54
保健室にいなかった彩香を探していたら、バタバタと何人かの足音を聞いた。
ちらりと見れば、見覚えのある女生徒たちが数人いる。
「……楓?」
隣を歩いていた幸村に手で制して、黙っているように指で合図した。
「なんなのよ、あの女!」
「まさか、赤也くんにまで手を出してた訳?」
「すんごい、ムカつく! 倉橋 彩香!」
聞こえた親友の名前に、幸村も同じように反応している。と同時に彩香がこいつらに呼び出されたという事を知った。
私は彩香が心配になり、幸村を見て合図をしてから、彼女らに声を掛けた。
「ねぇ、あなたたち」
「っ、沢渡 楓!」
「……なによ」
「うちのクラスの倉橋さん、知らないかしら?」
「「さぁ、知らないけど」」
「けど?」
「どこかで男を漁ってるんじゃない?」
「そうそ、股掛け得意みたいだしぃ〜」
クスクス笑う彼女らに眉を潜めた。相変わらず嫌な女たち。
その中に斎藤 姫華の姿を見つけ、内心ため息をついた。
「今度は彩香を苛めたって訳? 懲りない奴らね、アンタらも」
「なんですって?」
「さしずめ、幸村が彩香に優しいからって所かしら? 下らないことばっかね、アンタらは」
「なっ! 下らなくなんかないわよ! あの女、幸村くんだけでなく柳くんにまで手を出してんのよ!」
「そうよ! あんなのが彼らと帰るだなんて許せる訳ないじゃない!」
キーキーと騒ぐ彼女たちにこめかみを押さえる。
彩香が二股?幸村や柳に?
本当に馬鹿じゃないの?
隠れている幸村の方を一瞥すれば、なんだか黒い空気を放っている。
「幸村や柳と一緒に帰ったからってなによ、アイツらが好きでやってるんだから、彩香は関係ないでしょ」
「関係あるわよ! 姫華なんて1年の時から幸村くんが好きなのよ。それなのに」
「そうよ、だから今までだって」
「幸村と親しくなった女の子に手を出してたって言うんでしょ。それが馬鹿だっての」
「アンタなんて真田くんの幼なじみじゃなかったら、テニス部なんて相手にしてくれないわよ」
「そうよ、切原 紫だって赤也くんの姉だから仁王くんと付き合ってるだけなんだから!」
「本当、アンタも切原 紫もムカつくわ」
きゃんきゃんと煩い奴らに腹が立ってくる。
その時、横から声が聞こえた。
「楓ちゃんや紫ちゃんを悪く言わないでよ!」
「……彩香、って、何その頬!」
見れば、彩香の白い頬に真っ赤な手形。
「あら、二股の倉橋さんじゃない。あ、赤也くんも入れたら三股よね」
「なーに、庇い合い? 美しい友情って訳?」
「やだ、笑わせないでよ!」
アンタらの方がムカつくわよ。
私は彩香に近づき、「大丈夫?」と声を掛ければ、うんと頷かれた。
彩香はいつもとは全く違う顔で彼女らに近づいていく。
彼女らも彩香の様子に少したじろぎながらも「な、なによ」とか言ってる。
だって私も初めて見た、あんなに怒ってる彩香。
そんなことを考えていると、パシンッ!と乾いた音がした。
私は驚きで顔をポカンとし、すっかり影に隠れていた幸村の存在すら忘れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
楓に出てくるな。と牽制され、俺は様子を見ることにした。
どうして、彼女たちは俺たちをブランド品かのように扱うのだろう。
俺たちはアイドルでもなんでもない、普通の中学生だというのに。
まぁ、確かにテニス部には顔がいい奴らが揃っているのは認める。
自慢ではないが、バレンタインのチョコは3桁の個数を貰ったし、前々から告白も絶えない。
だからといって親しくなった女子を誰かが馬鹿にしたり、苛めたりしていい筈がない。
だが、それは年に1、2度起きている。委員会、係、一緒に行動した女子が顔を合わせなくなったりしたのは、彼女たちのせいだったのか。
紫にしても楓にしても、仲間でいい友人だ。まぁ、彼女たちは何だかんだとやり返していたが……。
今、聞いた話では彼女たちは倉橋さんに何かしたらしい。
──さすがに、許せない
そう思っていた時、聞き覚えのある声が廊下に響いた。
「楓ちゃんや紫ちゃんを悪く言わないでよ!」
倉橋さんが立っていた。が、なに、その頬!
楓も驚いているのか声を上げている。だって真っ赤な手形が…。
だが、それでも彼女たちは口々にに騒いでいる。
「あら、二股の倉橋さんじゃない。あ、赤也くんも入れたら三股よね」
「なーに、庇い合い? 美しい友情って訳?」
「やだ、笑わせないでよ!」
あ〜、もう聞いていたくないな。
出て行こうとした時、パシンッ!と乾いた音がした。
顔を上げれば、倉橋さんが彼女たちの1人を叩いていた。
「な、なにするのよ! 乱暴ね!」
「じゃあ、あなたたちがした事は乱暴じゃないの?」
「私たちは、自分の立場を改めなさいって忠告したまでよ」
「そうよ。それでも態度を改めないから、そっちが悪いのよ」
聞いていてムカムカしてきた。
なんだ、その訳の分からない自己中な発言は。
「……だからって、好きだからってやっていい事と悪い事があるわよ!」
「なによ、二股女が! 精市くんや柳くんに優しくされてるからって勘違いしちゃって」
「二人が優しいからって調子に乗んな!」
「……あなた達のしてる事は正しいの?」
「当たり前じゃない」
彼女たちがきっぱり言い、聞いていた楓は眉を潜め、俺もきっと眉を潜めている。
そんな中、倉橋さんが口を開いた。
「幸村くんを好きだからって、貴方たちがそれをしていい権利なんてないわ」
「権利ならあるわっ! 私はファンクラブの」
「ファンクラブだからとか、好きだからって間違ってるわ。好きだから? 何をしても許されるというの?」
倉橋さんの声がどこか悲痛めいている。
楓が倉橋さんの横に立ち「決めるのは幸村や柳であって、アンタたちではない事は確かよ」と告げた。
さすがに何も言えなくなった彼女たちは、ぐっと息を詰まらせている。
「うるさいのよ、アンタら」
逆上したのか、あの斎藤 姫華といい女子が手を挙げた。
「何を、分かった風にっ、」
「倉橋さんっ!」
バッと身体が動き、庇うように倉橋さんたちの前に出て、振り下ろそうとした腕を掴んだ。
「ゆ、幸、むら、くん…」
あっ、と焦って逃げようとした彼女は友達を振り返るとそこには蓮二と赤也の姿があった。
「いい加減、嫉妬は醜いっスよ〜、先輩方」
「暴力でカタをつけようとはいけないな」
「……っ!」
その場に崩れるようにしゃがみこんだ彼女に俺は、目線を合わせるように腰を下ろした。
「……好きでいてくれるのは有り難いと思ってる。でもこんなやり方をしても、俺は君たちを、君を好きにはならないよ」
「で、でも、私、本気で幸村くんのこと…」
「……悪いけど、俺は苛めや陰口が嫌いなんだ。――それに、よくも倉橋さんを殴ってくれたね、許さないよ」
ワッと泣き出したけど、気になんかならない。
俺は振り向き、倉橋さん(と楓)を見た。驚いた顔をしている。
でも俺だって驚いている、倉橋さんの腫れた頬に。
「大丈夫!? 倉橋さん、早く冷やさないと!」
「え、あの……」
「蓮二、部室に氷あったよね」
「あぁ、冷蔵庫にあるはずだ。とりあえず、俺はこいつらを職員室へ連れていく。鍵は――赤也、出してやれ」
「え、あっ、はい!」
ゴソゴソとポケットと漁り、差し出された部室の鍵を受け取ると、俺は倉橋さんの腕を取って歩きだした。
「ああ、楓。クラス委員長には体調悪いって言っといて」
「ちょ、彩香!? 幸村、彩香をどこに連れてくつもりよー!」
「か、楓ちゃん!」
「手当てだよ! さ、行くよ。倉橋さん。蓮二、あと頼んだよ」
「ああ、任せろ」
後ろを振り返る倉橋さんの手を取り、俺は部室へと向かった。
途中、倉橋さんが「授業が…」とか言ってたけど、先生方は研究授業とかで1年の授業を見に行ってて自習なんだよ、と言えば、「そういえば、言ってたっけ」と呟いていた。
なんだか惚れた弱味とはいえ、そんなトコも可愛いだなんて思えるなんてね。
とりあえず、部室へついたら真っ赤に腫らした頬を冷やそう。
そして、大事な話もするから、聞いて欲しい。
To be Continued
あとがき
どうなってんだ、本当に。
フラグ立ってしまった(笑)
感想頂けたら嬉しいです。
2010/12/03