お弁当タイム
マネージャー先輩からの視線を避け、観念して昼食を取ろうと清雅の隣に座ったせいで、お兄ちゃんからの見えない視線が痛い。
「おっ、柳妹の弁当旨そうだな、ひとつくれよぃ」
「…………お兄ちゃんから貰って下さい」
「柳はくれねぇんだよ!」
「…………そうですか。残念でしたね」
だからといってお弁当をあげるつもりはない。
そうしていると、 愛原 姫奈がお弁当を見せるようにして彼に話しかけた。
「ほ、ほら、ブン太。私ので良かったら何でも好きなの取っていいよ」
「マジかよ! やっぱ姫奈は優しいよな〜。お、旨ぇ!」
「そ、そんなことないよ。いっぱい作りすぎちゃって良かったらもっと食べていいよ」
「お、俺も! 俺も欲しいっス!」
「私も頂きたいですね」
「俺もぜよ」
「俺も食べたいぜ」
みんながみんなマネージャーのお弁当に箸を付けている。
お兄ちゃんと真田先輩はそれを眺めているが、絶対真田先輩も欲しいんだと思う。だってそわそわしてるし。
清雅はスルーして、黙々とお弁当を食べている。
「良かったら、蓮二も弦一郎も、清雅くんも食べてみて。あ、もちろん蓮二の妹さんも」
にっこり笑って、ずいっとお弁当を寄せてくる。
あんなにみんながみんな食べていたのにあるのか、とお弁当箱を見ればやたらと大きい。
ファミリー用のお弁当箱かよ?と聞きたくなる。
真田先輩は嬉々としてお弁当のおかずを頂いているが、兄は相変わらず表情が分からない感じで食べている。
清雅は……「充分です」と言って首を横に振っている。私も「自分のお弁当だけでいっぱいですから」と断った。
「遠慮しないでいいのに。蓮二は?」
「俺もこれだけで充分だ。すまないな、愛原」
「んじゃ、俺が代わりに貰うぜぃ」
「もう、ブン太ったら食べ過ぎだよ〜」
丸井先輩がマネージャー先輩のお弁当をまたつまみ、よく分からないやりとりをしている。
私と言えば、この異空間のような場所から一刻も早く去りたいので黙々と食べている。
あ、お茶持ってきてない。
食べていて、飲みたいと思ったのだかいきなり連れて来られたせいか、お茶の事をすっかり忘れていた。
しかし、これはチャンスだ!
お茶が欲しいから、といってここから去る事が出来る。ならば苦しいけどお弁当を食べてしまおう。
「葵衣、お茶ならあるぞ」
「…………へ?」
黙々と食べていれば、お兄ちゃんがペットボトルのお茶を差し出してきた。
「お前の事だ。いつも買いに行くのだろう? 先に買っておいた」
「………………あ、りがとうございます…」
「フ、気にするな」
逃げようと思っていた矢先にこれだ。
気にするなだと?気にするよ!なんでここに留まらなくてはならな……ん?別に食べたら戻ったって良くない?そうだよ、食べ終わればいいんだよ!
葵衣は悟られないように、黙々と、だがいつもより早く食べているとまた誰かが余計な事を口にした。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね、柳くんの妹さん」
見れば、見えない眼鏡を光らせながらこちらを向いているムスじゃなくて紳士がいた。
「はぁ…」と呟けば、口元が上がったのを見て笑ったんだと思う。多分。
「私は三年A組の柳生 比呂士です。よろしくお願いいたします」
「…………2年D組の柳 葵衣です。兄がいつもお世話になっております」
よろしくはしたくないので、名前を告げ、深々と頭を下げた。
「流石、柳くんの妹さんといったところでしょうか。とても所作が美しいですね」
「ああ、葵衣は幼少の頃から祖母や母達から礼儀作法を身に付けさせられているからな」
「なるほど。確か、柳くんのお宅は茶道を嗜んでいらっしゃいましたね」
「ああ、茶道を継ぐのは姉だが、俺と葵衣も基本的には出来るようにと躾られたな。まぁ、葵衣は逃げてばかりだった気がするが」
チラリと切れ長の眸がこちらを見て、とりあえず口元に手を当てて笑って誤魔化した。
逃げ出したのは二回しかないのに、やめて欲しい。
そこに割って入ってきたのはあのマネージャー先輩だ。
「あ、私も自己紹介するね。テニス部マネージャーの愛原 姫奈です。よろしくね、葵衣ちゃん」
「あ、次はオレオレ。ご存知天才の丸井ブン太だ!シクヨロ!」
「俺は三年F組のジャッカル桑原だ。よろしくな」
「俺は清雅の兄、仁王 雅治ぜよ。将来義兄になるかもしれんな、よろしくぜよ」
「義兄になぞならん」
「ククク、参謀とも親戚になるかもしれんな」
「まあまあ、落ち着いて下さいよ、柳先輩。ご存知、俺は切原 赤也だ!」
「赤也は同じクラスなのであろう。俺は真田 弦一郎だ。よろしく頼む」
「………………よろしくお願いいたします」
力強い真田先輩からも自己紹介をされてしまった。
よろしくしたくないが、仕方なく頭を下げた。
「しかし、蓮二に妹御がいるとは知らなかったな」
「真田くんもご存知なかったとは驚きですね。では幸村くんは?」
「精市も会ったことはないな」
「参謀、上手に隠してたんじゃのう」
「そういう訳ではない。たまたまそんな話題にならなかったからだろう」
しみじみといった風に真田先輩がこちらを真っ直ぐ見てくる。ちょっと暑苦しいのは気のせいだろうか?
というか、止めて。私の話題はしなくていいから。
「私もびっくりしちゃった。蓮二に妹がいたなんて知らなかったから」
「姉もいるがな」
「蓮二のお姉さんは和服が似合いそうなイメージがあるなぁ〜」
「まぁ、仕事柄和服が多いだろうな」
「ウチの姉ちゃんと替えてもらいたいっス」
ワイワイと兄弟、姉妹の話を聞きながらいるとくいくいと制服を引っ張られた。
「あ、の……私、図書室に用事があるので失礼します」
「図書室に何かあるのか?」
「借りてた本を返さないといけないから。では失礼します」
兄の問いかけに応え、お弁当を持って頭を下げた。
すると傍らの清雅も腰を上げた。
「俺もそろそろ戻ります」
「清雅、また葵衣に付いて行くのではないだろうな」
ジロリと一瞥してくる兄に清雅は肩を竦めた。
「違いますよ。準備当番なんで行かないとダメなんです。な、赤也?」
「んぁ?次、なんだっけ?」
「歴史。当番は資料室から地図取ってこないと駄目なんだろ」
「あー、そうだったな。そーっス!清雅の奴、当番なんスよ」
切原が事実を言うと、兄は「ならいいが」と呟いた。
みんなこちらを見ていたが、視線1つだけが違っていて、気持ち悪かった。
To be Continued
act.23
2015/04/27
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