彼女じゃないです。
土曜日、昼前に私は氷帝の校門にて日吉くんが来るのを待っていた。
わざわざ中に入るのもなんだが、憚れたからだ。
(まぁ、練習してるとこに行くのも悪いし)
何よりなんだか面倒臭そうだからだ。
学校休みだし、騒がしくはないだろうけど、氷帝だし。
昔の記憶を辿ると、氷帝はコートの回りをぐるりと人で埋め尽くして、コールの中、試合をしていたような、違うような。
とにかく、人がいっぱいいるだろう。邪魔になるな。うん。
そんなことを考えながら、持ってきていた本を読みながらいると走ってくる足音が聞こえた。
日吉くんかな、と校門の方を見るがなんだか複数の足音だ。
違うのか、と見ていると、声も聞こえた。
「日吉、僕にも会わせてよ。先輩には言わないから」
「だから違うと言ってるだろう」
「嘘だ。だってメール見てニヤニヤしてたじゃないか」
「誰がだ!アイツはそんなんじゃ……あ、」
「じゃあ、良いじゃない……あれ?」
見れば、日吉くんと、彼よりかなり背の高い人がこちらを見ている。
あれ、誰だっけ、あの子。
でも髪の色が清雅に近いって事はキャラなんだろうな。
バチっと目が合い、ペコリと頭を下げると、彼も会釈してくれた。
そして笑顔で寄ってくる。
「君が日吉の彼女なの?」
「…………は?」
「鳳っ! 」
鳳? あぁ、そういえばそんな人がいたかもしれない。
帽子を被った人のパートナーで、確か
「俺、鳳 長太郎です。よろしくね、日吉の彼女さん」
爽やかににこやかに言ってくるが、彼は何か物凄く勘違いしている。
「おい、鳳、こいつは「あの、私、彼女じゃないです」」
彼の目を真っ直ぐ見据えてきっぱりと告げた。
彼女って、なんで私が彼女になるんだ?
途端、彼はえ?と呟いて、日吉くんを見つめた。日吉くんも頷く。
「こいつは俺の彼女なんかじゃない。ただの算盤塾の同期だ」
「え? そうなの? 俺、てっきり日吉に彼女が出来たんだとばかり思っていたんだよ」
「何をどうして、そうなるんだ?」
(確かに)
日吉くんの言葉に頷きながら、彼──鳳くんを見上げる。
何故か、彼は顔を赤くしていた。
「ご、ごめん! なんか勘違いしてたみたいだ」
「当たり前だ、こんなのが彼女だなんてどうかしているぞ」
日吉くんの発言に一瞬イラッとしながらも、私もないない。と告げた。
その際、日吉くんがこっちを見たが気にしない。
「そ、そうなんだ………ごめん、二人とも」
背が高いのにしゅんとする姿がなんだか可愛く見えた。子犬みたい。
「い、いいよ。そんな気にしないで、えと、鳳くん。私は柳 葵衣です、立海の二年です」
「え、立海で、柳って!? もしかして、立海三強の?」
「あ〜〜〜〜、えと、妹、です…」
しまった、と思った時には遅かった。
言うことでもなかったのに、言ってなかった日吉くんがまたもやこちらを凝視している。
鳳くんが何か興奮しているが落ち着いてもらいたい。
「本当に? 柳さんの妹さんなんだ! じゃあ君もテニスしてるの?」
「お、落ち着いて、鳳くん。私はテニスはしないの、ごめんね」
「え、あ、そうなんだ。ごめんね、なんか興奮しちゃって。立海三強なんてすごい人達だから、びっくりしたんだ」
見えない耳がしゅんとしてる様に見える。本当に悪気なく言っているんだろう。苦笑するしかない。
「あ、あの、私が柳 蓮二の妹って事は言わないでもらえるかな?」
「え、なんで?」
「えーっと……」
言葉に詰まった。
別に秘密にしている訳ではないが、知られたくもない。
何て言ったらいいのか困っていると
「別に誰かに言う事でもないだろ、柳さんは柳さんで、こいつはこいつなんだからな」
「…………」
「……そうだね。ごめんね、柳さん」
日吉くんの言葉に唖然としていると、また困ったように鳳くんが謝ってきた。別に悪くなんてないのに。
ううん、こちらこそごめん。と謝って、持ってきていたお礼の品を日吉くんに手渡す。
袋を見ながら怪訝そうにしている彼を見ながら、お礼の品。ぬれせんべい。と告げれば、有り難く頂く。と返ってきた。
やはり好物なのか、お兄ちゃん凄いなと関心した。
「じゃあ、ごめんね。休憩時間なくなるよね、これで失礼します」
「気にするな、まだ時間はあるからな」
「そうだよ、俺なんか勝手に付いてきただけだし」
笑う鳳くんに思わず笑みを浮かべる。
じゃあ、と言って、私は踵を返すと駅まで歩く事にした。
テニプリのキャラと知り合ったというのに、少しも嫌な気分にはならなかった。
夜、日課になってしまった清雅とのやり取りに、氷帝の二年生組と知り合いになったよ、と伝えた。
樺地も?と聞かれたが、樺地はいなかったと言ったら、ふ──んとなんだか引っ掛かる言い方をした。
そして、寝る前に水を飲みに廊下に出れば兄の姿が。
東京に行って、大丈夫だったか?とかなんとか、ちょっと煩かった。
なんなのよ、一体。
act.09
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