最大の敵は内にある。

GUNDAM SEED

メンデルで傷を負ったムウは暫くの間、腕が使えずにいた。
そのせいだろうか、常にマリューのそばにいてムウの世話をしていたのだった。
そして、今日もまたマリューが食堂でかいがいしくご飯を食べさせている姿があった。


「マリュー、あーん」

「……ムウ、そろそろ一人でも食べれるんじゃない?」

「いや、やっぱ利き手じゃないと上手く食べられないからさ〜」


大口を開ける男は、利き手を肩から吊しているのを見せると笑った。その様子にマリューは、はぁとため息をついてお粥を掬ったのだった。


「もう、仕方ないわね〜」


やれやれと肩を竦めて、フゥフゥとやや熱いお粥を冷まし、アーンと大きく口を開けるムウに食べさせた。
なんだか、小鳥――とは似ても似つかないが――に餌をあげている気分だった。
なにより、怪我をしたと聞いた時は心配で堪らなかったが今は回復に向かっていて、元気なのでホッとしている。


「美味しいよ、マリュー」

「よかったわね、ムウ。コック長に言ってちょうだい」


ここが戦艦でなければ、ただのいちゃつきバカップルがご飯を食べてる光景にしか見えない。
通路から食堂を覗いていた少年少女たちは、その甘やかなムードたっぷりの食堂に入れずにいた。


「うっわー、オッサン鼻の下伸びてんぞ。しかも小さくガッツポーズ作ってやがる」

「……………いいな…」


みんなと合流した頃、アスランとて腕を怪我していたのに、誰も自分にご飯を食べさせようとはしなかった。
いや、誰かではなく、彼女にしてもらいたかったが、怪我した自分を見た彼女は優しい言葉どころか「バカだ」と称されたのだ。
少し苦い思い出にアスランは泣きそうになった。
その呟きにディアッカは苦い顔をする。そして、ちらりと横にいた少女をみると、視線に気付いたのか「なによ」と睨まれたのだった。


「あらあら、仲がよろしいのですわね〜」


指揮官だというのに何故ここにいるのか不明だが、ラクスは初めてAAに保護された時のようなのんびりとした口調で二人を見ていた。
そして、マリューを姉のように慕う二人がその姿を見ていた。最近、双子ということが発覚した姉のカガリは二人の光景にいらいらしていた。


「あんのフラガの奴! マリューさんに食べさせてもらうなんて、男として情けないぞ! デレデレしやがって! 片手で食え、片手で!!」


その激しいまでの言葉にアスランは心の中で突っ込んだ。


(えっ? 食べさせてもらうのは、だめなのか……?)


好きな女の子にご飯を食べさせてもらうのを少々夢を抱いていたのか、アスランはカガリを眺めた。
視線を感じたカガリは、アスランに強く言い切った。


「アスランもそう思わないか!? 片手だって食えるはずだろう?」

「…………そう、だな…」


そう頷いた後、アスランは心の中で(……俺はバカだからな…)と呟いたのは誰も知らない。
そして、またしてもマリューにアーンと食べさせてもらうムウの頬にご飯つぶがついたのを見て、微笑するとそれを指先に取った。


「ほら、ついてるわよ」

「あ、悪い……」


そう言うとマリューの指先についているご飯つぶをそのまま口に含んだ。


「ん、美味い!」

「ムウっ!」


さすがにその行為には驚いたらしく、マリューは手を引っ込めた。少し赤くなっている姿が可愛いらしくて、ムウはにゃは〜としまりのない顔をしている。
そんなラブラブっぷりに見ていた双子の弟がついに身を乗り出した。


「マリューさん、ムウさん」

「あら、キラくんどうしたの?」


爽やかな笑顔でやってきた弟分を見て、マリューは笑顔で迎え、一方ムウは微妙な顔をしていた。
キラを弟分のようには思っているムウではあったが、マリューが関わるとこいつは小舅のようである。ちなみにお嬢ちゃんもだ。


「さっきバルトフェルドさんが話があるって言ってたんですが……」

「あら、そうなの? 何かあったのかしら?」

「多分、補給のことだと思います……」

「そう、早い方がいいわね」

「そうですね。よかったらここは僕がやりますよ」


ムウにご飯をあげていたマリューは困った顔をしたので、キラは胡散臭い(ムウ談)笑顔でそう答えた。


「あら、そう? じゃあ、お願いしようかな」

「え、マリュー……?」

「はい、僕に任せて下さい」

「じゃあ、お願いね。ムウ、ちゃんと食べてね」

「あ、おい、マリュー……」


え?え?とあっという間にマリューはキラにお椀を渡すと、ブリッジへと行ってしまった。
後に残されたのは、ムウとキラ、そして若者たち。アスランとディアッカはむしれ憐れんだ目でムウを眺めていた。

(ご愁傷様、エンディミオンの鷹…不可能を可能にする男よ。俺達は無力だ)


「さあ、ムウさん。ちゃっちゃか食べましょうね」


にーっこり笑うキラは熱々のお粥をレンゲで掬い、そのままムウの口へと押し付けた。


「熱っ! キラ、お前っ……」

「えー、ちゃんと冷ましてるでしょう? 片手で食べれないムウさんの為に食べさせてあげてるんだから、ちゃんと食べて下さいね」


にっこりと笑うキラの顔は、普通の人が見たら「可愛い」と称されるかもしれないが、ムウとアスラン、ディアッカは「悪魔」としか言いようがなかったのだった。
それから、ムウはマリューの手を煩わせることがないよう、片手でもご飯を食べるようになったのだった。



END




あとがき

はい、なんとも言えない作品でございました。
うーん、キラが微妙でしたね。
でも私の中のキラはマリューさんを姉のように慕っていて、マリューさんが良くてもムウがマリューさんに甘えているのに少々?ムッとして邪魔しましたのです。
そんな勝手な理由で出来上がった次第でございます。


久々のSEED小説、ご拝読ありがとうございました!
3rd anniversary novelでした。

2007/09/17



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