03
「ほぉらナンナ〜、海だぞぉ〜!」
「ふわあーー!」
眼前に広がる光景に、ナンナは目を輝かせた。
どうやらその瞳は、初めて見る大きなものに、純粋に興味を持ったらしい。
それまでアスランの腕の中でおとなしかったが、途端に暴れだした。
「あーうー!」
「分かった分かった、今下ろすからな」
アスランはなだめながら下ろし、そのまま海へ突進していきそうな小さな手を握り絞めた。
――本当に来て良かった。
海を見てはしゃぐ娘に、アスランは心の底から思っていた。
カガリがラクスと出かけるということで、必然的に子守りをすることになった。
子守りをするのは、別に構わない。むしろ、幸せだ。
問題は、カガリがラクスと出かけるということだった。
今日は休日。紛うことなく《アイツ》が一人になる。
『……それじゃあ、俺も出ようかな』
カガリに即答したのは言うまでもない。
『いいんじゃないか?たまには父と子の二人ってのもさ』
朗らかに可愛らしい笑顔で返答する妻に、アスランは愛しさと共に薄寒さを感じた。
「……本当に《アレ》と血が繋がってるんだろうか……」
「ハロ!ハロ!アキラメロ!」
溜め息をつきながら砂浜に蹲るアスランの肩に、それまでナンナの頭の上にいたハロが飛び乗ってきた。
「……おい、『諦めろ』なんて、いつ覚えたんだ?俺は、そんな言葉を設定した覚えは無いぞ?」
「ハロ?ハロ?…ナンナー!」
ハロは小首を傾げるような仕草をしていたが、まるで何事も無かったかのようにナンナの元へ戻っていった。
その態度がまた、アスランの心に影を落とす。
アスランはがっくりとうなだれながら、ポケットから携帯電話を取り出した。
今日は着信履歴に1件。そして留守電にメッセージが残されていた。
{あれ、留守電?……ちっ。じゃあ、またその内…}
……つくづく、先手を打って出かけて良かったと思った。
でなければ、こんなに穏やかな時間を過ごすことは出来なかっただろう。
離れてしまわないように、危なくないようにと握り絞めている小さな手を見て、アスランは幸せを噛み締めた。
そのナンナは波打ち際まで行ったが、海水が足にかかったことに驚いたらしく、「やあー!」と言いながらアスランの側に駆け寄ってきた。
「んー、どうした?ほら、怖くなんかないぞ?」
「やー!ぱぁぱ、だぁこ!だぁーこー!」
クリクリとしたエメラルドの――自分と同じ瞳で見上げ、しかも小さな手を伸ばして抱っこをせがんでくる姿……
……父は一発で落ちた。
「あーもう、可愛いぞぉナンナ!」
「きゃあーー」
アスランは小さな体を持ち上げて、ぎゅうっと抱き締めた。
柔らかな頬に自らのそれを擦り寄せると、楽しそうな笑い声が耳に届く。
「ナンナ、イイコイイコ!」
ハロも負けじと、ナンナの頭上でクルクル回り始めた。
空は澄み渡り、潮風が心地よい。
そして抱き締める娘の少し高い体温が、憂鬱だった心に染み入るようだ。
アスランは幸せに浸りきった。
……だが、そんな幸せもつかの間、アスランの耳は聞き覚えのある声を拾った。
とっさに近くの岩陰に身を隠し、そっと様子を覗きみてみると……
「キラにーちゃ、だっこー!」
「いいよ〜!おいでエリスちゃん」
「あらあら。良かったわね、エリス」
「………しくしく…」
……そこには、よく見知った人達がいた。
だが一緒にいるのはマリューとエリス、そしてキラの三人だけで、ムウは離れた所で一人蹲っている。
アスランは背筋に氷が伝ったかのような寒気を感じた。
何て恐ろしい地獄だろう。
彼等はアスラン達が同じ海岸に来ているとは気付いていないようだ。
散歩がてらにと思って、少し離れた場所に車を停めていたことが幸いしたらしい。
「……ねぇ…ちゃあ?」
腕の中のナンナの声に、アスランはハッとした。
姉のように慕うエリスの声に反応して、キョロキョロと辺りを見渡そうとしている。
アスランはどこを見ているのか分からない遠い目で、すぐ目の前にいるハロに語りかけた。
「……ハロ。お前は俺の言わんとしてることが分かるよな?」
「……ハロ」
ハロは尚もエリスを探そうとするナンナ、「フフフ…」と乾いた笑いまで浮かべ始めたアスラン、そして岩の向こうの四人を見渡した。
やがてすぐに決意が固まったのか、ハロはナンナの頭からアスランへと飛び乗った。
「ハロ!ナンナ!ナンナ!」
「…う?」
名を呼ばれたナンナは、まるで仮面を被ったかのようなニコニコ笑顔の父とハロを見上げた。
ハロはナンナの注意を逸らせたことを確認し、ぴょんぴょんと飛び回った。
小さな黄色い球体は、相変わらず怪しい笑顔なアスランの頭や肩、そして見上げるナンナの頭にも飛び回り、絶妙な捻りらしきものや回転も加えた曲芸を繰り広げた。
不思議そうに見ていたナンナの瞳に、次第に輝きが増していく。
――完全に、幼子の心は目先の景色に捕われた……
「きゃっきゃっ♪」
「うわぁ〜。ハロは凄いなぁ〜。なあ、ナンナ?」
ハロの飛び回る方へと楽しそうに目で追うナンナは、感動もへったくれも無い父の棒読みな言葉にも気付かない。
そして、先ほどまで探そうとしていた人物の声でさえ……。
「さあ〜て、そろそろ帰るか?」
「あい!」
元気良く手を上げて返事をする娘に、アスランは満面の笑みを返した。
(ありがとう、ハロ!後でメンテしてやるからな!)
いつの間にか目尻に溜っていた涙を拭いながら、アスランは走り出した。
楽しそうに笑う娘の声だけを糧に、今日掴む筈の幸せに向かって。
とても足元が砂浜とは思えないスピードで、地獄に背を向けて逃げ出した……。
End
あとがき
姉が書いた小説を読んで、即、頭に浮かんだものでした。
こんな感じになったけど、いい?良かったら地獄のその後も書いてv(笑)
そういや、パロ書いてる本人が言うのも何ですが、彼等は海の近くに住んでるんでしょうかね?考えてませんでした。どんな物件かは裏設定で考えてますが…。
以前最初の『Drive Panic』を書いた時、二人でどこに行くかと話してて、普通に『海』って言葉が出てたんですよね〜。無意識な両想いって怖いですね(笑)
ちなみに機械にとってのメンテは、人間にとっての極上マッサージだと思われます。………多分。
それでは、こんな駄文を読んで下さって、ありがとうございました!
2007/07/18
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