懐かしき故郷を想う
5月から始まった地区大会、6月の県大会、文武両道を掲げる立海の各運動部は、大概は関東大会に出場が決まっている。
テニス部も勿論、清雅も準レギュラーとしてますます練習に励んでいた。
あの転校生の愛原先輩はマネージャーになったらしく、清雅からの愚痴が日に日に増えているが。
「本当に何なんだよ、あの女」
「仮にも先輩に対して、あの女呼ばわりはどうかと思うよ?」
「あの女で充分だって」
ゲンナリしながら清雅はテーブルに頭を乗せた。
県大会も余裕で優勝を決め、最短試合時間を出したらしい立海テニス部は今日は休みらしく、二人で公園に来ていた。
公園といっても入園料がかかる公園だ。まぁ、百円ちょっとだが。
噴水が近くにあり、木陰にあるピクニックテーブルに座っている。
清雅の話を聞いていると、マネージャーは色々スゴいらしい。
前に清雅から聞いた時は、一年生が練習出来ないから、代わりに私がする。みたいなことを言っていたはずなのに、何故か、彼女はレギュラーの世話しかしないらしい。
しかし、準レギュラーの清雅は別らしく、わざわざ小走りでドリンクを手渡しに来る。他の準レギュラーや部員にはジョグから飲め、みたい置かれているらしい。
明らかなレギュラー贔屓。
知っているであろう兄や厳しいはずの真田先輩は何も言わないのだろうか?
項垂れる清雅の頭を撫でてあげた。
「葵衣〜〜マネージャーやんねぇ?」
「お断りします」
「なんでだよ〜やってくれよ〜」
テーブルに頬をつけたままで、こちらを見上げてくる清雅に再度断る。と断言した。
彼ははぁ〜とため息を吐きながら「だよなぁ」と呟いている。
助けてはやりたいと思うが、マネージャーなんてとんでもない。なにより面倒だ。
サラリと光に煌めく髪に触れる。綺麗な髪だなぁ〜とサラサラと触っていると、清雅が腕を掴んだ。
「さっきからなんだよ」
「あ、嫌だった? ごめん」
「嫌じゃねーけど、気になる」
「いや、髪が綺麗だなって思っただけだよ」
「葵衣の髪も綺麗だろ」
清雅は顔を上げて、スッと手を伸ばし私の髪を手に取った。
なんだか顔が良いだけに仕草が絵になる。そんなことを考えながら、髪を自由にさせていると、メロディが流れる。
「あ、わり、俺んだ」
清雅はポケットから携帯を取り出し、操作をして顔を潜めた。
「どうかした?」
「いや、赤也からなんだけど…」
見せてくる携帯に目を向けると写メが添付されている。
切原くんと、黒人さん─桑原先輩、髪が赤い先輩は確か丸井先輩、そして、一緒に笑って写ってるのはマネージャーの愛原先輩だ。
『格ゲー、20人抜きだせ!』
どうやらゲームセンターにいるようだ。
せっかくの部活休みも部員でつるんでいるのか、なんて考えていると、見ていた画面に名前が表示される。
『愛原 姫奈』
なんの変鉄もない呼び出し音が鳴り始めた。
慌てた清雅が携帯を見ると、げ、と呟く。余程嫌みたいだ。
いまだに鳴り続ける着信音に、いいの?と問いかけても、いーの。とばかり言っている。
二分近く経ってから、ようやく着信音は消えた。
「いくらなんでもしつこいだろ!」
「確かに長かったね、よっぽど用事があったんじゃない?」
「ないね、用事なんて。絶対!」
そっぽ向く清雅を一瞥しながら、テーブルに置かれた携帯を見つめる。
確かに呼び出しとしては長すぎるが、留守電にしていないのだろうか?
「ねぇ、そういえばなんで留守電にしとかないの?」
「あぁ、留守電にしとくと今度はメッセージが残されるじゃんか、やだよ、声が残されるなんて」
「いっそのこと着信拒否にしたらいいじゃん」
「一回したら、部室のレギュラーの前で、言われたんだよ。そしたら赤也とか丸井先輩が可哀想だろ、着信拒否すんなよ!って大騒ぎ。あの女、『いーの、私、清雅くんに嫌われてるみたいだし』とか抜かして、真田先輩にたるんどる!って怒鳴られた」
「………………お疲れ」
「おう」
嫌そうな顔をする清雅に同情するしかない。何も他人の前でそんな事を言わなくてもいいだろう。
回りの人は、嫌われてるかもしれない。なんて言われたら、そんなことないよ。と言うしかない。
というか、本当に面倒な人なんだろうな、と考えてしまう。
散々聞かされていた内容は、女友達いないだろうね。と感想せざるおえない所業の数々。
夕焼けの中、清雅に手を振り、彼の後ろ姿を見つめる。
一瞬、此処が元の世界なんじゃないかと。でもそれは違うと実感する。
夕焼けに染まる彼の髪は、前とは違って反射し輝いているからだ。
(前は染めてたとはいえ、茶髪だったけど、今は…………)
有り得ないくらいの薄い色素の銀髪。
見知らぬ姿に涙が溢れそうになる。
それでも懐かしくて、目を細めた。
くるりと踵を返して家路へと向かう。
今は、彼処が私の帰る場所だ。清雅と同じように。
act.10
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