03

テニスの王子様

「え? 今日、テニスの関東大会の抽選会をやってるの? ここ(立海)で?」

部活が休みで帰りにどこかに寄ろうかという話をしていると、隣にいる楓からそのことを聞かされ、彩香は振り向いた。

「うん、そうだよ。だから海友会館の方は他校生がいるから彩香はあまり近づかないように!」

「えっ、どうして?」

「どうしてって、変な奴が彩香に近寄らないようにって決まってるじゃない」

「決まってるの?」

聞いてみるとうん。と楓が頷いていて彩香は苦笑するしかなかった。

(でもテニス部って事は国光が来てるかも……メールしておこうかな…)

携帯を取り出すとチカチカとメール着信のランプがあり、彩香は慌て開くと、やっぱりというか国光からだった。

From:手塚 国光
Sub:no title

関東大会の抽選会に立海に来ている。
会えるか?

‐‐‐END‐‐‐


素っ気ないが国光らしい文面をプッと笑えてくる。

「楓ちゃん、ちょっと待っててもらえるかな? 国光が来ているみたいだから」

「えーっ!? せっかく彩香とデート出来ると思ったのに……」

「ごめんね、ちょっとだけだから」

両手を合わせ、謝ると仕方ない。と言うと海風館のカフェテリアにいるから、と言って行った。
彩香はそれに手を振ると、すぐ近くの海友会館へと歩いていった。
ガヤガヤと騒がしいところをみると、色々な制服を着た学生がわらわらと出てきた。
見慣れている後ろ姿を2つ見つけると彩香は嬉しそうに背中に手を当て「わっ!」と声を出した。

「うわあぁぁっっ!?」

「……っ!」

声を上げたのは従兄、ではなく青学テニス部の副部長の大石だけだった。

「……彩香」

「たまには声を上げて驚いてもいいんじゃないの?」

「く、倉橋さんっ!?」

「こんにちは、大石くん。久しぶりだね」

くるりと振り返れば、クスクスと笑う従妹の姿に手塚は呆れ、大石は驚いたのか口をあけていた。

「ひ、久しぶり。倉橋さん、立海に転校だったんだね」

「うん、今日テニスの抽選会だったんだってね。どうだったの?」

「そ、それがいきなり氷帝と一回戦から当たってしまってね」

「……氷帝…?」

「あ、分からないかな…?」

彩香が首を傾げて復唱すると、大石は苦笑したように聞き返した。

「(……氷帝、氷帝……名前は分かるんだけど、確か──)去年、都大会決勝で青学に勝ったトコよね?」

「あぁ、そうだ」

「そっか。今年は勝たないとね、国光」

「もちろんだ、油断せず行こう」

「応援に行くね、二人とも」

「あ、あぁ。ありがとう、倉橋さん」

にっこりと笑う彩香に大石は頷いたのだった。
そして、二人の姿をみるとなんだか懐かしい感じがしてならなかった。

(……恋人じゃないっていうのが不思議なくらいだよな)

仲がいい二人を見て大石は、笑い合う(手塚はいつもと変わらないが)姿に自分も笑っていた。

「あ、私。友達待たせてるから、ごめんね。関東大会、差し入れ持って行くから」

時計を見て行こうとしながらも、手を振りつつそんな事を言って去って行った。

「こりゃ、敗けられないな」

「あぁ」

二人は彩香の姿を見送ると、組み合わせの結果伝える為に学校へと戻って行った。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


はぁっ、はぁっと息を切らして彩香は走っていた。
手にある時計を見やり、荷物を片手にまた走った。
目指すは関東大会の試合会場であるアリーナテニスコートだ。

「間に合うかな……」

意外にも差し入れに時間を食ってしまった。

「あぁ、どこだろ……」

キョロキョロと辺りを見渡していると、見知った後ろ姿を見つけた。
自販機の前にいる人物は学校で見慣れた人だった。

「桑原くん……?」

「倉橋っ? おまっ、なんでここにいるんだ?」

「え、あ……知り合いの応援しに来たんだけど……。桑原くん、お昼それなの?」

ジッと手元をみると、数個のパンがある。

「あ、あぁ……弁当忘れてきたみたいでな」

「えっ、大丈夫なの? 試合あるんでしょ?」

「あぁ、まぁな」

困ったように話すジャッカルに彩香は考えると、がさがさと紙袋を漁った。

「これ、良かったら食べて」

手のひらにおにぎり4つと唐揚げが入ったタッパーを差し出した。

「いいのかよ? 差し入れなんだろ?」

「うん、いっぱい作ったし、気にしないでいいよ。いつもお世話になってるから」

ニッコリ笑うと、パンの上におにぎりなどを乗せた。

「……持てる? ビニール袋あるよ」

「あぁ、大丈夫だ。こっちこそサンキューな」

「気にしないでいいよ。あ、聞いてもいいかな? 青学と氷帝の試合って何処でしてるか分かる?」

「あぁ、確かあっち……1番コートだったな」

「そっか、ありがとう。桑原くんも試合頑張ってね」

「おう、これ、サンキューな」

手を振る彩香に腕の中のを見せ、ジャッカルは笑っていった。

(……なんかこのまま持って行くとブン太と赤也に食われそうだな…)

せっかく貰ったのに、と考えながらジャッカルはチームメイトの元に戻った。

(そういや、倉橋の知り合いってテニス部員なのか……)

まさか彩香の従兄が青学テニス部部長の手塚であるとは思いもよらないジャッカルであった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


パタパタとまた走っていると、前方から以前よく見ていたピンク色のジャージが目に入る。
その背後には以前のクラスメイトの姿があった。

「竜崎先生? 河村くん?……と誰?」

「おや、倉橋じゃないか」

「え、倉橋さん?」

「どうしたんですか? 試合は?」

もしかして終わってしまったのだろうか?と思っていると、竜崎先生が答えた。

「今から不二の試合が始まるよ。私はこれから無茶しおった、こやつらを病院に連れて行くとこさ」

河村くんともう一人の人を見て話す竜崎先生から、河村くんに目を移す。

「大丈夫なの? 河村くんっ!」

ガバッと手を取ると、右手がやや血だらけになっている。

「ハハハ…ちょっと無理しちゃって……」

「ハハハ…って……」

「倉橋さん、応援しに来てくれたんだろう? 早く行ってあげて」

「う、うん……あ、河村くん。差し入れ持ってきたから後で食べてね」

「あ、ありがとう。倉橋さんの差し入れ久しぶりだね」

「河村、行くぞ」

「はい。じゃあ、後でね、倉橋さん」

「うん、行ってらっしゃい」

三人を見送ってから、試合会場へと足を向けると既に試合は始まっていた。

〈チェンジコート!!〉

見れば、不二くんがリードしていた。最前列に並ぶ、レギュラーたちの姿を見つけ、声をかけた。

「国光っ…」

「彩香」

「どうなの? 試合は」

「あっ、倉橋ちゃーん」

「えっ、倉橋先輩?」

「久しぶりだね、みんな」

声をかけてきた菊丸くんたちに挨拶をすれば、見慣れない子たちに「誰だ、アレ」「立海の生徒?」とか言われた。
1年生かな……と思いながら、国光の隣に並んだ。
見れば、ベンチコーチに帽子を被った子がいる。
竜崎先生がいないなら、国光が座るであろう場所にいるのは誰なんだろうと見ていると、不二くんがこちらに気付いた。

「……倉橋、さん」

「こんにちは、不二くん。応援に来たんだ」

「クスッ……ありがとう。君に応援してもらえるのはすごく嬉しいな」

「差し入れも持ってきたから」

「楽しみにしてるよ」

頑張って!と笑って手を振ると、綺麗な笑顔をみせてくれて、ややびっくりした。

不二は踵を返すとコートに入りながら、もう一度彩香の方を見た。
隣の手塚と話しているのが視界に入る。

(相変わらず、手塚の隣なんだね。でも──久しぶりに君に会えたから、嬉しいよ…)

その後の試合は、不二くんがトリプルカウンターの最後のひとつ[白鯨]という技を繰り出し、あまりの強さにみんな圧倒していた。

「……凄い…」

思わず零れた言葉に隣の国光は呟いた。

「それでもまだ余裕があるみたいだな」

「凄いね、不二くんって」

「不二の実力はこの程度ではないがな」

「そうなんだ…」

それでも隣に立つ従兄がもっと強いことを彩香は知っていた。
ちらりと左肘を眺め、そっと手を触れる。

「……」

「────もう大丈夫だ」

「……うん…」

ポンと大きい手が頭を撫でる。
完治したと聞かされてはいたが、なんだろ。なぜか胸騒ぎがしてならなかった。
国光の試合を見るのが久しぶりだから、だろうか。

見れば、不二の試合は終わりを迎えていた。

〈ゲームセット ウォンバイ青学 不二!! ゲームカウント 6-1!!〉


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「も、桃ちゃんセンパイ…」

「ん? なんだ?」

「あの、部長の隣にいる女の人って誰なんですか?」

「あー、倉橋先輩のことか?」

聞いてくる一年生トリオに教えようとすれば、言葉を遮られた。

「倉橋先パ「倉橋ちゃんはねー、手塚のにゃんだと思う〜?」エージ先輩!?」

「え、なんだか親しいし……」

「部長の恋人、とか…?」

「なんか名前で呼び合ってるし……」

物凄く親しげな様子をチラチラと眺めながら、話していると英二はニヤリと笑った。

「ヒントは手塚がとても大事にしてるのにゃ」

「じゃあ、やっぱり恋び「従兄妹だよ」……え?」

一年生たちが何故か顔を赤らめて答えを出そうとすれば、試合を終えた不二が言葉を遮った。

「手塚と倉橋さんは従兄妹同士なんだよ」

「なんだ、従兄妹なんですかー? てっきり部長の彼女かと思っちゃいました」

「にゃんで答え言っちゃうんだよー、不二ー」

「何か、間違っているかな?」

にっこりと、でも威圧的に微笑むと英二も桃城も一年生トリオもゾワゾワと身震いをした。
「……ま、間違って……ない、にゃ……」

「そ、そぉーっスよね…」

「クスッ……」

不二は微笑して、彩香と手塚の方を向いた。

(──恋人であってたまるか)

そんな事を思いながら、彩香に声をかけて貰おうと二人へ近寄ったのだった。

「不二くん、おめでとう!」

その笑顔と言葉は、この瞬間だけは僕のモノだ。
もしかしたら、とは思っていたけど、君が転校してから気づいたんだ。
君が好きなんだ、ってね。



To be Continued


あとがき

展開が早い早い。
つか、不二が…不二が…。予定でしたが、予想外な状態に…。
あ、手塚にとってヒロインは守ってあげたい妹のような存在です。
溺愛はしているけれど、家族愛です。


2009/05/08


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