街角ですれ違う
「ねぇ、ちょっと」
「はい?」
学校からの寄り道中に声を掛けられ、振り向いた私は瞳を見開いた。
なんで、王子様が神奈川にいるんだい?
「この店の場所、教えてくんない?」
「え……あ、はい…」
白い帽子を被り、青を基調としたジャージに大きなテニスバッグ。そして、生意気そうな瞳。───越前 リョーマだ。
差し出された地図を目にしながら
(あぁ、この店はこの先にある所だ)
なんて思いながら、ものすごく汗をかいている彼を見つめる。
もしかして……東京から走ってきた、とか?
いや、ないない。走ってくるとか、ないよね?ここ、神奈川だし。
…………あれ、原作でなかったっけ、コレ。
一旦、帽子を外し、額の汗を拭う彼を見ながら、道の説明をする。
「なんだ、すぐそこなんじゃん」
「うん……そうだね」
「じゃ、どーも」
「あ、待って!」
思わず声を掛けてしまった。
リョーマが訝しげに見てくるが、私はスクールバッグを漁った。
「これ、良かったら」
差し出したのは試供品として配られていた新商品のドリンクだ。
「そんなに冷えてないけど、良かったら貰って? 汗、凄いし」
こめかみからつぅーっと流れる汗を指差しながら言うと、リョーマは少しそっぽ向いた。
あ、お節介だったか……。いらないと思い、差し出したドリンクを下げるとグッと掴まれた。
「いらないとかいってない…………じゃあ」
「うん、ごめんね、引き止めて」
「別にいいよ。ありがと、おねーさん」
「どういたしまして」
お礼を言って、駆け出していったリョーマを見送りながら、私は手で顔を覆った。
(…………なんだ、あれ…可愛すぎるでしょ?!)
おねーさん、って……おねーさんって呼んだよ?!私の事!!
どうしよ、なんだが、顔がニヤけそうで怖い!
清雅に連絡する?
思わず、携帯を取り出すが、ダメだ!今、清雅はお兄ちゃんたちと部長の見舞いに行ってるはず。
この前の事があるから、下手に電話しないようにしてたけど……って、待って?!
葵衣はハッとしたように顔を上げた。
リョーマが神奈川にいる。
お兄ちゃんたちが部長の見舞いに行ってる。
もしかして、今日は、リョーマの無我の境地が覚醒する日?
(……ちょ、ちょっと…見たい……)
でも…そうなると、後からお兄ちゃんたちと会うことになる。切原は勿論。
うーん…と頭を悩ませてしまう。
リョーマの後を付いてってみようか……それじゃストーカーだ。
スポーツショップに用があるみたいだし、切原との野試合まで時間がありすぎる。
…………待てる訳がない。清雅に連絡しよう。
◇◇◇◇◇
チカチカとメールの受信ランプに気づき、俺はメールを読んで声を上げた。
「はぁ?!」
「清雅くん、どうかしましたか?」
「あ、いや……なんでもないです」
「そうですか。なら良いですが」
俺の声を拾った柳生先輩が眼鏡のブリッジを上げながらこちらを見てきたが、何でもないと言って顔を逸らした。
『リョーマくんに会っちゃった。
多分、切原と野試合するんじゃないかな?』
多分これには『報告ヨロシクー』という意味も含まれているはずだ。
そういえば、赤也とジャッカル先輩はこの場にはいない。
原作を思い出そうとして、携帯を片手にしていると、あの女が話しかけてきた。
「清雅くん、どうかしたの?」
わざとなのか、首を傾げて上目遣いで見てくるマネージャーに若干イラッとしながら、直ぐ様返答した。
「別に、なんでもないっスよ?」
「そ、そう?……何か悩み事があるなら相談にのるから」
なんでも言ってね。なんて笑顔を向けてくるこの女に内心(なんでお前に相談すんだよ)とか笑いそうになると、今度は丸井先輩が話しかけてきた。
「姫奈は相変わらず優しいなぁ〜」
「え、やだな、ブン太ったら。そんなことないよ〜」
「あるって。あ、幸村くんへの差し入れ、今日はケーキにしようぜぃ」
「今日はっていつもじゃろう、丸井」
「幸村くんにっていうより、ブン太の方が食べちゃうんだろうね」
そんな会話をスルーしながら、考えた。赤也たちは、というより赤也が補習を受けるから別行動だったはず。
ジャッカル先輩はお目付け役だが、多分制御は出来ないだろう。
部長には悪いけど、あっちに合流するか。
「副部長」
「清雅か、どうした?」
ゾロゾロと先を歩いている真田副部長に話しかけた。
「俺、赤也とジャッカル先輩連れてきます」
「? アイツらなら後から来るはずだが」
「ジャッカル先輩だけなら大丈夫でしょうけど、赤也だと寄り道しそうですし…」
正確には草試合をするはずだ。
「確かに、赤也ならやりそうじゃな」
「だろ? だから掴まえてきます」
「ジャッカルがいるとはいえ、赤也ならそのまま遊びに行きそうではあるな。弦一郎、ここは清雅に任せてみてはどうだ?」
雅治の同意と柳先輩の後押しもあり、真田副部長は中学生とは思えない顔をしたまま、ため息を吐いた。
「ではお願いするとしよう。頼んだぞ」
「了解です」
敬礼する様に手を挙げると、厄介な声が入ってきた。
「清雅くん、赤也くんたちを迎えに行くの? 私も行こうか?」
「いやいや、マネージャーは先輩方と待ってて下さいって」
「でも後でみんなでテニスコートに行くんだし」
「何言ってんだよぃ。みんなで行くのは幸村くんの病院だろぃ?」
「赤也たちも連れて行くんで、じゃ」
付いて来られるのもイヤなんで、テニスバッグを肩にかけ直して、予想すべき場所へと足を向けた。
この時、俺は気づかなかった。あの女が何を言ったのか。
To be Continued
act.15
2014/10/23
-17-
DREAM HUNTER / top