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テニスの王子様

楓が倉橋さんに電話を掛けたら、スーパーにいるらしい。しかも丸井やジャッカルも一緒だなんてどういうつもりなんだろう…。
そんな事を考えていると、全く関係ない話をし始める楓に蓮二がチョップをした。

「えっとね、手塚くんのイメージだとチーズケーキかショコラケーキなんかどうかな……っ痛! 何するのよ、柳!」

「……お前は何の為に電話を掛けたのか分かっているのか」

ようやく電話を掛けた意味を思い出したのか、楓は俺を見ながら

「あ……ごめん。すっかり忘れてた」

「全く、貸せ」

ため息を吐きながら今度は蓮二が電話に出た。
その間、楓から話を聞けば、手塚の誕生日ケーキを作るから材料を買いにスーパーに行ったらしい……手塚にケーキ…想像がつかない。
そう思う反面、少しホッとした。本当に用事があったんだと。

「まぁ、良かったじゃない。逃げられたけど、用事はあったみたいで。嘘は言ってないでしょ、彩香」

「そうだけど……それくらい付き合うのに」

「しょうがないでしょ。誤解しちゃっただけなんだから」

「……」

誤解をしたのは何故なのか、何故、逃げるように走っていった理由を知りたくなる。
もしかしたら、と自惚れてしまう。
そこで電話で倉橋さんと話している蓮二を見た。

「そうか。今日は送れなくてすまない。気をつけて帰ってくれ……精市のこともすまなかったな」

少しだけ眉を寄せて、謝っていた。違うだろ、蓮二。
俺は蓮二に近寄り、手を差し出した。

「蓮二、それは俺の口から謝るよ」

「フッ、それもそうだな」

蓮二から電話を受け取ると、耳にあてた。

「もしもし、倉橋さん?」

『幸村くん……?』

「うん。そうだよ。用事って本当だったんだね。でも言ってくれたら、スーパーくらい付き合うから遠慮しないで言ってよ、ね」

『え、でも……幸村くん、彼女と』

彼女、そんなのいる訳がないじゃないか。
だって俺が好きな人は君なんだから──

「俺には彼女なんていないから安心していいよ」

むしろ君以外の人を彼女にするだなんて、ありえない。

『……っ! そ、そうなんだ……えと、ごめんね。昨日も色々付き合ってもらったから悪いなって思って…』

悪いだなんて、そんなこと一切ない。
君が手塚の為に選ぶ物だとしても、君と一緒にいられるのであればどんな所だろうが、付き合うよ。
俺は倉橋さんの居場所を聞くと、今から行くことを伝えた。また悪いからと断れかけたが、何度だっていう。
君が好きだから、だから無事に家まで送り届けたい。
もう嫌なんだ、あんなにゾッとすることは。

『……幸村くん。ごめんね、ありがとう。ここで待ってるね』

待ってる。何故か分からないけど胸が熱くなって、それを隠すように丸井かジャッカルに代わるように頼んだ。
ばれるはずもないんだけどね。

『ゆ、幸村…? どうかしたのか…』

「フフ、2人ともなんで倉橋さんと一緒にスーパーになんて行ったんだい?」

『や、別にこれは丸井が…』

『ジャッカル、てめー! ゆゆゆ幸村くん、ジャッカルが言ったんだぜ、ジャッカルが!』

『俺かよ!?』

「まぁ、どっちでもいいけどさー。俺が行くまで待ってろよ」

『っ、あ、あぁ…。分かった…」

彼女を1人にさせたら許さないからな。

「じゃあ、倉橋さんに代わってくれるかい」

『あ、ああ。く、倉橋……幸村が代われって』

『え、うん。もしもし?』

「じゃあ、10分くらいで行くからね」

『分かった。気を付けてね』

「……うん、ありがとう」


そう言って電話を切り、携帯を楓に渡した。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


携帯を手渡されたが、何やら幸村の様子がおかしい。
口元に手をあてがったまま俯いている。え、なにしたのよ?
柳もどうしたんだ、とばかりに幸村を見ている。

「……どうかしたのか、精市」

「…フ、フフフ…フフフフフ…」

いきなりの笑い声に思わず、柳を盾にしたら、柳がこちらを開眼して睨んだ。こわっ!

「待ってるとか、気を付けてね……とかって、なんか恋人同士みたいだよね…」

「「…………」」

「おっと、早く行かないと。じゃあ、また夜にね。蓮二」

「あ、あぁ…」

意味不明なことを呟いて、走っていった幸村の後ろ姿をただ見送った。

「……ねぇ、柳」

「その先は言うな」

「いや、敢えて言う。──恋人じゃなくても言うよね、そんなこと」

「………………あぁ…」

幸村の頭が湧いたのかと思った。
彩香に言われた言葉を反芻しながらも、通常の倍くらいで彩香の所へと行くだろう幸村。
彩香の気持ちは知っているけど、なんとなくムカッと来てしまった。

「さぁ、早く戻らないと片倉が待っているぞ」

「待たせとけ、あんなヤツ」

「そうか、沢渡はずっと仕事がしていたいみたいだな。片倉に伝えて「さぁ、行くよ! 柳」」

さっさと仕事片付けて、帰ろうっと。
腕をぐるぐる回しながら、私は柳と並んで生徒会室へと向かった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


スーパーで買い物を(急いで)済ませて、入り口付近で待っていると、小走りて近づいてくる幸村くんが視界に入った。

「倉橋さんっ!」

「幸村くん、早かったね」

駆け寄って来た幸村くんは電話を切ってから、さほど時間が経っていないというのに息一つ乱してなんかいなかった。

「……すごいな…」

「? なにが?」

「え、あ、ごめん。口に出してた?」

頷いた幸村くんに「息乱してないから」と言えば、「大した距離じゃないからね」と微笑された。
……やっぱり、幸村くんって綺麗だ。そんなことを考えていたら

「じ、じゃあな、倉橋」

「気を付けて帰れよぃ…後、ケー「丸井?」なんでもないぜぃ」

2人はなんだか落ち着きがないみたいに、慌て行ってしまった。
私は急いで2人に声を掛けた。

「2人ともっ! ありがとう! また明日ね」

「「おぅ!」」

2人は振り向いて手を上げようとすると、彩香の隣にいた幸村の表情を見てから慌てて行ってしまった。

「? 何か、用事でもあったのかな?」

「さぁ……そうかもしれないね。行こうか?」

「え、あぁ…うん……っ!」

声を掛けられて振り向くとにこにこと笑ってる顔になんだか恥ずかしくなる。
ふと左手に持っていた重みがスッと無くなったのに気付いて横を見ると、幸村くんが買い物バックを持っていた。

「持つよ」

「え? 悪いからいいよ!」

「これくらい大丈夫だよ。荷物を持つのは男の仕事だよ。それに」

「……っ…!」

「こう出来ないよ」

スッと手を引っ張られて握られた。

「こうしてカップルに見えたら不審者も近寄って来ないだろ。さ、行こうか」

「う、うん……(手が熱い…)」

どうか手を通して、このドキドキが伝わりませんように……。
そう願わずにはいられなかった。
自覚したせいか、幸村くんの傍にいるのが恥ずかしくて、なんだかいられない。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


繋いだ手が熱いのは俺の手なのか、それとも倉橋さんの手なんだろうか。
横を見ると、照れているのか少し顔を俯かせながら歩く倉橋さん。
ヤバイ、本当に可愛い。
頬に熱が集まりそうで、それをなんとかして、冷静を保とうとごまかしている。

──言った方がいいんだろうか

でも少しだけ……いや、すごく怖い。本気で好きになるとこんなにも臆病になるなんて。
彼女は優しいから、今はまだこのくすぐったいような関係がいい。
少し緊張を解すように、会話をし始めると先ほどの赤かった頬はいつもと変わりなくなっていた。

「……(分かってるのかな、君の隣を歩くのに平常心ではいられなくなっていることに)」

「それでね、楓ちゃんとケーキ食べたんだけど……幸村くんはどんなケーキが好みなの?」

「ん〜、なんでも食べるからね。でも倉橋さんの手作り食べてみたいな」

「っ! で、でもでもあまり上手じゃないし…!(顔が熱くなる)」

「フフッ…(可愛い)」

今はまだもう少しこのままで。
だって俺はまだ君のことをよく知らない。
君もまだ俺をまだ知らない。
ゆっくりと自然に近付けていけたら、いいな。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


幸村くんは優しい。そして期待させる。熱くなる頬を片手で抑えた。自惚れてしまいそうになる。
でも怖くもなるの。期待した分だけその優しさが違う人に向いてしまったら、どうしようって思う自分が。
だから昼休みに抱き合ってるのを見て、頭の中が真っ白になった。
抱きしめたのは頼まれたから、らしいと楓ちゃんからメールが届いていたけど……頼まれたなら、抱きしめるのかと思うと嫉妬してしまう。

幸村くんは、恋人じゃないのに……

久々にこんなに人を好きになった気がする……。
隣で何も知らずに笑うのが、少し辛い。
でも、今はまだこのまま手つないでいたい。

幸村くん、嬉しくて、苦しいよ……。





To be Continued



あとがき

なんだろう、これ?
さっさと告れよ、バカー!(笑)


2010/10/03


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