知らないどこかで交わる

テニスの王子様

関東大会が始まった。と言っても私は観に行く予定はない。
今までだって兄のテニスの試合すら観に行った事がないのに、急に行ったらあの兄の事だ、勘違いしている私の彼氏(仮)がテニス部にいると思うであろう。
まぁ、電話の相手は清雅だから、テニス部で間違いないのだが、彼氏ではない。
『応援来ねえの?』とメールを寄越す清雅には悪いが、『ガンバレ!』としか送っていない。
あぁ、ついでという訳ではないが、稀にメールをする日吉くんにも送っておいた。
私が知っている展開ならば、負ける事を知っているだけに、なんだか白々しい気がしてしまうが……。
ぶっちゃけ、青学vs氷帝は見てみたい。だって、手塚vs跡部とか凄そうだし、氷帝コールも生で見たい!でも我慢、我慢。
清雅にムービーで撮って送ってくれるよう頼もう!
すかさず、メールに『青学戦(手塚vs跡部)を撮ってきて!』と認め、送信。楽しみだ!が、数分後に『観に来いよ』と返信が。
バカ!あの試合は、お兄ちゃんも観戦しているんだぞ!と返せば、『了解』と返事が来た。
良かった、分かってくれた。
ホッと一息を吐いて、葵衣は部屋を出た。

行き先は先程、母から呼ばれた茶室。
お祖母ちゃんもいるだろうけどね、お茶点てる言ってたし。
屈んで入れば、母も祖母も着物だ。
堅苦しくしないって言ってた癖に〜。

「あなたもたまには着物を着てみたら?」

「無茶言わないで、寛げないでしょ」

「まぁ、いいじゃない。葵衣、蓮二の応援には行かないの?」

「立海なら一回戦で負ける訳ないから大丈夫だよ」

「本当にあなたは……。百合子にはベッタリな癖に蓮二には冷たいんだから」

スッと茶碗を私の前に置いて、母は溜め息を吐いた。
それに手をつけ、作法に則り、口を着ける。
いつもの常套句を口にし、隣の祖母へと回す。
三世代女系で楽しむお茶会に、祖父は何処だ?と聞けば、ご近所の友人宅へ囲碁をしに行ったとか、ほのぼのしてるなぁ、お祖父ちゃん。

「でも今は、幸村くんが入院しているし、心配よね」

は〜と溜め息を吐きながら、お母さんは呟いた。
幸村くんは綺麗な顔立ちした子よね、なんてお祖母ちゃんまでが『神の子』について話している。
確かに、整った顔をしているよね、幸村先輩って。
まぁ、でも、お母さん、お祖母ちゃん、お兄ちゃんたちはメチャメチャ強いから、青学に当たるまでの決勝まではぶっちぎりの強さだよ。
なんて考えながら、お茶の時間を終えて、息を吐いた。

(良かった、私が跡取りじゃなくて……)

柳家は代々女系主流の茶道家元だ。
現在の家元は、お祖母ちゃん。何れは、お母さんが継ぎ、その次は長女であるお姉ちゃんだ。
ちなみにお父さんは入り婿であるが、特に気にせず会計士としてバリバリ働いている。
だからというか、比較的私は自由にさせてもらっている。
主な習いはあるものの決して厳しいものではない。
お姉ちゃんには悪いけどね。でも彼女は別に嫌がる訳でもなく、茶道というお茶が好きなのだから、天職なのかもしれない。

部屋に戻り、図書室から借りていた本を読んでいると、携帯が震えた。
差出人は清雅。
メールに添付されているムービーを見ると『氷帝!氷帝!』と騒がしい。だが、映ってるコートではテニスボールが見えない様な速さで打たれている。
そして──キラキラと煌めく金髪に目を見張った。

跡部だ! じゃあ、こっちは手塚だ!

コートを挟んで立つ眼鏡の男。やはり手塚である。

『俺様の美技に酔いな!』

ぶっ!! まさかの名セリフ!
清雅め、何て言うものを送ってきた!よくやった!

『思わず笑いそうになったけど、目の前で見ると本当に凄い試合だった。後、リョーマの試合も凄かった。』

メールの文字を読んだ後で、あぁ、日吉くんまけたかぁ…と天井を仰いだ。
知っていたけれど、何とも言えない気持ちになる。
氷帝と青学の試合で印象に残っているのは、部長の試合と日吉が泣いている姿だ。
だからこそ、言葉が出てこない。
文字をスクロールすれば、立海の対戦相手は食中毒になったとかで、棄権勝ち。
試合出来なくて、つまんねぇ。と書かれている文字を見て、現実に戻る。
あぁ、現実なんだっけ。
一瞬、本の世界にハマり過ぎて、世界観に呑まれた気分でいた。が、現実だ、現実。
そう考えたら不思議で堪らない。
ぐっと吐き気が込み上げてくる。手で口を覆いながら、鼻で息を吸った。
呑み込んだそれを、ふぅ、と胸で撫で下ろした。

「大丈夫、大丈夫…」

自分にそう言い聞かせてから、ベッドにゴロンと寝転ぶ。
もう本を読む気にはならなかったし、メールの返信もする気が起きなかった。
だが、メールを進めていくと、いつもの愚痴がある。

『あの女、なんだよ! 氷帝の跡部んトコ行って、なんか知らねえけど話していた。普通、試合中に行くかよ、本当、訳分かんねえ女!』

それを見て、「変なマネージャーだなぁ」と呟いた。
何故、他校へと、しかも試合中に行くのかさっぱり分からない。

葵衣は目を閉じた。
考えるのを止めようとしていた。
知っている世界。とうとう知っている時間が流れ始まる。
私の知らない所で交わり始まる。
私はどうなるんだろう…? 出来るならば、見守るだけでいい。
そんな事を思いながら、うとうとと意識を遠のかせた。









act.13


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