紹介なんてしません!
あの時以来、仁王 雅治には遭遇していない。
そもそも一学年、300人近くいる校内において、そうそう会えるもんでもない。そう思ったら、気が楽になった。
あの日の夜、清雅はすぐに電話をくれた。どうかしたのか、 アイツになんかされたのか!と訊いて来たが、大丈夫だと告げた。
ついでに愛原 姫奈についての事を話したら、ファンクラブ、ナイス!いいぞもっとやれ、とか言っていた。
本当に嫌いなんだな、というのが分かる。
まぁ、私に関わることではないし。
テニス部はいよいよ関東大会に向けて、朝練、放課後とますます激しさを増している。
清雅も疲れているのか、最近はメールだけになっているが、別に毎日連絡してくれなくても平気だと言えば「冷たい」と返された。
こちらはこちらで心配しているというのに。心外だな。
兄である柳 蓮二も参謀として、また三強の一人として、忙しいようだ。
「ただいま」
夕食も終わり、お風呂にでも入ろうと着替えを持って部屋から出れば、兄が帰宅した。
「おかえり、遅かったね?」
「あぁ、精市──部長の見舞いに行ってきたんだ」
「そうなんだ…お疲れ様。先にお風呂入る?」
なんだか本当に疲れて見える兄に向かって言えば、彼はこちらを見つめた。
「いや、お前が入ろうとしていたんじゃないのか?」
「そうだけど、疲れているなら先に入ったら? 私は後でもいいし」
兄は何か思案したのち、「では先に頂くとする」と言って、部屋に入っていった。
階下から母の声が聞こえた。
「葵衣ー? お風呂はー?」
「お兄ちゃんが先に入るってー」
「あら、そうなの? じゃあ、蓮二の夕食は後でいいのね」
「え「ああ、頼む」」
どうなんだろう?と思っていたら、いつの間にか隣に兄が立っていた。
「び、びっくりした…」
「驚かせたか? すまないな」
ふわ、と頭を軽く撫でられ、目を見開く。微かに笑っている。さっきは本当に疲れた顔をしていたのに。
じっと見つめていると、不思議に思ったのか、開眼した。なんでだ?
切れ長の眸は、冷たそうに見えてしまう。
「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。早くお風呂行ったら?」
「ああ、そうだな。なんなら久々に一緒に入るか」
「…………本当に疲れてるみたいだね、早く疲れを取ってきなよ」
フ、冗談だ。と呟いて、兄は階段を降りていった。本当に何を言っているんだろうか。
少しだけ動揺した、早まる胸の鼓動を押さえながら部屋へと戻る。
携帯を見れば、いつの間にか着信があったらしく点滅していた。
『 せーが 』
そう表示された画面をスライドして、リダイアルする。
聞き慣れた声が耳に届いた。
「どうした?」
「え? それはこっちの台詞。なに?」
「なんか、元気ないみたいだけど…」
「ん―、ちょっと驚かされただけ、気にしなくてもいいよ」
「そっか、あぁ、課題の事なんだけどさ、資料って──」
敢えて訊いてこない清雅にホッとしつつ、携帯を耳に当てながら、スクールバッグの中を漁る。
課題についてのメモがあるはずだ。
「──あ、そっちの資料か。通りでなんか変だと思った」
「もう課題始めるの? 〆切は夏休み明けでもいいっていってなかったっけ?」
「来週には関東大会はじまるし、夏休みは合宿やら全国大会もあるだろ」
「あ、そっか、忙しいんだね。お疲れ〜」
「お前がやったのを見せてくれてもいいんだぜ?」
「私より成績いい人が何言ってるのよ」
フフッと笑みが自然に溢れる。
──コンコン
不意にドアをノックする音が聞こえた。
「はいっ?!」
ガチャリとノブが回り、兄が部屋を覗き込んだ。
「風呂、空いたぞ」
「あ、ありがとう、じゃあ、入るよ」
兄にそう言ってから、背を向けた。
電車の向こう側にいる清雅に「ごめん、今からお風呂だから。うん…じゃあ、また明日ね」と伝えて切った。
やれやれと振り返れば、こちらをじっと見つめる兄の姿。
「ど、どうかした?」
「……相手は、男か?」
「はぁ? 違うよ、友達、友達だよ!」
彼氏か?と訊かれた訳じゃないのに、変な否定の仕方をしてしまった。
今の言い方じゃ、完全に相手が男だと言っているようなモノだ。墓穴を掘ってしまったが、勘違いも甚だしい。
「お前に彼氏が……今度会わ「違うから止めて!」」
何を言い出すのだ、こいつは。
頭が痛くなる。
しかし、この様子では、探してしまいそうだ、否、絶対調べるに決まっている。
葵衣は用意していた着替えと、念の為に携帯を持って部屋を出ることにした。
まさか、携帯弄るなんては思ってはいないけど、念の為。
ドアの所にはでかい兄がいて塞がれているが、タイミング良く、母が食事の準備が出来たと声を掛けてきた。
グッジョブ、お母さん!
「早くご飯食べたら? 私はお風呂に入るから」
兄を退かして、足早に浴室へと向かった。
背後で、兄が「彼氏が…」と呟いているとは知らずに。
act.12
-14-
DREAM HUNTER / top