秘めた本音の欠片

テニスの王子様

休み時間だけならまだしも授業中もヒソヒソと囁かれるとは何事だね?
最早、逃避したいです。
何故ならば、今の時間は自習。先生が出張とかで。臨時の先生が来たが、暫くすると来客とかで課題のプリントを置いてさっさと行ってしまった。
黒板には気休めに「静かに!」の文字があるが、自習時間にそれは無理がある。監督の先生はキチッとつけるべきだろう。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………ねえ、さっきからなんで私の髪を弄ってるの?」

ふふ〜ん、と鼻歌交じりをする清雅に問いかける。自習で先生が居なくなった途端、隣の人を退かし、椅子を近づけたかと思えば、ヤツは突然人の髪を弄り始めたのだ。

なにが、したい?

昨日から突如おかしくなった清雅を多少心配しながら、昨日の件と今朝の件についてはまだ許せてはいない。

(あの後、帰れば帰ったでお兄ちゃんはやたらネチネチと煩かったし)

説教を思い出し、耳を塞げば、くいっとその手を取られた。

「葵衣にくっついていたいんだ」

囁かれた言葉にゾワッ!と寒気が走るが、聞こえたクラスメイトはきゃああぁぁ!と悲鳴をあげていた。
が、葵衣はそんな甘い言葉に臆する事なく、「暑いから止めて」とあっさり返した。

「ちょっと、葵衣〜!」

「なんだね?」

「なんだね、じゃないわよ! 仁王くんにそんな事言ってもらってんのに、その態度は何よ! 羨ましい、そこ代われ!」

「そうよ、羨ましい!」

「代われ!ついでにうちの兄貴と柳先輩交換しろ!」

「仁王くん、私の髪も弄っていいよ」

クラスメイトたちは席に群がり、ぎゃいぎゃいと話す。がそれを宥めるより先に、未だに人の髪を弄る清雅が声を掛けた。

「悪いけど、葵衣にしか囁かないから残念だったな」

「やーん、仁王くんに私も言われたーい!」

「清雅くん、私にも言ってぇぇ!」

「他人に溺れる清雅くんも格好いい〜!」

きゃわきゃわしているのを横目に、黙々とプリントをこなしていると、反対側の席に座るクラスメイトが声を掛けてきた。

「ねぇ、柳さん。ここ分かる?俺、ちょっと分からなくて…」

「ああ、これは……「ストップ!俺が教えてやるよ」ちょっ、せ、仁王くん!」

「………葵衣、仁王じゃなく清雅だよ、いつものように呼べよ」

こんな状態でもきちんと課題に取り組む佐崎くんにホッとしながら、質問に答えようとすれば後ろから肩を掴まれた。言わずとも清雅だ。
仁王と呼べば、顔を両手で掴まれた。そして、この台詞である。本当にどうした、お前?
ふと、思い当たり清雅の額に触れた。
端から見れば、イチャイチャカップルなんだろうが由々しき事態だ。
ハァ、とため息を吐いて清雅の腕を掴み立ち上がった。

「葵衣…?」

「委員長、せ、仁王くんを保健室連れていくね」

「葵衣?」

「熱あるでしょ?気づかないなんてバカじゃないの?!」

「え、清雅くん、熱あるのー?」

「大丈夫ー? 仁王くん」

「え〜、心配〜。私らも行こうか〜?」

「保健室連れてくのは柳さんと、後、切原」

「は? なんで俺?!」

「仁王と同じ部活だろ、付いてけよ」

「マジかよ」

「ああ、そうしたら仁王の課題写してたの黙っといてやるよ」

「げっ、見てたのかよ」

「お前が英語のプリント終わってる訳ねーだろ!」

「ったく!しゃーねーな…」

委員長にそんな事を言われ、ぶちぶちと切原が近づいて来たが、清雅は「俺は熱なんてない」と一点張りだ。
だけど切原も清雅がおかしいと思ったのだろう、「いいから行くぞ」と教室から出る事にした。


   ◇◇◇◇◇


「センセー、いねーじゃん」

保健室に着いたが保健医がいないとか、どういうことだ。

「あー、私職員室に行ってくるから二人とも待っててくれる?」

「葵衣じゃなくて赤也行ってこいよ」

「はぁ? なんでだよ? わざわざここまで着いて来たってのに職員室まで行かせる気かよ」

「ああ」

見事な傍若無人っぷりだ。

「いいから、私が行くから待ってろ!」

ガキ共!と睨み付けて、扉を開けようとしたらそこに人がいて葵衣はヒッ!と声を上げそうになった。

「あっれー? 姫奈先輩じゃないっスか! どうしたんスか? 怪我でも?!」

「あ、赤也くんに清雅くん…それに、蓮二の妹さん…」

思いがけない人の登場にびっくりするしかなかった。

「あ、でも、もしかして先生、いないの?」

室内を見て、問いかけてくるのに葵衣は頷いた。

「はい。だから呼びに行こうかと…」

「そうなの? でも私が行こうか?」

「大丈夫です、私は何ともないですから「俺も行く」は?」

遮られて見れば、清雅がこちらに近づいてきた。

「アンタが来てどうすんのよ、いいから待ってなさいって「いいから行くぞ」」

グイッと腕を掴まれ、「清雅くん」と呼ぶ先輩の問い掛けに振り向く事もなく清雅は歩き出した。

「ちょ、ちょっと! 清雅、清雅ってば!」

グイグイと若干早歩きになっている彼を葵衣は追い掛けるようにしている。

「ちょっと!早いってば!」

大きな声で伝えれば、ようやくピタリて歩みを止めた。
背中にぼすっとぶつかれば鼻が痛い。

「ごめん、葵衣……」

「どうしたの? 今日は本当に?」

しょんぼりとした清雅を見上げる様に覗き込むと、疲れきった顔をしている。
そっと頬に手を伸ばすと、手を握られて身体を引き寄せられた。

「……………怖いんだ…」

ボソリと呟かれたそれに、葵衣は顔を上げた。
何が怖いのかは、分かってしまった。
それは、以前言っていた事なんだと。

「………清雅…」

前に慰めて貰った時とは正反対だ。
前は、葵衣が不安がっていたのを清雅が電話で慰めた。
だが、今は、葵衣が清雅を慰める。前とは違い触れられる距離で。
昨日同様、葵衣は清雅を抱きしめた。




To be Continued

act.20
2015/01/26


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