あなたに愛の花を
1月半ばから街中はピンクや赤などのハートで形作られていたのは知っている。
それというのも2月に恋愛の一大イベントがあるからだ。
普段はあまり見ることのないような、製菓グッズなどが出回ったりして、女子がお菓子の本などを見る機会が増えていく。
立海大附属中学の三年生はエスカレーター式とはいえ、高校には推薦受験がある。
だが、それでも女生徒たちは自分が受験だということも気にせずに友人などと話していた。
『幸村くん、貰ってくれるかな〜』
『大丈夫だよ、幸村くん優しいし、去年はお返し貰えたんだから大丈夫だって!』
『でも幸村くん、今年は彼女いるし…』
『そんなの気にしないで、もう奪う気で行こうよ! 私なんて仁王くんが受け取ってくれるかどうか…』
『その点、丸井くんなら安心して渡せる!』
『私は赤也くんに渡したい〜』
『柳生くんかな〜、私は。彼、紳士だし受け取ってくれるよね』
『柳くんはチョコ食べるかな? 噂では薄味が好みだっていうけど…』
あちこちで聞こえる会話を耳にしながら、楓は片手にお茶を持ちながら廊下を歩いていた。
(……そうだよ、もうすぐバレンタインだ)
別にバレンタインが嫌な訳ではない。去年まではあの堅物な幼なじみに義理チョコをあげていたし、友チョコも渡したりしていた。
だが、今年は違う!楓はぐっと買ったばかりのお茶を握りしめ、教室へと向かったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「もうすぐバレンタインだね」
「そうだね……精市く「彩香ーっ!」楓ちゃん?」
「楓……」
幸村は彩香から言われる言葉を待ちわびていたのに、それをクラスメイト兼彼女の親友によって遮られた。
お茶を買いに購買へ向かったから、邪魔が入らず仲良く会話をしていたのに、早く戻ってきた楓に舌打ちをしたくなった。
「どうしたの、楓ちゃん?」
「彩香、助けて!」
「へ?」
「チョコ作りを教えて!」
土下座する勢いで彩香に両手を合わせる楓を見て、幸村は密かに笑ってしまった。
(そういえば、コイツ料理苦手なんだっけ…)
思い出すと同時に、我がテニス部マネージャーが頭に浮かんだ。
彼女もまた彩香の親友の一人なのだ、そして浮かんだ予感は的中するが如く、教室のドアが開いた。
「彩香ーっ!」
「紫ちゃん?」
「私にチョコの作り方教えてー」
「紫も!?」
「楓も!?」
「「彩香、お願いしますっ!」」
紫は足早に近くまでくると、楓と同志とばかり手を合わせ、二人して彩香に懇願した。
「え、え?」
「お願い、彩香! 国光が喜ぶようなチョコを作りたいの〜!」
「今年こそ雅治に手作りチョコあげたいの!」
お願いっ!と必死に寄ってくる二人に、彩香はいつものようにふんわりと笑ってみせた。
(……あ、なんか嫌な予感…)
別にチョコ作りを教えるのがダメという訳ではない。
「いいよ。一緒に作ろうね!」
「ありがとう、彩香!」
「早速、今日から彩香ン家に行くね!」
(……やっぱりこうなった)
ため息を吐きたくなったが、彩香が少し困ったような顔でこちらを向いた。
「ごめんね、今日は一緒に帰れないかも」
「……はぁ……残念だけど、そうみたいだね。二人に教えるのは骨が折れるかもしれないけど、頑張って」
二人が『なんだと!』と騒いでたけど、無視だ。無視。
「精市くんはどんなチョコが好き?」
「彩香がくれるならどんなのでも嬉しいよ」
「っ! もう、それ、困るよ」
少し口を尖らせた彩香が可愛らしくて、俺は宥めるように頭を撫でた。
(……本当、可愛いなぁ…)
「彩香のチョコ、楽しみにしているよ」
「精市くんの為に美味しいの作るね」
「フフ、本当に楽しみだ」
本当はキスしたかったけど、恥ずかしがる君の顔を周りに見せるのがもったいないから、止めておくよ。
二人の甘い空気は3−Cにとってははっきりいって毒以外のナニモノでもなかったらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さてと、二人ともどんなチョコ作りたいの?」
「トリュフとか」
「私はフォルダンショコラ!」
「紫、それって自分が食べたいんじゃない?」
「一緒に食べれるのがいーじゃん」
「く〜、こういう時同じ学校は羨ましい」
「ふふ、残念でした」
二人の会話を聞きながら、彩香は幸村に何を作ろうか考えていた。
幸村の好きな物を考えて、ふわりと微笑した。喜んで貰えたらいいな、と。
まずは二人に作り方を教えなくては、と二人に向き直った。
「じゃあ、始めよう」
「「先生、よろしくお願いします」」
「はい、お願いされました。じゃあまずはチョコを刻むことからです」
「「はーい」」
ハモる二人に彩香はクスクスと笑いながら、丁寧にかつ分かりやすく教えていったのだった。
「あれ、彩香? なんかいっぱい作ってるみたいだけど」
「うん、華道部のみんなとテニス部の皆さんにもどうかと思って。もちろん、楓ちゃんたちの分もあるよ」
「本当ー! って、部活のみんなはともかくテニス部は止めといた方がいいって」
「そうだよ、幸村が半端なく怒るって!」
「え〜、だって義理チョコだよ。大丈夫じゃない?」
「甘いよ、彩香」
「テニス部のみんなが可哀想だから止めときなよ」
「え、でもいっぱい作っちゃったし……じゃあ、クラスのみんなに「それも止めとけ」」
「でも丸井くんや切原くんが欲しいって言ってたし…」
「……アイツら、命惜しくないのか?」
「赤也、命知らずだな」
彩香は二人の言ってることに首を傾げながら、小さなチョコマフィンを一袋に一個ずつ入れていく。
「楓ちゃんは国光に届けに行くの?」
「もちろん。彩香、国光のも作ったの?」
「うん。これは国光のなんだけど、楓ちゃんに頼んでもいいかな? こっちはテニス部のみんなの分も」
「青学テニス部の分も作ったの?」
「うん、レギュラーだけだけどね。去年もあげたんだよ」
「……まぁ、青学ならいいか」
「?」
ため息を吐いた楓に彩香は首を傾げた。
そして、また2人のチョコを手伝いをした。料理な苦手な2人は何度か失敗を繰り返しながら、ようやく作り上げたのだった。
「「で、できたーっ!」」
「おめでとう!」
「やったよ、楓」
「紫、私でもやれば出来るんだよ」
「きっと料理の腕は今開花したんだよ」
「そうかも!」
「それより2人共、ぐちゃぐちゃにした道具片付けようよ」
彩香は苦笑しながら、台所のテーブルがぐちゃぐちゃになっているのを指差しながら言った。
((……なんか、幸村に似てきた?))
なんとなくそんなことを考えた2人だった。
2人は慌てながら片付けをし、お茶をしてから、笑顔で帰っていった。
「さて、やりますか」
彩香は再び台所へ行って腕まくりをしたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バレンタイン当日。
昇降口の靴箱は勿論、ロッカーや教室も幸村宛てのチョコが溢れ返っていた。
幸村本人は彼女がいるから、と手渡しにきた子からは貰っていないが、いない間に机に置いていかれていた。
それは誰かが用意した段ボールに入れていたら、次々とそれに入れられていっていた。
「……参ったな…」
はぁとため息を吐きながら、幸村は彩香と屋上庭園のベンチでお弁当を食べていた。
「大丈夫?」
「うーん、どうだろ…」
「え、本当に大丈夫なの?」
朝から女子の攻撃を受けている幸村を見ていた彩香は、疲れてしまっている彼を心配していた。
「ていうか、まだ彩香からチョコ貰えてないから」
「あ、……えと、あんなに貰ってるから私のみたら気分悪くなるじゃないかっておも「思うわけないだろう」」
「彩香からのチョコだよ? 誰よりも貰いたいし、彩香からのチョコしか貰いたくないよ」
真っ直ぐ見つめて言う幸村に彩香は恥ずかしくて俯いた。
幸村はそんな彩香の手を握って、指先にキスを落とした。
「せ、精市くん!」
「哀れな俺にチョコを下さい、お姫様」
「……………はい、これ」
バッグの中から取り出した箱を幸村に差し出すと、幸村は嬉しそうに頬を緩めた。
「好きだよ、彩香」
「……普通、逆でしょ」
「じゃあ、彩香が言ってよ」
「〜〜〜〜っ」
「フフッ、あ、開けていいかい?」
真っ赤になった彩香は頷くしかなかったが、幸村はウキウキと箱を開けた。そこには色とりどりの花の形をしたチョコレート。
「精市くん、お花好きでしょ? ちょっと形が崩れたのもあってなんだけど、味は大丈夫だから…………えと……精市くんが好きです」
照れながら云ってくる彩香の姿に幸村は俯いた。
「せ、精市くん? 気に入らなかっ!?」
顔を覗いてくる彩香の顎を掴み、幸村は口唇を重ねた。
「…んぅ…んっ!」
「彩香が悪いんだよ、可愛いこと言うんだから…」
そう言ってまた口唇を塞いだのだった。
いきなりのキス攻撃に真っ赤になる彩香だったが、幸村の耳が赤く染まっていたのに気づいていなかった。
(……久しぶりに心臓鷲掴みされたよ…)
END
あとがき
急ピッチで書いたら訳の分からない話に。
ぶっちゃけ、楓や紫のチョコ作りはいらないという……すみません、こんなんで。
1日遅れましたが、皆様どんなバレンタインを過ごしましたか?
私はただチョコを食べた普通の日と全く変わりませんでした(笑)
それでは、ハッピーバレンタイン!
2011/02/15
‐オマケ‐
「うっめぇ! 流石倉橋先輩…」
「ホント、美味ぇよな。ジャッカル、お前の分寄越せよぃ」
「なんでだよ」
「本当に美味しいですね」
「あぁ、流石倉橋だな」
「うむ」
「美味いのう」
「彩香のマフィン、絶品」
「そういや楓はどこだ?」
「楓なら手塚くんにチョコ渡すって早々に帰ったわよ」
「……………キェェェェェェ!」
終わり