56
幸村くんと付き合うことになった翌日。
頬の腫れはお祖母ちゃんの特効薬で腫れは治まった。
行ってきます!と挨拶をして、家を出たら幸村くんがいました。
「おはよう」
「っ、ゆ、幸村くん!? なんでここに?」
「一緒に学校に行こうと思って……ほら、昨日は一緒に帰れなかったしね」
にこにこと微笑む姿に昨日のことが嘘じゃないんだと実感した。
「あ、えと、昨日はごめんね……一緒に帰れなくて…」
「フフ、楓と紫にまさか連れ去られるなんて思わなかったよ」
そう昨日はSHLが終わったと同時に教室のドアが開き、紫ちゃんが飛び込んできたかと思うと、楓ちゃんが私の腕を掴んで走りだした。
「「彩香は私たちと用事があるから! バイバーイ!」」
幸村くんにそう叫んで連れ出されたのだ。
何か言っていたけど分からなくて、結局お詫びのメールをした後、楓ちゃんの買い物に付き合い、三人でお茶をした。
その際、楓ちゃんと紫ちゃんに色々聞かれたり、言われた。
幸村くんから『大丈夫だよ』とメールが着ていたから安心したけど、まさか家の前にいるなんて思わなかった。
「ご、ごめんね…」
「彩香は何も悪くないんだから謝らなくてもいいんだよ」
「そ、それならいいんだけど……(名前で呼ばれてる…)」
彩香、と呼ばれる事にドキドキして顔が熱くなりそうだ。
「彩香? 腫れは引いたみたいだけど顔が赤いよ、まだ体調悪い?」
心配そうに覗き込んでくる幸村くんに慌てて否定した。
「だっ、大丈夫だよ! もう痛くな……いから…」
けどあまりにも恥ずかしいことを言っているのに気づいて声が小さくなってしまう。
それに気付いたのか、幸村くんも少し顔を逸らして「あぁ、うん…よかった」と呟いた。
(……どうしよ、恥ずかしすぎる…)
互いにどうしたらいいのか分からなくて顔を合わせられなかった。
「え、と……とりあえず、学校に行こうか」
「えっ、あっ! ごめんね。遅れちゃう…」
「まだ大丈夫だよ。ほら」
「……う、うん」
差し出された手を取って、学校へと向かい始めた。
最近は柳くんと通っていた道が、なんだか違って見えて不思議だ。
幸村くんが隣にいるからだろうか……さりげなく車道側を歩いてくれているし。
国光や柳くんも自然と車道側を歩いてくれていたけど……手を繋いでいるからかまるで違ってみえる。
「……幸村くん、なんだか照れるね」
「……フフ、そうだね」
笑いあって最寄り駅まで向かったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昨日こそは彩香と一緒に帰ろうとすれば、先生がまだ教室から出ない内に紫が現れ、楓と一緒に彼女を連れ去っていった。
「「彩香は私たちと用事があるから! バイバーイ!」」
「お前らっ!」
文句を言うもあっという間に連れて行かれたから、ムカついた。
ムカついたから真田と仁王、赤也とテニスをして、少しだけ胸がスッとした、少しだけね。
その後、彩香から『ごめんね、また明日』とお詫びのメールが届いていた。
何をしていたのか聞けば、楓たちとお茶をしていたとか……。
まぁ、とりあえず真田を弄ることにしたよ。
想いが通じたのに一緒にいられないのが寂しくなりつつ、朝を迎えた。
昨日の内に蓮二から彩香の家を出る時間帯を聞いていたから、家まで迎えにいったら案の定びっくりされた。
驚き方も可愛らしくて、抱きしめたくなったけど我慢した。家の前だし。
体調もいいみたいだし、手を繋いだら照れくさそうに笑っていた。駅について、電車に乗ろうとした所で大声が聞こえた。
「彩香ーっ、おはよう! あと幸村も」
その声の主はドンッ!と俺を突き飛ばして、彩香に抱きついた。
彩香はびっくりしたのが眼を大きく見開いて、紫に挨拶している。
「ゆ、紫ちゃん…おはよう」
「ね、姉ちゃん……ゆゆゆ幸村先輩が……」
ふと紫の背後を見れば、アワアワとした赤也と、ノートにさらさらと記録している蓮二の姿があった。
「……紫、俺を突き飛ばそうとするなんていい度胸だね」
「煩い。こんくらい妥協しなさいよ!」
「フフ、何を言っているのかな」
「彩香と一緒に来たんだから、少しくらいいいでしょ、ケーチ!」
「……紫、これ以上精市を煽るのは止めておけ。仁王が大変な事になるぞ、或いは赤也が」
「げぇ! 姉ちゃん、やめろって!」
蓮二が紫を止めるが、そんなことはお構いなしに紫は彩香に抱きついたままだ。
「フフ……紫?」
「笑顔で脅すな、魔王め! 彩香、ほらこいつこんなヤツなんだよ!」
俺を指差しながら彼女に話す紫に五感を奪ってやろうかと思った。
「……で、でも幸村くんは優しいよ。それに紫ちゃんが抱きついてきたのだって2人で転んだら危ないってことだろうし…」
「「「…………」」」
彩香が、ね。と同意するように俺を見つめた。
まぁ、それもある。ぶつかって彩香が転んで怪我でもしたらどうするんだ。
だがそんなのは半分にも満たさない、だって抱きついてる紫にムカついたのは嫉妬だからだ。
うーん、嫉妬深いみたいだから彩香を傷つけないようにしなければならないかも。とりあえず、今は頷いておこう。
「そうだね、彩香が転んだりしたらどうするんだい」
「……っ、そんなのはアンタが助けなさいよ!」
「そんなの、当たり前だろう」
「なっ! なんか、ムカつく〜!」
紫が悔しそうにしているのを笑っていたら、横から声がした。
「後、1分半で電車が来る。落ち着くんだ、紫」
「ほら、危ないからおとなしく待とう? 紫ちゃん。幸村くんも」
彩香にそう言われた以上は大人しくすることにした。
電車に乗ってる間も紫は彼女を独占している。
ギリギリと手摺りを握っていると、ひぃぃと赤也が怯えていたがどうでもいい。
それでも時折、彩香がこちらをみて微笑してくれるから、彩香を見ながら蓮二と会話をすることにした。彩香を見つめながら。
目が合うと照れたように笑うのが本当に可愛かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
紫ちゃんと色々話しながら、つい幸村くんの方を見てみる。
柳くんと会話をしているみたいだけど、目が合う度に恥ずかしくて、嬉しくて笑ってしまうと幸村くんも笑いかけてくれた。
ドキッとして直ぐ様眼を逸らしてしまうけど、また見ると笑いかけてくれる。
ふと、横にいる切原くんを見ればどんよりとしているみたいだけど……どうしたんだろ?
「ゆ、紫ちゃん…」
「どうかした?」
「切原くん、元気ないみたいなんだけど……大丈夫かな?」
「んー……? あー大丈夫大丈夫。ちょっとオーラにあてられてるだけだから」
メールが着たらしく携帯をチェックしながら、切原くんを見た紫ちゃんは手をパタパタさせながら答えた。
「オーラ?」
「……彩香には見えないオーラだから、大丈夫だよ」
「?」
分からずに首を傾げるとムギュっと抱きしめられた。
「彩香はそのままでいてね〜」
「ゆっ紫ちゃん!?」
「むふぅ〜、彩香って良い匂い〜」
くんくんと……こう言ってはなんだけど犬みたいに嗅いでくる紫ちゃんにくすぐったさを感じていると、肩を掴まれ後ろに引っ張られた。
「紫? 彩香に何しているんだい」
「っ、幸村くん」
「ちょっ、せっかく嗅いでいたのに!」
「大丈夫? あんな事されたら逃げていいんだからね。……あぁ、でも良い薫りだね」
くんっと嗅いできた幸村くんの吐息が耳にかかり、ドキッ!としたのはいうまでもない。
顔、赤くなっているんだろうなぁなんて思って俯くと、フフッという笑い声が耳に入った。
(……絶対、わざとだっ!)
熱くなる耳を押さえながら、幸村くんを見上げることが出来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
幸村が彩香に破廉恥(真田風)なことをしたせいで、せっかくの通学なのに彩香と話せなくなってしまった。
まぁ、真っ赤に顔を染めた彩香は可愛かったけどね。
電車を降りて、途中まで歩いていくと楓と真田に会った。
また彩香を取られた幸村には悪いけど、楓と彩香と並んで歩く。
後ろにテニス部が揃っているせいもあるけど、所々でヒソヒソ話してるのが聞こえる。
元々、テニス部に関わっていることで色々言われてきた。
まぁ、私は雅治と付き合っているし、楓は真田の幼なじみだし(しかも真田は楓に片思い中)。
テニス部の外見だけを見ている奴らにとっては私たちは邪魔でしかない。
だから楓が彩香を連れて来た時、警戒をした。
っつっても話を聞いて、ウチのバカ也がごめん。と謝る状況に陥った。なんたって赤也を庇って真田の鉄拳受けたんだよ。
姉として謝れば、気にしないでの一点張り。しまいには姉弟仲がいいんだね〜と微笑んだ彩香を見てドキッとした。
私、男だったら惚れてる!とまでに。コンプレックスのウェーブの髪も綺麗だと誉めてくれる。このクセッ毛をだよ。
影ではワカメだの、海藻だの言われている上にメドゥーサとまで言われてるのに、いいなぁって本気で羨ましそうに。
その瞬間、落ちた。もう仲良くなるしかないと思った。
それからは楓を通じて、仲良くなったし信用している。
だから、幸村に片思いしてると告げられた時は焦った。よりにもよって魔王に。
でも幸村の態度を見て驚いた。コイツ、こんなに優しい表情で彩香を見ていたから。いつものとは全く違う表情。
幸村のそんな表情を出させる彩香を凄いと思ったし、彩香をますます可愛くさせる幸村が凄いと思った。
ファンクラブの連中に何か言われたらしい。それには私や楓を中傷する言葉があって、彩香はそれに怒ってくれたらしい。赤也情報。
今まで庇ってくれた女子はほぼいない。だからこそ嬉しかった。
幸村、彩香を泣かせたらただじゃおかないから。潰してやるからね。
To be Continued
あとがき
おかしい。紫の独白がこんなに長くなるとは思わなかったです。
横道にズレてばかりですみません。
2011/01/10