暑さの中の寒気
面倒な事になりながらも、実際は日吉とは付き合っている訳ではないし、彼らに顔は割れていないのだからいいのではないか。という結論になった。
とりあえずは鳳くんにはもう何も話さないようにしっかりと、日吉くんとは付き合ってないとしっかり理解してもらおうという事にもなった。
「こうなったら日吉くんがちゃんとした彼女を作れば問題ないんじゃない?」
「あほか」
「失礼な。こんな面倒な時に東京に呼び出しといて何言ってんのよ」
行儀が悪いがズーッとストローでアイスティーを飲み干しながら答えると、意外にも「それは悪かった」と素直に謝られた。
パチクリと目を見開いていると、テーブルに置いていた携帯が震えた。
「あ、ごめん」
画面を見ると清雅からラインが入ったようだ。
暇ならデートしよう。と送られてきた内容にこめかみを揉んだ。
「どうかしたのか?」
「んー……(自称)彼氏からデートをしようと連絡が着たんだよね」
「……………は?」
「ん?」
「……いや、お前……彼氏いたのか…?」
画面から顔を上げると、日吉くんが心底驚いていてこちらもびっくりしてしまう。
「は?」
「いや、だからお前に彼氏がいたのか、と聞いているんだ」
軽いノリのつもりで言っただけだが、そこまで驚かれる程なんだろうか?
「えーっと……」
「誰なんだ? 俺も知ってるヤツか? 立海だと切原か仁王か…」
「あれ、清雅の事知ってるの?」
「せいが?」
「ああ、仁王 清雅。私はちょっと訳あって“せいが”って呼んでるだけだよ」
「仁王の事は知っている。切原にまでは及ばないがなかなかの選手だと思っている」
「へぇ、そうなんだ」
そんな風に思われているのか、今度教えてあげよう。なんて考えていると「仁王が…」と日吉が呟いた。
「? 何か言った?」
「………いや、なんでもない」
「そう?」
「「……………」」
一瞬、沈黙が落ちたが、ガタリと日吉は席を立った。
「悪いが部活が行くから失礼する」
「あぁ、そうなんだ。じゃあ私も帰るね」
「すぐに神奈川に帰るのか?」
「ううん、お姉ちゃんの所に寄る予定なの。帰りは車だし」
「そうか…」
「デートじゃないのか…」ボソリとまたなにか呟いていたが、葵衣には聞こえなかった。
じゃあね。と日吉に手を振って、葵衣は駅ビルへと向かった。
色々眺めてながら行こうと、色んなお店を回った。
「葵衣か……?」
不意に名前を呼ばれ、振り向いたら懐かしい人物が立っていた。
「貞治くん?」
「あぁ、久しぶりだね。3年と「そういうのいいから」……相変わらずだな」
「兄さんもだけど、貞治くんも背が伸びたね。首が痛い」
「ははは、牛乳を飲んだだけあるな」
「牛乳ってやっぱりすごいんだね」
「葵衣はそれくらいでいいと思うけどね。今日はどうしたんだい? 一人か?」
「あぁ、ちょっと友達に会ってたの」
「ほぅ。日吉とは友人だったのか?」
「……………覗いてたの?」
「偶然、だ」
「偶然ねぇ……」
ジト目で見上げると、キラリと眼鏡が光る。なんなの、眼鏡かけてる人は眼鏡光るの?
「ちょっとした縁でね。小学生の時に算盤塾一緒だったの」
「ほぅ」
カリカリとノートにメモを取る姿に顔をしかめると、肩を竦めてメモをしまった。
「そんな情報なんて必要ないでしょうに」
「どんなことでも知っておけば何かの役に立つものだよ」
「はいはい」
「投げやりだなあ」
後ろから着いてくる乾に対し、葵衣はやれやれといった風に歩き始めた。
「蓮二は元気にしているかい?」
「毎日、部活が忙しいみたいだよ」
「そうか」
「何か聞きたいことあるんでしょ?」
回りくどい態度に振り向いて言ってやれば、また肩を竦めた。
「聞きたいことがある。あの、立海のマネージャーはどんな感じなんだい?」
「………貞治くん、会ったの?」
「関東大会でね。英二や不二、越前に話しかけていたからね。負けたというのに、にこにこと笑ってな」
「…………なにそれ…」
「彼女は──────」
ナニモノ、なんだ。
乾の言葉に葵衣は前にも似たような事を聞いたことがあった。
あれは誰が言っていた?
「──蓮二によろしくな」
ぽん、と肩を叩かれ、乾は「また会おう」と言って歩いていってしまった。
ぞわり、と鳥肌が立つのが分かった。真夏の東京は30度以上で暑いというのに。
To be Continued
act.25
2016/06/03
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