出会いたくなかった

テニスの王子様

「あなたね、マネージャーとして使えないったらないわ」

「テニス部の迷惑になるから早く止めたらどう?」

「そ、そんな、私は…」

「あなたのマネージャー業を今日まで見ていたけれど、あなたマネージャーって何をするのか分かっているの?」

「何って、ドリンクやタオルを用意して、みんなの応援を…」

「はぁ? 応援? あのねぇ応援するのは当たり前だけどね、マネージャーが練習中に応援なんてしてないで、仕事しなさいよ。だいたい、ドリンクなんて手渡しじゃなくてもいいでしょ」

「しかもレギュラーだけにとかなんて……あぁ、清雅くんにも手渡しみたいだけど? 他の部員にはしないの?」

とんでもない場面に遭遇してしまった。
裏庭の掃除当番は仕方ないが、用具片付けじゃんけんに負けた結果がこれだなんて、なんて運が悪いんだろう。
つか、どう見てもあれはテニス部マネージャーの、清雅が毛嫌いしている愛原先輩とやらではないか。
対する相手は三年の、あぁ、非公式ファンクラブの方々。
確か過激な方々ではなく、兄が言うには節度を守り、テニス部の邪魔にならないように応援している方だと言っていた。
それがこんな呼び出しをしているとは、びっくりだ。
それほど、愛原先輩が目に余るということなんだろうか。
さて、どうしよう。そこの用具室に用があるのに、どうしようもない。
誰か来てくれないかな?と思い、携帯を取り出す。が、誰にかける?
清雅? でも関わりたくないと言っていに呼ぶのは申し訳ない。
兄か? 喜んで来そうな気がするが、学校では極力会いたくない。
どうしよう、と悩んでいたら、バタバタと走ってくる足音が聞こえた。

「姫奈せんぱーい? どこっスかー?」

「あ、赤也くんっ…」

切原 赤也が探しているようだ。
愛原先輩はどこかホッとしている様だが、先輩方は意外にも落ち着いている。

「姫奈先輩? あ、いたいた…ってどうしたんスか?」

「赤也くん…」

愛原先輩はまるで助けられたヒロインの様に、切原赤也に駆け寄った。
それ故に、単純な彼は──

「アンタら、姫奈先輩になんかしたんスか?」

「あ、赤也くんっ! 私は大丈夫だからっ…」

「でも姫奈先輩、声が震えてるっスよ? なんかされたんじゃ」

茶番としか言いようがない。が、口を開いたのは先輩方だ。

「マネージャーを辞めなさいって言っただけよ」

「はぁ? なんでアンタらがそんなこと言うんスか?」

「その子はマネージャーに相応しくないから言っただけ。一度、自分の行動を省みることね。じゃあ」

「ちょっ、」

先輩たちは切原がなにかを言う前にさっさと歩いていってしまった。
なに、あれ、カッコいいなんて思ってしまう。
なるほど、兄が言っていたのはそういうことなのかと感心してしまう。

「なんだよ、あれ! 姫奈先輩、大丈夫スか? あんなの気にしなくてもいースからね、ほら、部活行きましょ」

「う、うん……」

愛原先輩はいってしまったファンクラブの方々を見つめながら、なんだか、腑に落ちない顔をしている。
確かにファンクラブであれば、切原に何か言われたら慌てそうなモノを気にもせず、言いたいことを言ってしまったのだから。
嫌われるなんてことは気にもしない姿に、こちらがびっくりしてしまう。
ようやく人がいなくなり、用具を片付けられる。
葵衣はホッと息を吐いて、用具室の扉を開け、道具を片付けた。
よし、帰るか、と振り向いたら、目の前に銀髪の男がいて、目を見開いた。

──仁王 雅治

清雅の兄であり、コート上の詐欺師と言われてる男。
なるほど、端正な顔をしている、銀髪が似合っているし、色気が半端ない。

「おまんも大変だったのう、あんなのに時間取られて。俺も昼寝を邪魔されたぜよ」

ニヤニヤと笑う姿に嫌な感じがする。
最初からいたのだろう、この男は。

「マネージャーにも困ったもんじゃが ファンクラブもなかなかやりおる。そう思わんか?」

「……だったら、あなたが出ていけば良かったじゃないですか」

「…………ほぅ。おまん、名前は?」

「…………なんでですか?」

ジリジリと近づいてくる仁王雅治に後退りをする。
なんだが、嫌だ。
そう思っていると、「兄貴!」聞き覚えのある声が聞こえた。

「キヨ、か」

「何してんだよ、副部長が探してたぞ」

「真田なんぞ放っときんしゃい「後、柳先輩と柳生先輩もな」」

清雅がそう言うと、仁王雅治は動きを止めた。頭を掻きながら口を開く。

「真田はともかく、参謀と柳生じゃあ、ちと面倒じゃのう………じゃあのう」

仁王雅治はこちらを見て、歩いて行った。清雅がこちらを見ているが、気にしなくていいと首を振った。
清雅が私を気にしたら、奴はすぐに感づいてしまいそうだからだ。
それを汲み取ったのか、清雅は仁王を追いかけていく。

去っていった姿を見て、大きく息を吐いた。
なんだか、嫌な予感がする。
それを振り払うように顔を横に振って、教室に戻り、急いで帰ることにした。

玄関まで行くと、靴箱に紙が入っていた。

『何があったか分かんないけど 夜に連絡する』

誰とは言わない。だが、直ぐに分かりホッとした。
心配してくれる気持ちがなんだか嬉しくて、紙を胸に当てる。

ありがとう、清雅。

心の中で、そう呟いた。



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