不変の未来
先輩たちから抜け出して、暫く歩いてから携帯を弄り、よく掛ける相手を呼び出した。
何回かのコールの後、聞き馴染んだ声が耳に入る。
『せーが?』
さっきまでの馴れ馴れしく、媚びた声が残っていたせいか、彼女の声音に自然と顔が緩んだのは気のせいじゃないだろう。
「葵衣、今どこだよ?」
『え? あぁ、家に帰ろうとしてたけど?』
「お……っまえ、そこはリョーマのトコにいる所だろ!?」
『え─…』
「え─…って…。とりあえず合流しようぜ」
『やだよ。会ってどうすんの?』
「どうするって……お前、見たいんだろ? 無我の境地」
『ん〜〜…。ねぇ、聞きたかったんだけどさ、清雅は、どうするつもりなの?』
さっきのどうする、ではないことには声音で分かった。
歩きながら話してた俺は、路地へと入り壁に背をつけた。ひんやりとするのがシャツを通して感じる。
「どうするつもり、って、これからの事か?」
『理解ってて言ってるでしょ?』
「赤也とリョーマの試合じゃなくて、これから、原作のことだろ」
『うん………。私は未だしも清雅はテニス部に入ってるじゃない? この先のコトを見守るの?……変えてしまうの?』
不安そうな声に、抱きしめてやりたくなったが、傍にいないから出来ずにいる。
原作の世界をそのままにするのか。
それとも、変えてしまうのか。
どちらにせよ、俺や葵衣という存在は『テニスの王子様』の中にはいなかった。
だけど、話は、この世界は、俺という存在がテニス部にいても変わらずに進んでいる。
幸村部長が倒れてしまったことも、今の青学に手塚がいなくなっているのも、変わらずにある。
それにイレギュラーな存在ならば、もう1つ。マネージャーの存在。
愛原 姫奈
なんとなく、彼女の存在は恐ろしいと思う。
“話”は変わらずにそのままに進むのだろうが、イヤな予感はなんとなく拭えない。
立海は強い。県大会はどこの学校も相手にならない。
関東大会だって、準決勝の不動峰戦でも苦戦などせずにストレート勝ちをした。
だが、去年までの練習の辛さが違うと感じる。慣れたからか、体力が付いたからか。それとも…………練習量が減った──?
『────雅? 清雅?』
聞こえた声にハッとする。
『ちょっと、大丈夫?』
「葵衣……」
『ん?』
「この“世界”はきっと俺たちがどうこうしようと変わらない」
『え…?』
「きっと、変わらない。変わることはない」
『……清雅…』
葵衣が不安になる気持ちは解る。
俺たちにとっては『漫画』の世界なのだから。知っているだけに厄介なんだ。
世界が変わるのが怖い、変えてしまうのが怖い。どうなるかが分からないから、自分たちが。
けれど。
悔しいけど、三日後の関東大会決勝は青学が優勝するのだろう。
知っている。それが立海のみんなを裏切っているような罪悪感
清雅の瞳が寂しげにビルの隙間から見える空を見上げた。
(あぁ、遠いな……)
耳元には愛しい声が聞こえる。
会いたい、と思いながら、彼女を安心させる為に、いつもの口調で話しかけると心配された。
軽口を叩くと、唇を尖らせているだろう不満げな声がした。
その後、葵衣がリョーマに『おねーさん』と呼ばれたとかでやたら興奮している事に笑うしかなかった。
「何、興奮してんだよ」
『だって、おねーさんなんて呼ばれるなんて思わないじゃない? ああいう弟、欲しかった…』
「お前、参謀が聞いたら泣くぞ?」
『やめて、怖いから。あ、どう? お兄ちゃんにバレてない?』
「んー、大丈夫だと思う」
柳先輩の事を思い浮かべるが、別段変わりはない。
そう伝えると、葵衣が『ならいいんだけど』『やたら妙な年数言うし』とか言ってる。6年ってなんだ?
『じゃあ、また明日ね』
「おう、またな」
電話を切り、俺は路地から出て赤也に連絡を取る。
病院へ向かう途中らしい、合流する為に川沿いの階段で落ち合うことにした。
後にそこでリョーマに会い、結局野試合を回避出来なく、俺は柳先輩に連絡しなくてはいけなくなった。
止めようとしたことと、連絡したせいか、赤也とジャッカル先輩が裏拳を喰らっていたが、俺は回避出来たのはラッキーという所だろうか。
つか、マジで無我の境地は凄かった。
──後日、関東大会は結果的には、葵衣と清雅が知っている形だった。
しかし、青学戦、シングルス2 天才・不二 周助の相手は切原 赤也、ではなく、『コート上の詐欺師』と渾名されている仁王 雅治の弟、仁王 清雅だった。
To be Continued
act.16
2014/10/23
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