05
肩を手で押さえながら、ベンチに座る。
審判が棄権した方がいい。と薦めている。だが、彼は肩の調子をみながら、手を握ったりしている。
「手塚っ、これ以上のプレイは危険だよ」
「それにその肩の状態であの跡部に勝利する確率は…極めて低い!」
「部長、無理っスよ!!」
「うんうん」
皆が心配して止めるなか、それでも国光はラケットを手に立ち上がった。
「あっ、ダメっスよ! 部長ぉ―っ!!」
「これ以上やったら、本当に腕が……テニスが出来なくなってしまいますよっ」
「倉橋ちゃん! 倉橋ちゃんも手塚を止めてっ!!」
再びコートに入ろうとする国光を止めようと、菊丸くんが腕を引っ張り懇願してくる。
「……国光、」
促されて、名を呼べば振り向いてこちらを見ている。
真摯な眼差しに答えは決まっている、分かっている……だから。
「あ「負けるな、国光」…あぁ」
「倉橋ちゃんっ!」
「倉橋先輩っ!?」
隣で菊丸くんや桃城くんたちが声をあげるけれど、私はただじっと国光を見つめていた。
頷いて、コートに入ろうとすると大石くんが前に立った。
「大石…」
ギャラリーも何もかも静まっていた。皆が、成り行きを見つめている。
「大和部長との約束を果たそうとしてるのか? 部をまとめて全国へ導くという、あの約束を」
「全国へ行くぞ」
「──がんばれ」
二人は拳を合わせて、決めたようだった。
「青学ぅ──っ!! ファイオ──ッ!!」
大きな声を後ろを振り向くと、河村くんが重い団旗を振り回していた。
「へへっ、ビクトリー!!」
怪我をして病院に行っていた河村くんが大丈夫なようで、皆がホッとしていた。
コートに入ろうとした時、ベンチに座っていた……帽子の子が呟いた。
「俺に勝っといて負けんな」
スクッと立ち上がるとコートから出ていく。
「俺は負けない」
彩香はただ呟く。
「……頑張れ、負けるな」
呟いたそれが聞こえたのか、国光は右手を上げてそれに応えた。
『み、見ろ。出てきた……』
『うそマジ―ッ!? まだ試合やるつもりだっ!!』
どよどよと騒がしくなるコートに歓声をがあがる。
「待たせたな、跡部。決着をつけよう」
相手も驚きを隠せなかったようだった。
──真摯な眼差しは決まっていたのに、分かっていたのに、それでも本当は……。
彩香はただ祈るようにただその姿を見つめていた。それが彼女に出来ることだけだから。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「倉橋先輩、なんで止めないんスか!?」
「そうだよ、倉橋ちゃんの言うことな「それで国光が止めるなら、止めているよ」」
「二人ともっ…」
さっき止めなかったことを桃城くんと菊丸くんに咎められた。
大石くんが止めるように間に入ってきた。
私はじっと国光の試合を真っ直ぐ見つめたまま答えた。
肩が上がらないのと、激痛によって国光の普段とは違い、痛みにより顔が歪んでいる。
「……でも、国光は覚悟を決めたの。それだけの覚悟を。だから私はそれを見てる事しか出来ない…」
「……倉橋、さん…」
その言葉に誰もが何も言わず、彩香と同じように試合を見守った。
〈ゲーム 6-5 跡部リード!!〉
タイブレークに突入し、互いに2ポイントは離されず、点の取り合いが続いていた。
長いタイブレークが続き、誰にも止められないのが分かる。
〈36-35 跡部リード!!〉
長く凄まじいタイブレークは見る人を惹き付けていく。
誰かが『この試合、いつまでも見ていたいな』と呟いていた。
(……本当に、ずっとみていたいくらい、凄い。目を離せない──でも、)
──終わらない試合はない。
国光が零式ドロップショットを打った──が、ボールは戻らず、跡部が拾ったけれど、打ち返したボールはネットを越えなかった。
〈ゲームセット ウォンバイ氷帝学園 跡部!!〉
〈ゲームカウント 7-6!!〉
二人が握手をしたかと思えば、跡部くんが国光の片手を高く掲げた。
瞬間、コート上に歓声が溢れた。
「国光……はい」
試合を終えた国光に近寄り、預かっていたレギュラージャージの上着を肩にかけた。
「……」
「……お疲れさま。格好よかったよ…」
「……あぁ」
試合は2勝2敗 1ノーゲームで控え選手の試合が始まる。
あの帽子の子はとっておきだったらしく、凄い試合を見せていってくれる。
この子が、国光が『青学の柱』を託そうとしている1年生なんだね。
ハイテンションなのか、凄い勢いで試合は1年生の勝利となり、1回戦突破となった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
試合終わり、少し話があると国光とその場を離れた。
「……肩、大丈夫…?」
「あぁ……」
「…無茶ばっかりして…」
「……すまなかった」
それでも止めようとはしなかった。いや出来なかった。
ぐすっと泣くのを耐える彩香を宥めるように、頭を撫でてやった。
「どうするの、その肩で次からの試合は……」
「心配するな」
「するよっ! するに決まってるじゃない!!」
「──先ほど、竜崎先生から話があった。青学の附属病院が九州にあるらしく、そこに行ってくる」
「九州…?」
「あぁ、お前も知っているだろう。俺は必ず治して戻ってくる」
「絶対、ね」
「あぁ」
ぐすっ、と泣く彩香の涙を拭うとギュッと抱きついてきた。
「……彩香?」
「試合、負けちゃったけどご褒美」
「……そうか…」
「うん」
腕の中にすっぽり収まる彩香をただ抱きしめた。
甘い香りが鼻を擽った。
「ところで、彩香」
「ん?」
「誰の青学ジャージを着てるんだ?」
「あっ、借りっぱなしだった…不二くんのだよ。他校生で目立つからって」
「そうか。とりあえず、みんなのところに行くか」
その言葉に彩香はバックの中身を思い出したのだった。
「私、お茶買ってから行くから」
「気をつけろよ。一緒に行くか?」
「大丈夫! 早くみんなのところに行きなよ」
心配する国光に苦笑して、手を振って自販機のところへ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ───っ!」
小銭を出して、ボタンを押そうとした時、大きな声が横からした。
驚いて見れば、そこには桑原くんと、さっきの国光の試合を見ていた人、そしてガムを膨らませている人がいた。
「?」
「どうしたんだよぃ、赤也」
「赤也? って、倉橋?」
見れば桑原くんはなんだか驚いているのは、なんでなんだろう。さっき会ったのに。
「さっきぶりだね、桑原くん。どうかした?」
「おまっ、その格好……」
「ジャッカル先輩の知り合いなんスか? アンタ、さっき青学氷帝戦にいた人っスよね。なんでうち(立海)の制服着てんのに青学のジャージ着てるんスか?」
「あっ……」
すっかり馴れてしまっていた。自分が立海の制服の上に青学レギュラージャージ(不二くんの)を羽織っていたことを。
「そういや倉橋は青学から来たんだっけな。だからさっき青学の コート探してたのか?」
「うん、そうなの」
ジャッカルの言葉にうん、と笑って答えた。そして、こちらを見てる二人に目を移す。
「桑原くん、お友達?」
「ん、あぁ、同じテニス部の丸井と後輩の赤也だ」
「そうなんだ。初めまして、倉橋と言います。桑原くんとは前に同じクラスだったの」
「あー、お前、あれだろ! ジャッカルのクラスに転校して来たヤツ! どっかで見たと思ったんだ」
挨拶をすると、今度は赤い髪の丸井くん、という人に指で差されてしまった。
「う、うん。転校したばっかの時は本当に桑原くんや楓ちゃんに迷惑かけちゃってて……えへへ」
「ふーん。あ、俺は丸井 ブン太、シクヨロ」
「あ、はい。よろしくお願いします、丸井くん……と」
ちらりと、もう一人の方を見ればなんだかそっぽ向いていた。
「まさか、俺の事知らないつーわけじゃないっスよね」
「……えっと、ごめんなさい。知らないの、名前聞いてもいいかな?」
「マジで言ってんスか?」
「ご、ごめんなさい」
信じられないという顔をされてしまった。
確かにテニス部の人気は凄いけれど、私にとっては別に支障がないから覚えなかった(というか覚えられなかった)。
「赤也、倉橋は転校して来たんだから分かる訳ないだろ。いいから自己紹介しろよ」
「……切原 赤也、立海の2年生エースってのは俺の事っス」
「……切原くんだね、よろしく、倉橋です」
「ところでこんな所で何してるんだ?」
「えっ、あっ! お茶買いに来たんだった。これからお昼で……桑原くん、おにぎりどうだった?」
「ん、あぁ、相変わらず旨かったぜ。サンキューな」
「いえいえ、どういたしまして」
「礼に買ってやるよ、飲みもん」
「えっ、気にしなくていいのに」
「もしかして、さっきのおにぎりってコイツがくれたのかよ?」
「えっ、マジっスか?」
ガムを膨らませてながら、丸井くんがジャッカルに問い詰めていると、切原くんも驚いたように見てきた。
「あれ、もうないのかよぃ」
「えっ……今はもう…」
「ちぇっ、つまんねーの。そろそろ戻ろうぜ」
「そーっスね」
二人はそう言って歩いていってしまった。
「お、おいっ、待てって! わりぃな、倉橋、これで飲みもん買ってくれ。じゃ、またな」
「えっ、あっ……行っちゃった…」
手渡された二百円を見ながら、苦笑すると彩香はお茶を買い、急いで青学の所へ走っていった。
To be Continued
あとがき
またしても夢なのか怪しいですね。うちは名前変換小説です!と言ってみる。
手塚とのやり取りは小さな頃からハグしてて…という延長です。深い意味はありません。
本当は頬ちゅーでもしようかな、なんて思いましたが手塚がキャラじゃないんで止めました(笑)
2009/05/19