嫌いになりますよ?

テニスの王子様

関東大会、立海大附属は二回戦も余裕で勝ち、準決勝も余裕。残るは決勝だ。
初戦は1週間前だったが、今回も動画撮るか?と清雅に聞かれたが、特に覚えてはいないコトなので断った。

「試合どうだった?」

『ん? 柳先輩、ダブルスでで出てたぜ?』

「え、マジで?」

『おう。まぁ、シングルスの戦い方してたけどな』

「ふーん…まぁ、あの人元々はダブルスの方が得意みたいだけど?」

神奈川に越して来るまではダブルスの試合に出ていたはずだ。
あの青学の汁の人と。

『そうなのか?……ん、まぁ、柳先輩だしな』

「何よ、それ」

『しかし、今回の試合は赤也が色々ヤバかったな』

「切原くん?」

『あぁ。俺も何回も見たコトある訳じゃねぇんだけどさ……赤目になった』

「……え?」

何を言っているんだ?と思いながら、記憶を辿る。頭に浮かんだのは、赤目……悪魔化……。
あぁ…確かそんなのだった様な気がする。

「……悪魔化…ってヤツ?」

『おう、それそれ……というか、それの一歩手前のヤツだな。つか、よく覚えてたな』

「清雅に言われて思い出した」

電話の向こうで苦笑いをしているのだろう『そっか』と呟く声が耳に流れる。

『そういや、近々部長の見舞いに行くんだ』

「へぇ…練習終わってから?」

『いや、なんかその日コート整備が入るらしくて、部活休みなんだよ』

「そうなんだ。今度はちゃんと行かないとね」

『ああ。赤也にも言われたし、雅治や副部長にも言われたからな』

前は私との用事を優先してもらったから、今度は行ってもらわないとね。

「そういえば、マネージャー先輩とはどうよ?」

『どうよ?って言われても何もないし、むしろある方が嫌だね。まぁ、相変わらず、ロクに仕事しないで、コート脇でタオルかドリンク持ってるだけだ』

「…………仕事してんじゃないの?」

『バーカ、してないっつーの! ドリンクなんて絶対売ってるスポドリをボトルに入れてるだけだと思う』

「マジで?!」

アハハと声に出して笑うと、清雅はため息を吐きながら『笑い事じゃねぇから』と呟く。

「大変だね……」

『おぅ。……大変つーか、1年とかが結局ドリンク用意してるってどうかと思う』

後輩に同情する清雅に大変だな。と再び思いながら、あれ?と疑問が浮かぶ。
確か、1年生にも練習させたくてマネージャーになったのではなかったか?
そんな風に考えていると、コンコンとノックされると同時にドアが開いた。

「葵衣、風呂が空いたぞ」

「え? あ、うん…」

『葵衣? どうかしたか?』

急に兄がドアを開けたのに唖然としていると、電話の向こうから清雅の声がした。
途端に兄の眸が開く。いや、開いているとは普段から言っているけど、いつも閉じてる様にしか見えないのは事実。
その眸が開いている。じゃなくて!
私は慌てて、通話ボタンを押した。
…………声、聞こえただろうか…?

「…………今のは、電話を切っても良かったのか?」

「え、あ、うん。もう切るトコだったし、お風呂だっけ? ありがとう」

私はポケットに携帯をしまうと、そそくさとタンスへと足を向ける。
パジャマと着替えの用意をして、部屋から出ようとすれば、兄が立ち塞がっている。
あれ?なんかデジャヴ?

「あー、あの? お風呂行きたいので退いてもらってもいいですか?」

180cmもある兄を見上げるのはちょっと首が痛くなるのだが。

「……葵衣……」

「な…なに… ?」

「交際している相手がいるならば、会わせてもらえないか? この柳 蓮二、妹の相手を見定めたいのだが」

「……………こ、交際とかしてないから……友だち、ただの友だちだから!」

見定めてどうするんだ、お父さんじゃあるまいし。

「だが、お前は2年に上がってからやたらと電話の回数が増えているだろう」

「なんで知って?!……いや、別に………つか、数えてるの?!」

「お前の部屋に篭るのが増えたしな、前も同じようなことがあったからな」

フッと笑う所なんかは格好いいと思えるが、如何せん、怖いわ。

「ま、まぁ、そうだけどね」

「その様に頻繁に連絡を取り合うというのならば、特別な感情があるはずだ。たとえ、お前にその気がないとしても、相手は持っているだろう」

「そ、それはないと思うけど?」

兄の言ってる事に目を丸くするしかない。
清雅が私に特別な感情?!
……まぁ、なくはないだろう。私たちは同志なのだから。

「葵衣、よく聞け。男は狼だ」

前々から思っていたけど、この人は本当に何を言い出すのだろうか。

「…………」

「葵衣を油断させているに過ぎない。だからその様な不埒な輩は俺が見定めてやる。第一、お前は美人なんだ。俺は兄として、妹のお前を守らねばならない」

普段は閉じているのではないかという眸を、カッと開き訳の分からない事を言っている。
本気で、言っている。
…………怖すぎ、でしょ?

「……あ、あの、お兄ちゃん? 気持ちは嬉しいんだけど、…………引くんだけど?」

「葵衣」

「は、はい?!」

「心配しているんだ」

普段は耳に心地よい声音だが、はっきりいって、引く。ドン引きだ。
肩をガシッと掴まれ、じっとこちらを見つめてくる双眸に頬をひきつけながら「あ、ありがと…、ござい、ます?」と疑問系で答えてしまった。
兄はそれを良しとしなかったのだろう、大きなため息を吐いた。

「お前は本当に己を分かっていないな…」

「……いや、あの…」

「お前に男女交際は6年早い」

「っろ、…6年っ?! は? え? 二十歳まで待てって?!」

本当の本当に何を言っているのか、大丈夫なんだろうか?
だが兄は「当然だろう」とばかりにドヤ顔をしている。
つか、二十歳って…私の青春をなんだと思っているんだ……。
リアル過ぎる数字に頬がひきつる。

「……それはお断りします」

「何故だ?」

「何故って……私だって恋人とか欲しいし、青春を謳歌したい。学生の間に彼氏作るなって、灰色な青春じゃない!」

「……お前にはまだ早い」

「早くない」

「早い」

譲らないとばかりに見下ろしてくる兄に嫌気がさしてきた。

「…………」

「…………」

「……お兄ちゃんなんて、嫌い」

「なん、だと…?」

「私に彼氏が出来ようがなんだろうが、お兄ちゃんには関係ないっ! このまましつこく言うなら、もう口利かないんだから!!」

どいて!とお兄ちゃんを押して、私は廊下に出た。
タンタンタンと階段を駆け降りるとお母さんが立っていた。
喧嘩しているのが気になったらしいが、私と目が合うと微苦笑した。

「お風呂ゆっくり入ってらっしゃい」

「…………はい」

「葵衣っ!」

二階からお兄ちゃんが叫んでいるが無視だ、無視。
お母さんがため息を吐きながら「蓮二、下に降りて来なさい」とやたら落ち着いた声で呼ぶ。
この口調はお説教とまではいかないが、何かたしなめられる時の声音だ。
せいぜい注意されればいい!





────ちゃぽん……

持ち込んだ携帯を弄り、清雅に詫びのメールを送った。
口元まで湯に沈みながらいると、兄の言葉を思い出す。

『お前にはまだ早い』

二十歳までなんて、無理だった。
前世(?)でだって、恋人はいなかったからだ。
だからこそ、今は恋人欲しい。
二度目の世界では青春を謳歌したいのだった。





To be Continued


蓮二様が御乱心です。
すみませんでした、シスコンですわ。


2014/10/01


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