Epilogue
ザアっと潮風が埃を舞い上げ眼を覆った。
彩香は空を眺めた後、校舎を振り返る。
たった1年ちょっと通っただけなのに、明日からこの校舎を使わないと思うと少し寂しくなってしまう。
今日は、立海大附属中学校の卒業式だ。とはいってもエスカレーター式で殆どの生徒は附属の高校か工業高校へと持ち上がる。
それでも卒業式というものに涙を流す者は少なくない。
彩香は周りを見渡してから、近くにいた楓へと声を掛ける。
「楓ちゃん、すごいね。アレ」
「本当、すごい人集りよね」
「うん」
彩香と楓が見る方向には女子が半端ないくらい集まっていた。
中心にいるのはテニス部員たちだ。
彩香の恋人である幸村には他の誰よりも多く、彩香は近付けない上に、幸村も脱出困難なようだ。
「ねぇ、楓ちゃん。私ちょっと屋上に行ってくるね」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。あ、明日楓ちゃんも行くんだよね?」
「国光んとこ? もちろん。卒業式がズレて良かったよ」
「ね。私も青学には思い出あるから行きたかったんだ」
「そっか。後で幸村に伝えとくね、屋上にいること」
「ありがとう」
彩香は楓に手を振って、屋上庭園まで上がっていくとフェンスに寄りかかって校庭を眺めていた。
あちこちで別れを惜しむ人たちや、写真を撮り合う人たち、人があふれているのを彩香は和やかな気持ちで眺めていた。
ふいに人集りを見つけ、中心にいる人が誰か眼を凝らしたが、目当ての人物ではないことに安堵しながら、辺りを見渡した。
「どこにいるんだろ…」
少しだけ、ムッとしながらあちこちを眺める。
モテるということは付き合い始めてからも、否でも知ることが出来た。少しだけ嫌がらせも受けたりもしたが、それはすぐに収まったりもした。
「誰がだい?」
途端に背中にぬくもりが伝わり、ギュッと抱きしめられる。
「精市くんが」
「此処にいるよ、彩香のすぐ傍に。こっちこそ探したんだよ、全く」
回された腕を掴み、袖口のボタンまで取られているのに気付いた。
「──ボタン、ないんだね」
「なんだかみんな一気に取っていったからね」
「ふ───ん…」
「あれ、妬いたの?」
「そ、そんなんじゃ!」
図星をつかれ、ビクッと身体を震わせたらさっきより強い力で抱きしめられた。
「大丈夫、彩香の分はちゃんと死守したよ。ネクタイとボタン」
「…………うん」
「フフッ、それだけかい」
「……ありがとう…」
「そろそろこっち向いて?」
グイッと身体を反転させられ、ようやく間近で精市くんの姿を見れた。
とろけるような笑みを浮かべていて、彩香は恥ずかしくなった。
「俯かないで、漸く彩香を近くで見れたんだから……全く、今日は朝から散々だったよ。――卒業、おめでとう」
「精市くんも、卒業、おめでとう」
ゆっくりと顔をあげれば、眼が合った。彼の眸に自分が映っているのにドキドキした。
「春休みは何するの?」
「うーん、部活に参加かな」
「もう? 流石だね」
「ねぇ、彩香は高校は何部に入るの?」
「え?」
「テニス部のマネージャーなんてどう? 紫もいるし、傍にいられるよ」
幸村の誘いに魅力を感じながら、彩香は首を横に振った。
「マネージャーはやらないよ」
「えっ、なんで!?」
幸村は驚いたように彩香を見つめた。その顔は驚きとガッカリしたようになかなか見せない顔だ。
珍しい幸村の表情に彩香はクスクス笑いながら、真っ直ぐ見つめて答えた。
「ダメだよ。マネージャーなんてしたら精市くんばかり贔屓しちゃいそうだもん。マネージャーはみんなに平等じゃなきゃいけないでしょ」
「…………うーん、確かに彩香がマネージャーしていたら嬉しいけど、きっと他の部員と仲良くしてたら俺何するか分からないなぁ」
「ね、だからダメ。でも応援は誰よりもしてるよ」
「そんなのは当たり前だろう」
幸村はそっと彩香の頬に手を添えられる。
ゆっくりと近づいてくる幸村の後ろに綺麗な真っ青な空を見てから、彩香は眸を閉じた。
柔らかく温かい感触に包まれながら、二人は口付けをしたのだった。
END
あとがき
ようやく終わりました。
もう最後の方は無理やりだったり、蛇足な話だったり、と訳が分からなくなりました。すみません。
最後もなんだこれって感じですが、終わらせるって難しいです。
今後は番外編的な短編でも書けたらいいですが、きっとヒロインと幸村はイチャイチャとしていると思います。
楓はというと、手塚と恋人同士になりました……哀れ、真田!
色々ありますが、省きました(苦笑)
後から加筆修正される可能性は大きいですが、これにて『青空』は完結いたしました。
ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
感想頂けたら、嬉しいです。
このヒロインは後々違う連載などで幸村の恋人として出る場合があるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします。
2011/02/02