04

テニスの王子様

S2の試合が終わり、次はいよいS1の試合が始まろうとしていた。
傍らの国光は着ていたジャージをバサっと脱ぐと渡してきた。

「持っていてくれ」

「頑張って、国光」

「あぁ」

ラケットを手に持つとコートへと降りていく。
ざわざわと辺りが騒がしくなったのは国光がコートに降りたからだ。
国光は本当に凄いんだと思わせられる。彼を見に高校やプロのコーチまで見に来ていると、誰かが話していた。
でも氷帝の部長も国光と同じくらい強いのだと、乾くんが話していたのが聞こえた。

『おい見ろよ、奴ら………』

『第3シード、千葉代表 六角中─っ!!』


振り返れば、いつの間にかぞくぞくと人が増えて来ている。
エンジカラーのジャージを始め、グリーンのジャージ、そして見覚えがある芥子色のジャージは、彩香が通う立海大附属のジャージだった。

「おっとお、手塚さんの試合間に合いましたね」

背の高い二人と髪の毛がうねうねしている人がそう言って立っていた。

『王者 立海大附属も来ている!!』

誰かが叫んでいた。

「あれって……」

前に助けてくれた人だよね……そう思いながら見ていると、帽子を被った……長田くんだっけ?彼は国光をジッと見ていた。

「倉橋さん」

「え、何? 不二くん……」

「立海に通ってるんだよね。目立つだろうから、これ羽織っていた方がいいよ」

バサッと不二くんのジャージを肩に掛けられてしまった。

「え、でも……」

もう遅いのでは、ともう一度見てみると、眼を閉じた人がこちらの方に顔を向けていた。
なんとなく、分からないけれど見られたのだと理解した。

「いいから、目立つしそのまま羽織ってて。──それに始まるよ」

その言葉にハッとなり、コートを向いた。
国光と対戦する相手方の部長が一言、告げた。

『おい、手塚。ウデなまってねーよなあ、アーン』

出てきた彼により一瞬だけ辺りが静まった。と思えば、腕を上げた途端、コールが巻き起こる。

「なっ…(確か去年の試合もこんなんだったような…)」

あまりの凄さに呆然としてしまう。

『勝者は跡部! 敗者は手塚!! 勝者は……』

パチンっと指を鳴らしたかと思えば、バサッとアイスブルーのジャージを脱ぎ「俺だ」と宣言した。
怒涛のように沸き上がる声援だったが、待っている国光はいつもと変わりはなかった。

「もういいのか?」

「ああ、満足だ」

普通なの?と隣の不二くんに訊けば、いつもああなんだ。と答えが返ってきて、彩香は「ふーん」としか言えなかった。
始まったテニスは目まぐるしくラリーが続き、レベルが高いのがハッキリ分かる。
相手の打ったドライブボレーが重かったのか、国光のラケットが弾き飛ばされた。
カシャーン…とラケットが落ち、みんなが息を呑む。

『俺様の美技に酔いな』

「…………」

凄いとは思うけど、その台詞は一体…という感じで呆然としてしまった。が周りは歓声をあげていた。

「……国光…」

頑張れ、と持っていたジャージを握りしめた。

「大丈夫だよ、倉橋さん」

「うん…やっぱり凄い」

「そうだね」

気付けば、国光はある場所から一歩も動かずに打ち返していた。

「…手塚ゾーンだ」

乾くんが説明してくれた。

「回転を掛けられたボールは全て、手塚のもとに戻っていく。まるで引き寄せられるかの如く」

「…………」

〈15-15〉

コールが鳴り、氷帝や他の人たちも呆然としている中で、相手の人が高笑いをし始めた。

「ファッハッハッハッハッ!! やるじゃねーのよ、手塚。──そんな腕で」

彼の言った言葉に周りが騒めき始めた。

「そんな腕? どーいうことだ」

(……なんで、知ってるの?)

「あん? その左腕 痛めてるんだろ? なあ、手塚…」

聞いてくる彼は一体何?
ゾワりと鳥肌が立つような感覚は走る。

「いやっ、手塚のヒジはもう完治して「大石くんっ!」」

止めるように遮ったが彼には聞こえてしまったようだ。

「成る程、ヒジな訳ね!」

「……ぁ、ごめん、倉橋さん…」

「大石先輩、ホントなんスか?」

「…………」

桃城くんが驚いたように問い掛ける。いや、他の人たちもだ。

「……倉橋さんも知っていたのかい?」

「うん、知っていたよ」

訊いてくる不二に彩香はただ頷くだけだった。
そして、大石くんが国光のヒジのことを説明し始めた。そして、そうなった経緯も。
彩香はそれを耳にしながら、国光の試合を眺めていた。心配そうに。
歓声と喚声が混じりあう。
見事に決まったのは国光の得意技、零式ドロップショット。

「遠慮するなよ、跡部…本気で来い」

〈ゲーム青学 1-0!!〉

ヒジは治った……けれど不安を拭いきれないのはなぜなのか。
彼が言った言葉がハッタリだとしても、なぜこんなに胸騒ぎがするのだろう。

(……何もないと、いいけど…)

心配をよそに国光がゲームを押していた。

「やっぱり、ヒジはもう大丈夫そうっスね!」

「ああ…」

桃城くんの言葉に大石くんはホッとしたよう頷いた。
チャンジコートになり、目の前に座る二人は会話のないままだった。

「おい、桃。それにしてもあの二人」

「ププッ、会話なしかよ」

菊丸くんと桃城くんの会話を聞いて、不二くんは微笑し、大石くんはため息をついていた。
そこで気になっていたので、彩香は隣の不二に訊ねた。

「ねぇ、不二くん」

「なんだい、倉橋さん」

「気になっていたんだけど、あの帽子の子って誰?」

「あぁ、そっか倉橋さんは知らないよね。彼は越前、うちのルーキーだよ」

「一年生、なの?」

「そうだよ、手塚から聞いてなかった?」

聞き返され、彩香は前に電話した時にそのような事を教えられたのを思い出した。

「思い出した、国光が嬉しそうに話していた子ね」

「「「………………」」」

「どうかした?」

見れば、不二くんだけではなく大石くんたちや、話題の当事者もこちらをみていた。

「……え、と、手塚が嬉しそうに話していたのかい?」

「? うん、楽しそうだったし、笑っていたと思うよ。叔母さんもよく国光が笑うようになったって言ってたから」

ね、そうでしょう?と国光に聞いたが、「そうか?」と不思議がられてしまった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


再び試合が始まる前に、彩香は喉が乾いたので飲み物を買いにその場を離れた。
パタパタと飲み物を持ち、コートへと戻れば試合は再開していた。
階段を降りようとして、すぐ傍に見覚えのあるジャージを着た三人が立っていた。

「あれー、この人、手塚さんの傍にいた人っスよね……って立海の制服……」

モジャっとした髪の人に指を差され、思わずビクッとしてしまった。

「む、倉橋?」

「人を指差すな、赤也。倉橋、なぜここにいるんだ?」

「え、と……や、がみくんだっけ?」

思い出そうとして、出た名前だったが、彼はふぅ、とため息をついた。

「……柳だ、倉橋」

「ご、ごめんなさいっ!」

慌てて謝るが、気にしてないと言われてホッとしてしまった。
先ほどの彼は、長田くん?になぜか怒られていたのを気にすれば、またしても「気にするな」といわれてしまう。

「お前は青学からの転校だったな。テニス部と親しかったのか?」

「え、あ……従兄がいるから、応援に」

「ほぅ、それは初耳だな「甘いな、手塚さんロブ上げちまいましたよっ!」」

「ああ、アレが出るぞ」

その台詞に彩香も振り向いて、コートをみるが、相手はスマッシュを打たなかった。

「真田副部長っ、スマッシュを打たないっすよ」

「ほう」

まだラリーは続いている。ドクンっと嫌な予感がした。

「倉橋?」

呼ばれるのを無視して、彩香はコート近くに戻った。

「倉橋さん、」

「あの人……」

「この試合、マズイ…」

ボソリと呟いた不二の言葉にドクドクと心臓が早くなる。

『ヒジはたしかに完治したかもな、手塚!』

「「「っ!」」」

『怪我したヒジじゃ、あんなドロップショットは打てねぇ』

そう話す、相手は何かに気づいたのかもしれない。
それは今朝から感じていた胸騒ぎ。

「…………国光…」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


氷帝コールと青学コールが響くなか、S1、部長対決は長いラリーの応酬だった。

「え? あの跡部はワザと試合時間を延ばしている? 何故そんな事を」

「持久戦で手塚の腕を潰す気だ…」

みんなの会話を遠くに聞きながら、彩香はグッと口唇を噛んだ。

「早めに決められないんですか?」

「跡部はそんなに甘い男じゃないよ。彼も全国区だ」

「焦って攻め急げば、必ずスキが生じる。奴はそれを見逃さない!」

「…………」

沈黙した後、誰だったか、叫んでいたのを海堂くんが言い含めていた。

「真剣勝負とはこういうものだよ」

相手が長時間のプレイで国光を潰そうとしているのは、きっと気付いているに決まっている。
そして、彩香は手塚の気持ちを理解した上で、口唇を噛み締めていることしか出来なかった。
彼は、自分の腕よりも部長として、青学の勝利を選んだのだ。──彼は青学の柱、だから。

「手塚は、あえて持久戦に挑む覚悟だ!」

〈ゲーム6-5 青学リード!!〉

「さあ、油断せずに行こう」

すでに試合開始からゆうに一時間半過ぎていた。
試合で汗だくな国光を見るのはいつぶりだろうか?
互いに繰り出す技に、一歩を引かない姿に、ドクドクと心臓が早くなる。

(……頑張れ、頑張れ! 国光っ!!)

祈るように持っていたジャージを握って胸に当てた。──あと、1球。

〈ア、アドバンテージサーバー!!〉

ゴクッと周りが息を呑むのが聞こえる。

「あと、1球……」

国光がサーブを打とうと、ボールを上げた──。

(……持ち堪えて!)

ボールを打とうと肩を上げようとした次の瞬間、国光の声にならない叫び声が彩香に聞こえた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ラケットは落ち、ボールは転がった。目の前のコートでは国光が肩を押さえ、しゃがみ込んだ。

「……っ、国光!!」

「「「て、手塚──っ!」」」

隣の不二くんを始め、他のレギュラーや平部員たちが国光に駆け寄ろうとしていた。

「来るな────っ!!」

皆が触れようとした瞬間、国光が肩を押さえながら、ラケットを手にし

「戻ってろ!……まだ試合は終わっていない」

──そう告げた。


To be Continued


あとがき

中途半端に区切りました。
一体誰夢なんだか……ちょ、すいません。
感想頂けたら嬉しいです。

2009/05/12 執筆
2009/05/16 更新


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