誕生日には甘いキスを
『じゃあ、明日は11時ぐらいでいいかい?』
「うん、大丈夫だよ」
『フフ、明日会えるの楽しみにしてるよ』
「さっき別れたばっかりなのに?」
『ああ。当たり前だろ、彩香と一緒にいたいんだから』
耳に流れる声に彩香は顔が火照るのを感じた。
「……、もう、あんまりそんなこと言わないで!」
『フフ、照れちゃった? 可愛いな、彩香は』
「精市くん! あんまり言うと明日会わないよ」
『ごめんごめん、彩香があんまり可愛いから。明日、会えないのは嫌だから今日はこのくらいにするよ』
電話の向こうでクスクス笑う彼に彩香は口を尖らせた。
「もう、」
『フフ、ごめんって。じゃあ、明日バス停まで行くよ』
「え、大丈夫だよ」
『いいから。じゃあ明日、楽しみにしてるよ』
「うん、じゃあ明日ね。おやすみなさい、精市くん」
『おやすみ、彩香』
プツと切られた電話の向こうから聞こえた優しい声にドキドキしながら、彩香はベッドに横になった。
横になりながら机の上にあるラッピングされた物を見つめる。
明日は恋人である幸村の誕生日である。1週間前から悩みに悩んで、幸村が欲しいと言っていた画集を手に入れた。
(喜んでもらえるといいな…)
彼が喜んでくれる姿を思い浮かべ、彩香は微笑した。
そうだ、お母さんたちに出掛けること言わないと。それを思い出し、身体を起こして、下へと降りていった。
お母さんに冷やかされながらも、誕生日のケーキも作ることにして、台所へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
プシューとバスの扉が開き、バス停へと降り立つとそこには幸村の姿があった。
幸村は彩香を視界に入れると女性が振り返ってしまうくらいの微笑を浮かべている。
「ごめん、待った?」
「大丈夫だよ、俺が早く来ただけだから。荷物持つよ」
さり気なく、彩香の手にあったケーキが入った紙袋を幸村は右手に持ち、彩香の手を繋いだ。
「これ、ケーキかい?」
「う、うん。昨日作ったんだ」
「そっか、楽しみだな」
2人で仲良く手を繋ぎながら、幸村の家まで歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
通された幸村の部屋は何度かお邪魔しているが、すごく広いので彩香はちょこんとベッドの端に腰を下ろしていた。
「紅茶で良かったかな」
「うん、大丈夫。今日、茉莉花ちゃんは?」
「茉莉花は友達と出掛けてるよ」
「そうなんだ。おば様たちは?」
「母さんたちも出掛けてるんだ。でも夕方には戻るから、彩香に夕飯一緒にどうぞってさ」
「え…いいのかな?」
「フフ、いいに決まってるだろ。茉莉花なんて彩香が来るなら友達と約束しなかったのに!って出掛けて行ったよ」
紅茶を渡されながら、幸村に言われたことに彩香は「え〜嘘〜」と苦笑いした。
「本当だよ。今日はクラスのみんなで卒業記念に遊園地だっていうのにさ」
「なんか茉莉花ちゃん、可愛いなあ〜」
「全く、我が妹ながら彩香が来るとべったりするから妬いちゃうな」
少し笑いながら、少し拗ねたように話す幸村に彩香はクスクス笑うしかなかった。
「まぁ、今、彩香と2人きりだからいいけどね」
「…………そ、そうだ! これプレゼント!」
ジッと見つめてくる眼差しにドキドキして、彩香はバッグからプレゼントを取り出して渡した。
「ありがとう。ケーキ貰ったんだから別にいいのに……開けていいかい?」
「どうぞ」
「……これ、」
包みを開けた幸村は一瞬眼を丸くして、笑みを浮かべた。
「えと、テニス用品もいいかなって思ったんだけど、ルノアール好きだって柳くんから聞いて、お父さんの知り合いから安く譲って貰えたから……どうかな?」
「フフ、嬉しいよ。欲しかったんだ」
「良かっ……んっ」
手を合わせてホッとしていると、両手を掴まれ、口唇を塞がれた。
「……精市くん」
「お礼だよ」
「精市くん…」
「ん?」
彩香は幸村の腕の中にいたが、顔を上げて微笑した。
「まだ言ってなかったね、誕生日おめでとう。私、幸村くんに逢えてとても嬉しいの。だから……生まれてきてくれて、傍にいてくれてありがとう」
「!……本当に君は………。俺こそ君に逢えて嬉しいよ、俺の前にいてくれてありがとう」
幸村はそう言って、また彩香の口唇に甘いキスを落としたのだった。
END
あとがき
幸村誕生日話でした。
うん、ありきたりな話でつまらないかもしれないです。というかつまらないですね(苦笑)
相変わらず、チュッチュッしてますが(笑)
良かったね、誰もいなくて、誰も毒気に当たらずにすんで(笑)
2011/03/01