49

テニスの王子様

「……失礼な態度、取っちゃった…」

一気に教室から走ってしまい、気づけば玄関まで来ていた。
自分のした事にズーンと少し落ち込みながら、靴を履き替えて、校舎から出て歩いていく。
ふと視界に入った女の子に思わず眼を見開いてしまったが、彼女はこちらには気付かないようで、頻りに手鏡を見ていた。

(……待って、るのかな…)

ズキンと胸が痛くなった。
また涙腺が弛むのを感じながら、彩香はぐずっと鼻を啜った。
そして、それを見ないように校門へと向かった。

(早く帰ろう。そうだ、国光の誕生日ケーキの練習でもしよう)

うん!と力強く頷きながらも、校門の外からチラリと振り返ると、ちょうど幸村くんがさっきの子と話している姿が目に入る。
ズキン、また心が痛む。

「……なんだ、また自覚したら失恋か…」

大和先輩の時と同じだなんて、つくづく自分の恋はうまくいかないのかもしれない。

「……見なければ良かった」

ポロ、と頬に熱いものを感じて、ハッとすると同時にドンッと衝撃を受けた。

「きゃっ…」

「あ、わりぃ!」

倒れるかと思ったら、誰かの腕がぐいっと身体を引っ張りあげた。

「倉橋じゃねぇか、大丈夫か?」

「桑原くんに、丸井くん…?」

「倉橋か、あっぶねぇな! 立ち止まってんなよ」

プクーとガムを膨らませながら言う丸井くんに、ごめんと謝ると桑原くんが体勢を立て直してくれながら、腕を離してくれた。

「ブン太がぶつかったのも悪いんだから、謝れって!」

「ん、あぁそっか。悪かったな」

「ううん、こっちこそごめんね。それと桑原くん、ありがとう」

「いや、大事なくて良かったぜ。そういや、お前、幸村と帰るんじゃなかったのか?」

「えっ、なんで……」

知ってるの?と聞けば、幸村くんが言っていたらしい。
でも、幸村くんは……。

「あ、えっと用事があって…」

「そうなのか?」

「う、うん。私もスーパーに寄ろうかと思って……もうすぐ国光の誕生日でケーキ焼こうと…」

「ケーキ!? なに、倉橋ケーキ作んのかよぃ」

思って。と言おうとした所で、丸井くんに遮られてしまった。
見れば、なんだかキラキラとした眼で見てくる。甘いもの好きなんだっけ?

「う、うん。練習しようかと思ってて…」

チラリと校門から覗くと、幸村くんとさっきの女の子がいない。

(……一緒に帰ったのかな…)

門は違う場所にもあるし。

「おっし、俺らもスーパーに行こうぜ、ジャッカル」

「なんでだよ」

「倉橋の付き添いだよ、付き添い」

「はぁ!?」

だからいきなりの丸井くんの言葉に俯けかけた顔を上げた。

「どんなケーキ作るか、気になるじゃんか。な、な、倉橋、ケーキ作ったらくれよ」

「だから手塚の誕生日ケーキだろ」

「練習したやつだよ、バカハゲ」

「ハゲじゃねぇっつーの!」

「い、いいけど……うまくいくか分からないよ?」

いいよ。と軽く言い切った丸井くんがなんだかおかしくて笑えてしまった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


用事があると言って走って行った倉橋さんを追い掛けようとしたら、声を掛けられた。

「幸村くんっ!」

「君は……」

「あ、あの……良かったら一緒に帰れないかな〜って…」

肩にかかる髪先をいじりながら、上目遣いで聞いてくる斎藤さん、だったかな
こうしてる間に倉橋さんはいなくなってしまったようだ。

「…………」

「幸村くん?」

「……悪いけど、君と帰るつもりはないんだけど」

「そんなこと言わないで! 今日だけでいいから……お願い!」

必死になって懇願してくる姿にため息をついた。
昼休みも断ったら、思い出にするから抱きしめて欲しいと言ってきたし…。
それなのに今度は一緒に帰って欲しいなんて……今日から倉橋さんと一緒に帰れると喜んでいれば、用事があるからと先に行ってしまうし。用事なんて付き合うに決まってるのに。
ハァ、とため息をついたらぐいっと腕を引っ張られた。

「こっちから行こう」

「はぁ?」

「一緒に帰ってくれるんでしょ」

ぐいぐいと引っ張られていった。
なんなんだ、この子?
途中でハッとなって、とられていた腕を払った。

「幸村くん?」

「言っただろう、一緒に帰るつもりはないって」

「で、でも…しょうがないなって感じで頷いてくれたし」

「そんなことしたつもりはないよ」

「だって「精市?」」

斎藤さん?の言葉を遮って、名前を呼ばれた。この声は

「蓮二、と楓」

「こんなとこで何してるのよ、彩香は?」

「……用事があるからって」

振り向けば、荷物を持った蓮二と楓が立っていた。
楓は斎藤さん?をチラリと見た後、何故か彼女は走っていった。
なんなんだ?

「あの子、斎藤 姫華だっけ?」

「確か、E組だったな」

「あ、そうなんだ」

そんな名前だったんだ。と走っていった方を眺めていると、蓮二が口を開いた。

「さしずめ、昼休みに席を立ったのは彼女に呼び出された確率、92%」

「当たり。断ったんだけどね、意外にしつこくて」

「……昼休み…?」

「どうかしたのかい、楓」

昼休みという言葉に反応する楓に聞いてみると、もしかして…と悩んでいた。

「ね、ねぇ…もしかして呼ばれた場所って、校舎裏だったりする?」

「ん、ああ。なんだい、見てたのかい? 悪趣味だね、楓」

肯定すると、楓は額に手を当てている。

「違うわよ。私じゃないわよ」

「は?」

「見たのは私じゃない。見たのは「倉橋の確率、89%」……当たり、柳」

「え……」

一瞬、楓と蓮二の言ってることが分からなくなった。
まさか、見てたって……。

「精市、断ったと言ったが何かしたのか?」

「……思い出に、するから、抱きしめて欲しいって…」

「アンタ、抱きしめたの!?」

「……」

「……呆れた。さすがバレンタインにお返しをきちんとするだけあるわ。言っとくけど、そんなの優しさなんかじゃないからね」

ぐさりと楓の言葉が突き刺さる。
バレンタインのお返しをすることは別としても、あれは断らなくてはならないことだった。
しかも、よりによってその場面を倉橋さんに見られるだなんて……。

「あまり精市を責めるな、沢渡」

「だって……おかげで、彩香気落ちしてたんだから。もうすっかり幸村に彼女がいるもんだと思って……だから、一緒に帰っていいのかなって悩んでたんだわ」

だから、昼休みに声を掛けた時様子がおかしかったのだろうか。
じゃあ、用事があるっていうのも嘘で、俺に彼女がいるって勘違いしている……?

「そんな、」

「沢渡。とりあえず、倉橋に連絡してみてくれ」

「あー、うん」

傍らで携帯を取出し、電話をかける楓を眺めていた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


スーパーの製菓品コーナーで材料を見ていると、ブルルと携帯が震えた。
【着信:沢渡 楓】
表示された名前を見て、首を傾げながら、電話に出た。

「もしもし、楓ちゃん?」

『彩香、今、どこ?』

「今? スーパーだけど」

『スーパー?』

「倉橋〜、どうしたんだよ」

「今、電話中なんだから騒ぐなよ、ブン太」

「騒いでねぇだろ! ハゲ」

「ハゲじゃねぇっつーの!」

『……もしかして、丸井とジャッカルもそこにいるの?』

「え、うん。いるけど」

電話に出ると隣のお菓子コーナーにいた丸井くんが話し掛けてきて、嗜めた桑原くんと言い合いしている。
声が聞こえたのか楓ちゃんに聞かれ、頷きながら返事をした。

『なんでスーパーにいるの?』

「え、ああ。もうすぐ国光の誕生日でしょ、ケーキの練習しようかなって。楓ちゃんも一緒に作らない?」

『え、いいの? あ〜、私も作ろうかと思ってたんだけど、不安で……彩香に手伝ってもらえるなら百人力よ!』

「ふふ、いいよ。じゃあ、どんなケーキがいいかな」

『えっとね、手塚くんのイメージだとチーズケーキかショコラケーキなんかどうかな……っ痛! 何するのよ、柳!』

『……お前は何の為に電話を掛けたのか分かっているのか』

『あ……ごめん。すっかり忘れてた』

「楓ちゃん、柳くん?」

『もしもし、倉橋か?』

「柳くん、どうかした?」

『ああ。今日は弁当をありがとう。とても美味かった』

「そう? なら良かった。味は大丈夫だった?」

『ああ、わざわざ俺の好みに合わせてくれたようだな、すまない』

「ふふ、いいよ。それにお祖母ちゃんも薄味がいいみたいだし、慣れてるから」

『そうか。今日は送れなくてすまない。気をつけて帰ってくれ……精市のこともすまなかったな』

急に幸村くんの事を言われ、ドキンとした。
そういえば、柳くんが幸村くんに頼んだんだよね。やっぱり断っておけば良かったかな……。

『蓮二、それは俺の口から謝るよ』

思いがけない声が携帯の向こうから聞こえて、思わず眼を見開いた。
なんで゙其処゙にいるの?
あの子と帰ったんじゃないの?

『もしもし、倉橋さん?』

「幸村くん……?」

『うん。そうだよ。用事って本当だったんだね。でも言ってくれたら、スーパーくらい付き合うから遠慮しないで言ってよ、ね』

「え、でも……幸村くん、彼女と」

『俺には彼女なんていないから安心していいよ』

「……っ! そ、そうなんだ……えと、ごめんね。昨日も色々付き合ってもらったから悪いなって思って…」

喜びと申し訳なささに謝ってしまうと、フフッと笑われてしまった。

『今、どこのスーパー?』

「え? あ、駅の近くの…」

『じゃあ、今から行くから』

「へ?」

『フフッ、蓮二の代わりに俺が送って行くって約束したからね。それに色々心配だし、だから待ってて』

「で、でも!『昨日も言ったよね。心配で帰るより、送っていって安心して帰りたいって』…幸村くん…」

『もう、あんな思いするのは嫌なんだ』

「……幸村くん。ごめんね、ありがとう。ここで待ってるね」

幸村くんの言葉に胸が熱くなって、ギュッと携帯を握った。
嬉しいと思えた。そんな風に幸村くんに思われていたことが。自惚れてしまいそうになる。

『うん。あ、ジャッカルか丸井に代わってもらえる?』

「え、うん。丸井くん、幸村くんが代わってって」

近くにいた丸井くんたちを見ると、なんだか譲り合っている。
電話は桑原くんが出たみたいだけど、なんだか冷や汗を出していた。
どうしたのかな?

「く、倉橋……幸村が代われって」

「え、うん。もしもし?」

『じゃあ、10分くらいで行くからね』

「分かった。気を付けてね」

『……うん、ありがとう』

そう言って電話を切った。なんだか照れ臭いな。

「(幸村が着くまで居ろってさ……)」

「(……マジ逃げてぇ…)」





To be Continued



あとがき

なんだか駄文だわ。
勘違いのヒロイン。よくあるパターンです(苦笑)
感想頂けたら幸いです。

2010/09/23


-54-

青空 top