お兄さんは心配性
まさかの出来事から1週間。
私の携帯にテニキャラのアドレスが追加されていた。これで二人目である。無論一人目は兄であるが。
もう一人は清雅ではなく、日吉くんである。清雅は違う。
なぜ、日吉くんとアドレスを交換するに至ったかは謎ではなく、あの後ようやく現れた姉のせぃ…ゴホン、姉のおかげである。
まぁ、しつこいナンパ野郎から助けてくれたのを話せばお礼をしなくてはならないから連絡先を!という姉にたじろいだ日吉くんが、教えてくれたのだ。意外に押しに弱いのか、姉の迫力に負けたのか、後者かしら?
そんな訳で、私のアドレスも教えたので今に至る。
まぁ、メアドを交換したからといっても特にメールをし合う事もないので、構わないのだが、まさか、まさかとは思うが彼らの先輩が携帯を見て知るなんてことは……ないない。どこまで自意識過剰になるんだ、気を付けよう。
うんうん、と頷いていたら、ブブブブブと携帯が振動を起こした。
相手は清雅だ。いつも通り、大した話題でもなく、今日も疲れた〜とか、練習キツすぎるとかのどうでもいい内容だ。
たまに物語に関することを聞かれるが、なんせ立海は関東大会まで出てこないし、主人校は東京なので、神奈川の試合結果についてはよく分からない。
だが、無敗を誇るという謳い文句があるのだから、立海が負けることは断じてないのだろう。
まだまだ県大会な時点では、物語がどうなっているかが分からない。
あ、日吉くんに聞けば分かるだろうか?
東京は地区大会、都大会があるみたいだし、氷帝も出てるし。
でもそんなことを聞いたら不審がるだろうなぁ〜、それにいきなりそんな内容のメールを送られてこられても、彼が困るだろう。
そんな訳でメールはしていない。
お礼をしなくてはならないと思ってはいるが、なかなか時間が取れないのも事実。
私は帰宅部であるし、なんの障害もないが、彼は氷帝テニス部である。
立海ほどの練習でないだろうが、200人近くいるらしいテニス部でレギュラーでいるというのは、日々欠かさず練習をしているのだろうし。
うーん、と悩みながらも葵衣はちまちまと日吉にメールを打つことにした。
先日のお礼をしたいので、都合のよい日を教えて欲しい。という旨を送ったのだった。
◇◇◇◇◇
日曜日、再び私は東京に来ていた。
日吉くんにお礼をする為とはいえ、少々面倒……ゴホン。ぬれ煎餅を携えてやってきた。
さて、氷帝までの道のりはあまりよく知らないが、まぁ、携帯を見ながら行けば大丈夫であろう。
なんでぬれ煎餅かというと、兄からの情報である。
つい先日のことだ────
「葵衣、日吉くんにお礼はしたの?」
帰ってきていた姉の一言に、居間にいた母と兄が何事かと姉に訊ねた。
「まぁ、葵衣。お世話になったのだからその方にきちんとお礼はした方がいいわ」
「日吉……もしや日吉 若か? 氷帝の」
「あら、蓮二、知り合いなの?」
「姉さんからの話を聞く限り、一致する者がいるのだが……名前は若でいいのか? 葵衣」
じっとこちらを見てくる兄の眼が開いているのに、私は頷くしかなかった。
「う、うん。確かにそんな名「あら、日吉くんて、葵衣が通っていた算盤塾にいなかったかしら?」……なんで知ってるの? お母さん」
言葉を遮られたが、母が算盤塾で一緒だった事を知っているのにびっくりしてしまった。
「あら、何回か暗くなった時に迎えにいったでしょ? その時、その日吉さんて方にお会いしているのよ。教室見た時に隣に座っていたし、あなたたち」
親の記憶というか、交流は思いがけない所で起きているんだね。
流石の兄もやや驚いている節がある。
そこから早くお礼にいった方がいい、となり、兄が何処からか出した氷帝ノートというのに、日吉くんの好物が濡れ煎餅だと書いてあるらしい。
じゃあ、それを持っていきなさいと母に言われてしまった為に再び東京へ行くことになった。
夜、清雅と日吉くんに連絡をしてから水を飲もうと部屋を出たときに廊下で兄に呼び止められた。
「葵衣」
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
「日吉には連絡を取ったのか?」
「え、あ、うん。近々お礼に行きますって、メールをしたよ」
「そうか…………」
黙る兄に首を傾げていると、彼は口を開いた。
「東京に行くのは一人でか? なんなら俺も付いて行くか?」
「は、ぁ?」
「お前、一人で行かせると良からぬ輩がまた現れないとは限らないからな」
まさかの心配性が出たらしく、しつこく付いてくるというのを回避するのに廊下で時間を取られてしまった。
あの日は意外に冷えたんだよね、と葵衣は遠い眼をして、氷帝への道のりを歩いていくしかなかった。
act.8
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