交際宣言
「葵衣っ!」
声の主の形相に私は驚愕した。
その表情は、いまだかつて見たことがなかったからだ。
ギュッと抱きしめていた腕も、今は力が弱まっている。
彼も私同様、同じ方向を向いているのだ、同じ様に驚いている。
ツカツカと歩いてくる足音が聞こえ、彼が近寄ると、まだ私の腰に回されていた清雅の腕を兄は叩いた。
「いつまでくっついている」
聞いた事がないような冷たい声音に、思わず身体が震えた。だからだろうか、清雅の腕が再び私を抱き込んだ。
「…………清雅…葵衣から離れろ」
「……柳先輩、その怒りを治めて下さいよ。葵衣が怖がっている」
確かに恐い。恐いけど、それは言うべき事じゃないから、清雅!
私がそう訴えようと顔を向けると、再び清雅の腕を叩いた。
「いいから、葵衣から離れろ」
「……」
「……」
「……分かりました」
パッと腕を離した清雅はパチンと片目を閉じた。
それにポカンとしていると、ぐいっと腕を引っ張られた。
見ればお兄ちゃんの手が私を掴んで、引っ張っていく。
「お、お兄ちゃん?!」
「お前は部活が終わるまで待っていろ」
「は?」
「いいから待っていろ」
長い足で歩くもんだから、私は小走りになっているのが気がつかないのか、お兄ちゃんはぐいぐいと引っ張ったまま、再びテニスコートへと戻ってきてしまった。
後ろを振り返ると、清雅は頭の後ろで手を組んで歩いている。
さっきまでの切な気な態度はどこに消えたのか、飄々としていて、憎たらしくなった。
周りを見れば、切原や真田先輩、他の部員が何事だと言わんばかりにこちらを見ている。あのマネージャーもだ。
驚いているのか、目を見開いていた。
「ど、どうなされたんですか、柳くん? そちらの女性はいったい…」
慌てたように聞いてきた柳生先輩にお兄ちゃんは一言「妹だ」と告げる。
途端に柳生先輩も丸井先輩たちも驚きの声をあげた。
「「「妹っ?!」」」
「柳、お前、妹なんていたのか?」
「ああ、言ってなかったか?」
「いや、聞いてねぇし。真田は知ってたのか?」
「い、いや…初耳だ」
真田も知らなかったのかよ?!と言わんばかりに部員たちは驚いている。
そのなかでもマネージャーは誰よりも驚いていた。
(蓮二に妹?!そんなのいなかったはず!)
だが、マネージャーの視界には妹?の手を繋ぎ、部室の方へと歩いていく彼の姿がある。と同時にそれを追うかの様に歩いている、仁王 清雅の姿が目に入った。
柳の妹もそうだが、仁王 雅治の弟がテニス部にいるのは知らなかった。
「ちょ、せー、じゃなかった、仁王くん!なんとかしてよ!」
そう叫ぶと、ピタリと柳が歩くのを止めた。何事だと思っていた真田たちは既にコートから出て、部室近くまで来ていた。
「清雅……やはり、お前と葵衣は交際しているのか」
「…………は?」
ゆらり、と柳は振り向くといつも閉じている眸がこれまでにないほど、開いていた。
「れ、蓮二? 一体、どうしたのだ?」
「どうしたのだ、だと?」
無謀にも柳に話しかける真田に誰もが、流石真田だな、と憐れむ。
柳の怒りを感じ取っているだろうに、柳が腕を掴んでいる女生徒を見やる。
それに気づいたのか、柳は清雅に目を向けた。
「清雅が葵衣に手を出していたのだ、兄として許せるとでも?」
冷ややかな声音に真田はビクッと身体を揺らした。
が、柳の発言によって、視線は清雅に集まる。
「…………え、」
「ちょ、なに言っているのよ!お兄ちゃん!」
「では、何故抱き合っていたんだ? 説明しろ」
「……そ、それは…」
ちらりと清雅を窺う。
言える訳がない、多少なりと違う事柄が起きていて不安になっているなんて。
どうとも言えずにいると、ぐいっと肩を抱かれた。見れば清雅の手だった。
「は、破廉恥なっ!」と声がしたが、無視だ。というか声がでかかったせいか、お兄ちゃんから「煩い」と言われている。
頑張れ、真田先輩。
「俺たち、付き合っているんです。さっきのは、昨日、俺が負けた、から、慰めてもらっていただけですよ」
「ちょ、なに言って「とりあえず合わせろ」」
小声でボソリと呟く清雅を信じることにした。
「………………えと、そー、なんです……」
嘘とはいえ、いきなりの展開に葵衣は誰とも顔を合わせられなくなってきた。恥ずかしいじゃないか、彼氏とか彼女とかなんて。
というか、こんなありきたりな合わせ方で、お兄ちゃんを騙せる訳ないじゃん。なんて思っている。
だが、次の瞬間、反対の掴まれていた腕の圧迫がなくなったと思えば、あの兄が、あの柳 蓮二が、地面に膝をつけていた。
「……清雅……貴、様…」
「お、お兄ちゃん……?」
「や、柳、先輩…?」
「……俺は認めないぞ!」
えー、信じた?!と顔を見合わせる葵衣と清雅を見て、「お前ら離れろ」と静かに言っている。が、まだ膝は地面につけたままだ。
そう叫ぶ柳に部員たちは((((…………シスコン…))))と思うしかなかった。
ただ、ほんの数名だけが、面白そうに笑みを浮かべ見ていたり、ギリギリと拳を握りながら彼らを見つめていたりしていたのに、葵衣たちは気づかなかった。
act.18
To be Continued
2014/12/01
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