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テニスの王子様

真っ赤になりながら照れて拗ねる彼女が可愛くて堪らなくなっていると、再び楓と紫に彩香を奪われた。

「やりすぎだ、精市」

「だって嬉しくて堪らないんだよ、蓮二」

「だとしても、倉橋は免疫がないのだからほどほどにな」

「そうかい? 結構手塚にくっついてたりしていたじゃないか」

「家族と恋人とでは全く意識が違うだろう」

「! あー、うん、そうか。うん、そっかそっか」

呆れたように話す蓮二に俺は眼を見開いた。
そうか。家族である手塚と、恋人である俺では彩香の意識の違いは全く変わる。
意識されまくってるという事実に俺の頬は緩んでいく。
真田と赤也がビクビクしているようだが、そんなことは気にしない。鬱陶しいけどね。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


再び楓ちゃんたちに引っ張られ、先に学校へ着いてしまった。
校門付近からヒソヒソと指を差されて話されているのに気付いて、少し怖いと感じた。
そして昇降口まで来ると人も疎らで、靴箱を開けると中に手紙が入っていた。

ドキッと胸が鳴った。

さっきまでのドキドキとは違う、苦しくなるような痛み。

「彩香、それ……」

「あっ…」

戸惑っていたせいか、隣にいた楓ちゃんに手紙を取られた。

「まだ懲りないわけ、か…」

「しかも5通もあるって暇人?」

「楓ちゃん……」

「彩香、こんなの行かなくたっていいんだからね。気に入らないけど、幸村は彩香を好きなんだからとにかく幸村を信じなさいよ」

「紫ちゃん…」

紫ちゃんはビリッと手紙を破るとゴミ箱へ投げ捨てた。
あ、と思いながらも楓ちゃんも口を開いた。

「紫の言う通り、彩香は幸村を信じていればいいんだし。もし、というか彩香がイジメにあったなんて聞いたら昨日の今日だし、幸村が何するか分からないよ?」

「う、うん…?」

「ファンなんて無視しておけばいいんだよ。いちいち呼び出したりしてないで、正面きって言いにくればいいだけの話なんだから」

「……分かった。呼び出しには行かないようにするよ」

「そうそう、それが一番。早く教室に行こ。週末の予定立てなきゃ」

「あ! 彩香んトコに泊まる話ね。私もいいでしょう〜」

「うん。ウチはいつでも構わないよ」

手紙の事は気になった。
私と幸村くんが付き合うことを気に入らない人が沢山いるみたいだ。
なんで幸村くんが私を好きになったのかは、結局のところよく分からない。
でもこんな風に言われたり、反対されるのは少し嫌だ。別に全校生徒みんなにおめでとうと祝福されたい訳ではない。けれど……幸村くんに悪い気がしてならないのだ。

私が隣にいてもいいんだろうか?

そう思うと少しだけへこんでしまう。

「彩香?」

頭をふるふると振っていると、不思議そうに楓ちゃんと紫ちゃんがこちらを見ていたから、なんでもないよ。とごまかした。
多分、二人のことだから気付いているだろうけど。

「そう? なら早く教室に行こう」

「うん………あっ!」

「どうしたの!?」

「なに!? 何かあった?」

二人が聞いてくるが、私は顔を真っ青にした。
だって、昨日、私……。

「どどどどうしよう!」

「どうしたのよ?」

「私、昨日、日直サボっちゃった……」

「「……あ」」

廊下の真ん中で三人揃って立ち止まってしまった。

「えと、えと辻井くん、だっけ? 怒ってるよね……あ、謝らなきゃ!」

一緒に日直だった辻井くんを思い出し、足早に教室へと向かった。もちろん、謝る為に。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


教室へ入るとざわざわと騒がしかった。
相変わらず女子から甘ったるい声で挨拶されるが、そんなことより騒ぎの中心にいる彼らに目がいく。

「本当に本当にすみません」

「いいって、いいって。倉橋さんは悪くないんだから」

「で、でも…」

「そうそう、倉橋さんは気にしなくていいんだって! 辻本はいっつも日直サボってっから、たまにはいいんだよ」

「中田くん…」

「田中ね、俺は」

「あっ……ごめんなさい」

「私らからもごめん。彩香を連れてったの私らだし…」

「うん。ちょっとのっぴきならない事情があって…」


彩香たちが辻本たちに謝っていた。というか、田中、彩香に触るな!
ムッとしながら、その中に入っていき声を掛けた。

「どうかしたのかい?」

「おう、幸村。ハヨーっ!」

「おはよう。何騒いでるんだい」

「き、昨日…日直の仕事サボッちゃって…謝ってたの」

彩香が申し訳なさげに眉を八の字にさせていた。

「いやいや、サボッたとかいうけど日誌書いてたし、倉橋さんはサボッてないって。戸締まりなんて辻本だけで十分なんだし」

「なんで田中が言うんだよ」

「だって俺、前に一緒に日直したけどキチンとしていたんだぜ。むしろ俺の仕事ないくらいに。そんな倉橋さんがわざとサボるなんてありえないね」

「さっすが田中! 分かってるぅ〜」

田中はバシンっ!と楓に叩かれていた。

「いてぇよ、沢渡!」

「気にするな!」

「おっまえ、顔の割りには力あんだな……」

「失礼なヤツね」

なんだか二人の会話が面白く感じながらも、彩香を見れば困ったようになったままだ。

「辻本、別に怒ってる訳じゃないだろ」

「幸村?」

「ほら彼女が困ったままだし、いつもサボッてたなら、たまにはいいよね」

「……お、おお! べ、別に怒ってねぇからな、俺こそ日誌書いてもらってたんだし、黒板消しや戸締まりなんて大したことなかったぜ!」

「……本当にごめんなさい」

「だ、だから謝るなって!」

「こう言ってるんだし、もう気にしなくても大丈夫だよ」

「う、うん…」

(((((……あからさまに威してた…哀れ、辻本)))))

幸村を見ていたクラスメイトたちは、辻本がハハハ…と渇いた笑いをしていたのをそっと見守っていた。

「幸村くん……なんかごめんね。それとありがとう」

にこっと微笑され、俺の頬は緩みそうになった。そんな笑顔、周りに人がいるのに見せないでよ。
ほら、田中たちが頬を染めてるじゃないか。
少し牽制しとかないとね、彩香はモテるようだし。

「彩香の為だから気にしなくてもいいよ」

「……っ!」

そっと頬に手を添えれば真っ赤になった。可愛らしい。
……それに、クラスにはいい見せつけになったかな。

「〜〜ゆーきーむーら〜! 彩香から離れろーっ!」

「彩香、離れて!」

相変わらず、紫と楓はうるさいけどね。というか早く紫を引き取りに来い!と念じると、通じたのか、扉がバンッと開いた。
女子の歓声と共に仁王が声を上げた。

「紫っ、クラスに戻るナリ」

「あー雅治。おはよう。今取り込み中だから先に行ってて」

「ダメじゃ! 行くぜよ」

「ちょ、雅治ー?」

暴れる紫を連れ出していく仁王がこちらを見た時、よくやったと笑ってやった。

(早く来い、この白髪野郎……と聞こえたのは幻聴じゃなかったぜよ……)


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


授業中、ちらりと彩香を見てみると真面目にノートを取っている。
朝のことを思い出し、楓は小さくため息をついた。

(田中たちビックリしてたよな〜)

「………ゆ、幸村と倉橋さんって……」

「なんだい、田中?」

「いや、あの……」

「ゆ、幸村くん……て、手を…」

「どうかしたのかい、彩香」

(((また名前で呼んだ!)))

「あ、あの…手恥ずかしいから…」

「そうだ、彩香は俺の大事な人だからみんな手を出さないでね」

「「「「っっ!」」」」

「うそっ!?」

「ええっ! 彩香ちゃんと幸村くん…」

「つ、付き合って……るの?」

「うん。だから──彩香に変なことしたら女子でも赦さないからね」


幸村が『彩香』と名前を呼び、かつ甘い雰囲気を出したことでクラス中に衝撃が走っていた。
彩香はただ顔を真っ赤にしてあたふたしていたが、幸村なんて余裕綽々とニヤリと笑っていた。

(まぁ、幸村なりの牽制なんだろうけど……女子も悲鳴めいた声あげてたし……はっきり言えば脅してたし)

もう一度彩香を見てから、周りを見渡した。ヒソヒソと話をしている幸村のファンたち。

(あの子たちとはあまり話さないからよく知らないけど、何かあったらどうしてくれんのよ!幸村!)

そんな意味を込めて幸村を睨んだ。

(とりあえずは幸村に彩香から眼を離すなって言わないと……手塚くんにも相談した方がいいかな〜)

彩香の従兄弟、手塚くんを思いながらシャーペンでノートを突いた。

(……あぁ、会いたいなぁ〜、手塚くんに)

頬杖をつき、あまり会うことが出来ない人を思ってドキドキしながら切なくなった。
でも誕生日の時に約束をしている。彩香は大丈夫と言っていたが……。

(迷惑にならなきゃいいけど…)

まだ彼の中の優先順位は彩香なんだろうか……そう思うと親友が羨ましくて仕様がなかった。
彩香も手塚くんもその気がないにせよ、あの雰囲気にはきっと幸村さえも入れないだろう。

(彩香が手塚くんを恋愛感情でみてなくてよかった……)

本気でそう思えた。
とりあえずは彩香にケーキ作りを伝授してもらおう。
親友の恋愛も大事だが、自分も大勝負になるんだからと色々考えるのだった。




To be Continued


あとがき

また蛇足。蛇足過ぎてどうしようもなくなってきた。
書いてる話数の割りには時間経過がまだ1日程度。
どう終わらせたらいいのか分からなくなりました、すみません。

2011/01/24


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