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4校時目の体育は男女ともマラソンだった。
「彩香〜、なんか顔色悪くない?」
更衣室で制服へと着替えていると、楓にそう言われ彩香は「寝不足かな〜」と苦笑した。
「本当に大丈夫? 彩香ちゃん」
「保健室に行った方がいいんじゃない?」
他のみんなにも言われ、彩香は「あ〜、うん…」と曖昧に答えた。
保健室にお弁当持って行くから、先に行ってなさい!と楓の言葉をもらい、彩香はやや俯き加減で保健室へと向かっていた。
それと同時にお腹も痛くなってきて、彩香は廊下の隅でしゃがみこんでしまった。
(……どうしよう、頭もお腹も痛くなってきた……)
楓と一緒にいれば良かったかも…と思っていると声を掛けられた。
「倉橋、こんな所でどうした?」
「倉橋先輩、顔真っ青っスよ!」
顔を上げればそこには柳くんと切原くんの姿があった。
柳くんが何か考えた後、切原くんに伝えた。
「赤也、3Cへ行って沢渡と……精市を呼んでこい。俺は倉橋を保健室へ運ぶ」
「柳、くん…?」
「なっ!」
「少し我慢しろ。早く行け、赤也」
スッと彩香を抱き上げた柳に赤也は驚いたが、急かすように言われた赤也は廊下を走って行ってしまった。
「……柳くん、私、歩けるよ…」
「そんな青い顔をして何を言っている。とりあえず、目を瞑っていた方が酔わないだろう」
「う、うん……ありがとう…」
「気にするな」
保健室に着き、保健医に貧血だろうと言われ、彩香はベッドで横になるよう言われた。
慌ててくる楓と幸村まであと少し。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
授業が終わり、教室へ戻るとまだ女子の姿は見当たらなかった。
別にお昼を一緒に食べる約束をしていた訳ではない。
ただ今日の倉橋さんの様子がいつもと違って見えたから気になっていた。
暫くすれば、女子も戻って来て教室内はざわざわと休み時間特有の雰囲気を醸しだしていく。
そんな中、楓一人だけが教室へと戻って来た。荷物を2つ抱えて。
「……あれ?(倉橋さんはどうしたんだろう)」
「幸村? なに、お昼あいつらと食べないの?」
あいつら、とはテニス部の連中のことだろう。
「いや、食べるけど」
そう返事をして、目に入ったのは楓がお弁当を2つ持っていることだった。同時にバンッ!と教室の後ろの扉が乱暴に開けられた。
そこにいたのは、赤也だった。
「「赤也?」」
楓と顔を見合せながら、名前を呼ぶとハァハァと息を整えながら、こちらを見た。
「ゆ、幸村、部長……」
部長はもうお前だろ、と何度訂正しても癖が抜けきらないのだろう、赤也は未だに俺と真田を部長、副部長と呼んでしまう。
「どうしたんだい、赤也? お弁当は持ってきたの?」
「いえ、あ、の……柳先輩に頼まれて呼びに来たんス」
「蓮二に? 何かあったのかい?」
「えっと、飲み物買いに行ったら柳先輩と一緒になって、ここに来る途中で廊下に倉橋先輩が真っ青な顔で座ってて、したら柳先輩が保健室に幸村ぶ、先輩と楓先輩呼んで来いって、言われたんス」
倉橋さんが真っ青な顔で座ってた、って……。俺は横にいた楓と同時に叫んでいた。
「「もっと早く言えっ! バカ也っ!!」」
「ひ、酷いっス!」
「保健室にいるのね、分かった」
楓はそう言って、教室から出ていき、俺も彼女を追い掛けた。
真っ青な顔で座ってたって、倒れた訳じゃないよね!?
なんか小さい頃、身体弱かったみたいなこと言ってたような、ああ、病気とかじゃないといいけど……っ!
焦った俺は、途中ですれ違った真田と柳生に何か言われたけど聞く耳なんてなかった。多分、真田のことだから「たるんどる!」とか言ったんだろうけど、聞き飽きたよ。
楓に追いつき、追い越して、保健室のドアを開けると、倉橋さんが蓮二に抱きついていたのが目に入った。
「……」
「精市?」
「(……どういう事だ?)」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
保健室へ倉橋を運び、精市たちが来るのを扉近くで待つことにした。
倉橋は貧血を起こしたらしい、女子特有のモノによるものらしく、保健医と話している。
少し休むように言われ、先生は湯タンポを用意するらしく、流しへと移動した。
椅子からベッドへ移動しようとした倉橋がよろめいたのはその時だった。
貧血を起こしたままで、急に立ち上がっては倒れる!と支えた時、扉がバンッ!と開いた。
「……」
「精市?」
「……」
無言でこちらを見ている精市に声を掛けるが、反応がない。
……ふと、自分の状況を確かめてみると、俺は倉橋を抱きしめているように見えるのではと思った。
勘違いしないでもらいたいのだが…と願った時、また声が聞こえた。
「柳先輩と倉橋先輩が抱き合ってるーっ!」
止まってる精市の後ろから叫んだのは赤也で、沢渡に関しては「おぉ!」と口元に手を当てている。
というか早く入ってきてくれ。と俺は願った。
「蓮二、何をしてるんだい」
「精市、勘違いしないでくれ。そして赤也、人を指差すな。沢渡、倉橋をベッドに運ぶのを手伝え」
「え、あ、うん。赤也、これ持ってて」
沢渡は持っていた荷物(おそらく弁当だろう)を赤也に持たせると、こちらに近づいてきた。
「彩香? 大丈夫?」
「……あ〜、楓ちゃん…貧血みたいで…」
「……そっか、わかった。柳、とりあえず彩香をベッドに」
チラリと一瞬、精市を見て顔を俯かせた倉橋がなぜ貧血なのかを悟ったのだろう、沢渡は曖昧に頷き、白いカーテンを引っ張った。
「すまないが我慢してくれ」
「……ありがとう」
少し抱き上げベッドへと移動させる際、あっ!という声が聞こえたが、今は倉橋を横にさせるのが先決だ。
「ほらほら、沢渡以外は用事ないなら出ていきなさい」
先生が湯タンポを片手に、もう片方の手で犬を追い払うが如く、シッシッと手を振る。
精市は心配そうに倉橋を見つめていたが、それに気づいた沢渡が何かを言ったのだろう、倉橋が身を起こした。
「幸村くん、切原くん、心配かけてごめんね。柳くんも色々ありがとう」
「……大丈夫かい?」
「少し、横になれば大丈夫だから…」
「……そう、無理しないでね」
「うん」
微笑した倉橋に、少し安堵したのか精市が少し顔を緩めた。
「倉橋先輩、お大事に〜」
「ありがとう、切原くん」
軽く手を振る倉橋は、見つけた時よりは顔色を取り戻している。
少し休めば大丈夫だろうと思った俺は、精市と赤也を連れて保健室から出たのだった。
そして、教室に戻る道すがら抱きしめた一件(支えたのだが)を精市に説明をした。
納得がいかないのかなんなのか、じと〜という目で見られてしまった。とりあえずデータに加えておこう。
教室の前では弦一郎たちが待っていた。
弦一郎が廊下を走った精市に一喝すると、精市はにっこり笑いながら「大事な人が倒れたって聞いて、悠長に歩いていられないだろ」と言い包めていた。
さっきの倉橋以上に真っ青になった弦一郎だったが、俺は保健室に行こうとは言わなかった。いつものことだしな。
柳生やジャッカルは貧血を起こした倉橋を心配し、紫に限っては仁王を放って走っていってしまった。
やがて、弁当を食べおわる頃、沢渡と紫が戻ってきて、食べるようにと倉橋の手作りケーキを取り出した。
目を輝かせた丸井が一番に手をつけようとしたが、凄い勢いで叩かれ、手が真っ赤に腫れたのを皆ただ見ていた。
「……うん、美味しい」
「「「「「…………」」」」」
「あれ、みんな食べないの?」
「食べるに決まってるでしょ!」
「彩香のケーキなんだから!」
「「「「「(食べたいが怖くて手が出せない)」」」」」
倉橋の手作りケーキはほぼ精市が食したと言ってもいいだろうな。
沢渡と紫は奪っていたが、テニス部でそんなことを出来る人間は(紫以外)いない。
だが、沢渡曰く倉橋が『みんなで食べてね』と言っていたのもあり、なんとか食べることが出来た。
手塚へのケーキなのだろうか、あまり甘くなく俺にとっては上品な感じだったが、丸井や赤也には物足りなかったようだ。
丸井なんて「もっと甘い方がうまい」なんて言ったもんだから、精市にケーキは奪われるわ、ブダだの腹がたるんでるだの言われて、最終的にはジャッカルが宥めていた。
恐ろしいくらいの倉橋への想いに、早くくっついてくれればいいのにと願わずにはいられなかった。
精市にアドバイスでもして、告白を促してみようかと思ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
倉橋さんと蓮二が抱きしめ合ってるように見えたのは事故だったようだ。よろけた倉橋さんを支えたという。
まぁ、蓮二なら許してもいいかな一回くらいはね。
それにしても貧血なんて、と心配したら蓮二にコソッと告げられたことに少し恥ずかしくなった。
女子特有の…なんて言われたら、あぁ。としか言えない。
とりあえず、倉橋さんは5校時目は保健室にいるみたい。今日こそはきちんと送っていかなきゃ。体調が悪いなら尚更だ。
ケーキの事もその時言おうっと、甘過ぎなくてちょうど良かったし、なにより美味しかった。
また食べたいな、と思ったよ。
君と付き合うことが出来たら、食べれるだろうか、俺の為だけに焼いたケーキを。
To be Continued
あとがき
ヒロイン、あまりにもいなさすぎ!
前回の手紙やら、ヒロインの心情は次で。
グダグダですみません、読んで下さってありがとうございました。
2010/11/14