「用事?」

「う、うん……」

おかしい……。本当にどこかよそよそしい。
それになんで、さっきから眼を合わせてくれないのだろう。
さっき話し掛けた時は、まだ眼を合わせてくれていたのに、なんで?

「……何かあった?」

「えっ、そ、そんなことないよ」

ようやく顔を上げた倉橋さんの眼がどこか潤んでいる。泣いた?
自然に手が顔へと動くと、ハッとした倉橋さんがススッと下がった。

「あ、あの……用事あるからごめんね!」

「えっ…」

「また明日!」

ガタガタと音を鳴らして、倉橋さんは鞄を持って教室から出ていった。

何が、起こったんだ……。

あからさまな避け方に俺は呆然としてしまった。



To be Continued



あとがき

本当に何が起きた?という感じですが、あまり大したことではないと思う。多分。
感想頂けたら嬉しいです。


2010/09/18


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