予期せぬ恋愛事情

テニスの王子様

ぎぃ、と椅子が軋む音を立てたのは背凭れに体重を掛けたからだ。
部屋で学校から出された宿題を終わらせ、背伸びをした。
2回目となった中学生活は勉強にはついていけるし、若干余裕はあるが、何せ進学校でもある立海大附属は勉強もなかなか難しいのである。
いくら前世で高校生だったからといっても、ブランクが14年もあれば覚えていない方が多い。
だからこそ復習も予習もすることにしている。
まぁ、姉も兄もそんなところはきちんとするみたいで、そんな姿を見れば自分だけしない訳にもいかない気がして自然と身についた、といってもいい。
夏休みはもう目の前だ。
私や清雅が知る未来はこの夏休みで終わるのを知っている。そこから先は?どうなっているかは知らない。
先があるのか、ないのか、知らない未知の話になる。
ぎぃ、とまた椅子が軋んだ。
しかし、イレギュラーな事が起きている。
私も清雅も知らない人物が現れ(自分たちを含む)、知らない結果をもたらしている。(それでも主人校優勝は変わらない)
愛原 姫奈。彼女は誰なんだろうか?
あの憎むような眼はなんだったのだろう。
屋上でのお弁当タイムも何回か無理矢理連れていかれている。私の意見を無視するのもどうなんだ、と問いたいがあの理屈と屁理屈を言いまくる兄に勝てるはずもなく、たまに清雅と切原に屋上に連行されている。
そしてお弁当を一緒に取らせてもらっているのだが、何度か冷たい視線を感じている。主に愛原姫奈とか、愛原姫奈とか、愛原姫奈からとか!
要は愛原姫奈にとって私は邪魔なのは分かる。まぁ、自分も最初に素っ気なくしたからかもしれないが私の存在はないようにしている。
私からすれば全然構わないのだが、私が立ち上がると一緒に清雅も立ち上がるから睨んでくるのだ。
鋭い兄や仁王先輩辺りは気づいているだろう、だからか、兄は清雅が一緒に屋上から出ていく事に文句は然程言わなくなった。然程。
色々思案していると、部屋の扉がノックされた。

「葵衣、風呂が空いたそうだ。先に入るか?」

「んー、お兄ちゃん先にどうぞ。今日も部活だったんでしょ」

「いいのか?」

「いいよ、後でも」

「そうか、なら先に入らせてもらう」

「はーい。…………なに?」

扉が閉まる気配もなく、再度扉を見れば兄がこちらを見ていた。

「お前は姫奈に……いや、なんでもない」

「…………」


扉がパタンと閉められてしまったた。
姫奈に?
一体何を聞きたかったのだろうか?
むしろ、こちらが訊きたいくらいだ。毎回あんな視線を向けられて気づかない程、私はバカではない。
まぁ、明後日から夏休みだ。
彼女に会う事もないだろうし、気にするのも時間のムダだ。
聞き慣れたメロディが耳に入り、机に置いておいた携帯が震える。
誰だろうとメールを開けば、思いがけない相手からに目を丸くしたのだった。


◇◇◇◇◇◇


夏休みに入り、いつにも増して陽射しが熱い。
しっかりと紫外線対策をし、東京へと出てきた。
数日前のメールは意外にも日吉くんからであった。
一体何の用なのかと問えば、鳳くんが関係しているらしい。なんなんだ?
待ち合わせの駅で待っていれば、足音が聞こえてきた。なんだろうかとそちらに目を向ければ、日吉くんが走っている。
は?
何?何なの?と驚愕していると、目が合った。

「柳、走れ!」

「は? な、なに?」

「ごちゃごちゃ言うな! 走れ!」

あっという間に目の前に来た日吉くんは、腕を掴んだ。結構痛い。
力強く腕を引っ張られて足も動き出す。
背後から声が聞こえるが、振り向いてはいけない気がして必死で日吉くんに着いていく。
人混みに紛れながら走ったせいか、なんとか背後の人たちを撒けたようだが、一体なんなのか、さっぱり分からない。
しかも掴まれた腕は未だに解かれてなくて、どうしようかと思っていればそのまま日吉くんは歩き出した。

「疲れたな、休むぞ」

ぐいっと腕を引かれ、そのまま喫茶店へと入った。階段を上がる時に日吉くんはようやく気づいたのか、「あ、」と慌てて腕を放してきた。

「悪いな」

「まぁ、うん。痛かったかな」

見れば掴まれた箇所は赤くなっていた。擦れば、日吉は眼を見開き、眉を潜めながらまた「すまん」と呟いた。

「すぐに治るだろうから大丈夫だよ」

「ならいいが…」

「とりあえず入ろう」

扉を開けば、ドアベルがチリンチリンと音を鳴らした。店員に勧められた席に腰を下ろし、メニューを見つめる。
和を基調とした喫茶店らしく、どこか馴染み深い感じがした。
互いに飲み物を注文し、向かいに座る日吉を改めて見た。

「それで、今日はどうしたの?」

「……あぁ」

「電話だと鳳くんがどうとか言ってたけど……?」

しかし肝心の鳳くんの姿はどこにもなかった。
それに追われていたのも気になる。というか、あれってもしかして、氷帝の三年生じゃなかっただろうか?

「あぁ、鳳の事だったんだが、なんだか話が面倒な方向にいきそうなんだ」

「??」

分からずに眼をパチパチさせていると日吉は苦虫を噛んだような顔をしていた。よほど言うのが嫌なようだが。

「鳳の奴、あんなに俺とお前は付き合ってないと言っていたのにポロっと先輩にお前の事を話したらしい」

「──────はっ?」

「違うと言っているんだが、話を全く聞かないんだ」

ゲンドウポーズを取るように組んだ両手に顔を乗せている日吉に、葵衣は絶句した。
ということは、さっき追いかけて来ていたのは───

「なっ、ん、そんな面倒な事になってるのになんで呼び出すのよ?!」

そんな事なら東京に来なかったのに!と訴えれば「俺だけ面倒なのはごめんだ」と分からない発言が返ってきた。
こんな面倒な事……お兄ちゃんに知られたら………「あー……」と声を出し、葵衣は頭を抱えた。

「いっそ柳さんを呼んで「止めて!」なんでだ?」

「そんな他力本願じゃなくて、自分で解決してよ!日吉くんてそんなんだっけ??」

「だから面倒だと言っただろう。いくら違うと言っても聞かないんだ!特に関西弁とみそみそ言う先輩が!」

「……嫌だ……」

あれでしょ、それって最初のダブルス組んでたあの二人でしょう?あ、跡部じゃないだけマシ?
下剋上、下剋上言ってるならなんとかしろよ!と睨んだら、「ふん」と笑われた。
この人、ちょっと性格悪いんじゃない?と葵衣は思ったのだった。



To be Continued
act.24


2015/09/29


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