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「──私は幸村くんがただの中学生でも好きなんです」
俺は扉を開けて、静かにでも足早に彩香に近づいた。
そして彼女に目隠しをしながら、後ろから抱きしめた。
ビクッと跳ねた身体をギュッと抱くと、困ったようなでも確信のある声で、俺の名を呼んだ。
「……幸村、くん」
「──当たり。なんで分かったの?」
シャンプーの香りがする髪に頬を寄せて訊ねると、彩香はくすぐったそうに身体をよじりながら人差し指を口元へと寄せた。
「……ナイショ、です」
「後で教えてね?」
そんな仕草が可愛らしくて、フフッと笑い声が零れた。
「さて、と」
彩香から手を離し、彼女が対峙していた女生徒たちを見つめた。
彼女たちは気まずそうに眼を反らしている。
どうしてやろうか、と考えていると彩香を呼び出した女子が前へと進み出た。
「ゆ、幸村くんっ!」
「なにかな」
「聞きたいことがあるんですが……」
「うん」
「倉橋さんに告白したというのは本当なんですか!?」
その眼差しに「嘘だ」「信じない」という気持ちが見える。
「──本当だよ」
「っ! なんでですか!? なんでこんなヤツをっ……幸村くん…?」
思わず手を握れば、その子は眼を見開いた。少し驚き、少し期待するかのように見てくる眸に俺は力を込めた。
「幸村くん……っつ! 痛、手首っ…」
「ねぇ、今、なんて言ったの?」
「幸村くん、痛いっ!」
「幸村くんっ!」
「君たちには本当に参るよ……今まで黙ってきたけど今回ばかりはそうも言ってられなくなったなぁ」
彩香を「なんか」扱いして…許せないよ。
「(あれ、キレてんじゃない)」
「(あぁ、まずいな)」
「幸村くんっ! 痛がってるよ、離してあげて」
「彩香……」
そっと彩香の手が俺の右手に沿われ、じっと見つめてくる彼女に俺は手を離した。
彩香は微苦笑してから、彼女たちにまた向き合った。
「ごめんなさい。あなたたちからしたら私の事は許せない存在だと思う……誰かを好きという気持ちはとても大切なことだし、壊されたくないと思う。でも、でもね、理想を押しつけてはダメだよ。幸村くんは芸能人とかアイドルとかじゃなくて、私たちと同じ中学生だと分かって欲しい。そんな風に態度を変えたら、幸村くんが可哀相だよ、ただテニスが好きで、人よりちょっと強いというだけで違う扱いされるのは」
「テニスがちょっとどころじゃないぜよ」
「倉橋の基準は手塚だぞ、仁王」
「アレが基準じゃ、青学も大変じゃったろうな」
仁王と蓮二が何か話していたが、俺は傍らの彩香を見ていた。
なんて嬉しいことを言ってくれるんだろう、俺を区別しない。
「そうだね、俺はどこにでもいる普通の中学生だよ。……君たちの気持ちはありがたいよ、でも俺をブランド品か何かだと思わないでくれ」
「どこが普通だ、どこが」
「彩香の前では普通なんじゃない」
楓と紫が何か言ってるが無視だ。
「で、でも私たちは幸村くんの為に……」
「そんなこと俺は望んでいない。それと……君たちがなんと言おうと俺が彩香を好きな気持ちは変わらない。もし彩香が君たちに言われて別れを告げたとしても、俺は彩香と別れたりしないから──もういい加減にしてくれ」
「「「「「……っ!」」」」」
「「「「(なんか危険な発言した…)」」」」
最後に一睨みをすると彼女たちはごめんなさいっ!と言って、屋上から走って出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バタバタと勢いよく、というか先を競うように幸村のファンは屋上から逃げ出して行った。
まぁ、あんな風に睨まれたら俺たちだって耐えられん。
「あんな風に言わなくても……みんな幸村くんを好きなんだよ?」
「……はぁ、彩香は優しすぎるよ」
腕を組んでいた幸村の腕に手を乗せて、宥める倉橋は本当にすごいと思う。
「そうよ、彩香は優しすぎ!」
「人が好過ぎるよ、彩香」
幸村に続くように倉橋に話す楓と紫に、彼女は困ったように屋上出入口を見つめた。さっき出ていった奴らを考えているんじゃろうが、お人好しすぎる。
「……それでも、幸村くんを好きだと思う気持ちは本物のはずだよ……ただそれが度が過ぎただけ、でしょ…」
「「……まぁ、そうなるね」」
紫と楓は倉橋の言葉は頷きながら応えた。
根本的にアイツらも幸村を好きという気持ちは同じだ。
それがいつしか幸村を同級生とは思えず、崇めて、理想を押しつけていってしまった。
倉橋は手塚という存在と間近で過ごしていた故に、最初から恋に発展するまで、幸村をごく普通の同級生と見てきた。
テニス部は特別という概念は初めからない。特別視されることに嫌気をさしてきた幸村にとってはまたとない特別な相手になった。
「それでも、君を傷つけていいという訳ではないだろう」
「…………」
毒のない微笑を浮かべ、倉橋に語りかけると彼女は少し頬を染めて黙ってしまった。
照れているのか、と見ていると幸村がニコリと笑いながら、倉橋の頬を人差し指で突いている。
「〜〜〜〜幸村くん!」
「フフッ、照れる彩香も可愛いね」
あ〜、なんかあちこちに花が飛んでいるのは幻覚だろうか、と思うくらいな甘いムードが屋上を包む。
「ちょっ、ゆーきーむーらーっ! 彩香に何してんのよ!」
「彩香をいじめるな!」
「フフッ、何言ってるんだい? 愛情表現だよ、愛情表現」
幸村は倉橋を抱きしめながら、赤い頬をプニプニと触っている。
意外な元部長の姿に参謀はノートにガツガツと何かを書いている。
楓と、俺の恋人である紫は幸村たちを離そうを必死だ。
(俺にも構って欲しいナリ)
倉橋に紫を取られた気がして、幸村に突っ掛かる紫を後ろから抱きしめた。
「ぎゃっ! な、なに? 雅治」
「もうちょっと可愛い声出しんしゃい」
「はぁ?」
「まーくん、淋しいナリよ」
「フフッ、紫。お前が彩香にばかり構うから仁王が妬いてるよ」
「仲良いんだね、紫ちゃんと仁王くんって」
クスクス笑いながら、気持ちを代弁する幸村から眼を逸らして、ふわふわの髪に顔を埋める。少しくすぐったいナリ。
「ちょっとー、ここ学校ですよー、イチャイチャ禁止〜」
「だったらお前も早く“彼”とイチャイチャ出来るようになるんだな」
「ちょ、柳!? 何知って……つーか、生徒会役員として、コレなんとかしようよ!」
「まぁ、いいじゃないか。空が青いぞ」
参謀の一言に皆、顔を上げた。青い空が頭上にあった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
柳くんの一言に顔を上げたら、青い空が綺麗だった。
楓ちゃんはもう何も言わず、紫ちゃんと仁王くんも空を見ている。
私も顔を上げていると幸村くんの胸元に頭がぶつかった。
「──彩香」
まだ慣れない幸村くんの名前呼びに動悸が早くなりながら、仰ぎ見ると青空をバックに幸村の笑顔があった。
「ねぇ、どうしてさっきは俺だとすぐに分かったんだい?」
「簡単だよ。あのね──幸村くんだからだよ」
幸村くんは驚いた後、すぐにとろけるような微笑みをくれて、手を握ってきた。
「さ、次の授業へと出ないとね。サボるんじゃないよ、仁王と紫」
「分かってるわよ」
「……プリっ」
「沢渡、今日の放課後は生徒会があるぞ」
「はぁ? まだなんかあんの!?」
ガヤガヤと階段を降りていく友達を見ていると、隣から声が聞こえた。
「俺たちも行こうか」
「うん」
手を引かれ、ゆっくりと階段を降りていった。さっき見た青空を思い出しながら。
To be Continued
あとがき
また意味不明ですね。いつもいつも同じことを繰り返しですみません。
感想頂けると嬉しいです。
2011/01/31