風化した中のインパクトキャラ
夏休み中だというのに学校に来たのは理由がある。
「なんて図書館解放日だからだけど」
「柳〜、口を動かさず手を動かせ〜」
「先生? 私は本を返しに来たのであって手伝いに来た訳じゃないですよー?」
葵衣はため息を吐きつつ、手にある古書を台車に乗せた。古くなった本を処分するということらしく、本来は司書さんの仕事だが、たまたま来あわせた為に手伝いを頼まれたのであった。
「ごめんなさいね、柳さん」
司書室から顔を出して、苦笑いする若き司書さんは決して悪くはない。むしろ悪いのは担任であるこの先生だ。
「柳は部活にも入ってないんだ、構わないだろ」
「そりゃ入ってませんけど……」
「茶道部あたりはどうだ?それともやはりテニス部か?」
「なんの話ですか?」
「お前が入るなら、と考えた結果だ」
「茶道は学校でまでやりたくはないですし、テニス部なんてありえないです」
はぁ、とまたため息を吐いて葵衣は先生を見やった。そうなのか?なんて顔をしているが面白がってるに違いない。
先生、切原や清雅とかと仲良いからなぁ。
「先生、さっさと手を動かして下さい」
きっぱりと言えば、司書室から笑い声が聞こえたのだった。
ようやく終えたのは一時間後だった。先生たちからお腹が空いただろ、とサンドウィッチと飲み物を頂いたが、なんでそこで玄米茶なのか……。
流石に図書館内で飲食は禁止なので、司書室に招かれた。小さな城、と言った感じだが、先生が馴染んでいるのになんとなく関係が分かった気がする。
それに気づいたのか、司書さんに気づかないように人指し指で口元に手をやり、しーっとした仕草は悔しいがなかなか格好いいものであった、先生にしては。
司書さんにお礼を言われ、ようやく解放された葵衣は両腕を伸ばしながら昇降口へと歩いて行く。
靴箱から靴を取り出して、校内から出ると前を野球部員が通り過ぎた。それだけなら気にはしないが、彼の発した言葉に葵衣は反応した。
「おい、今、ウチのテニスコートに氷帝学園が乗り込んで来てるらしいぜ!」
物騒な物言いだが、気になるのは確かだった。
テニスコートの方に顔を向けようとした時、耳に届く声がした。
「氷帝……跡部か、」
この物言い、振り向けばそこには女子と見間違えそうになる美青年がいた。回りにナースも何人かいるが。──幸村 精市だ。
こんな近くで見るのは初めてだ。しかし、彼は私が誰かなんて知らないだろう。だが、目が合った瞬間、腕を掴まれた。
「は?」
「君が………蓮二の妹だね」
「え?!」
「あれ?間違ってたかな?」
フフっと笑う声に悪寒が走る。この人、怖い。
葵衣が首を横に振れば「だよね」とニコリと笑った。
「テニスコートまで一緒に行かない?今なら蓮二も清雅もいるよ」
「い、いえ……結構です…」
「そうなの? でも跡部に反応してたよね?」
ドキッとした。確かに反応してしまったが、何をそんなに怒っているのだろうか。
「そ、それはたまたまで……。氷帝が乗り込んできてるなんて聞いたら、気になりますよ」
そうだ、理由としては尤もだ。現にそれを伝えに来た野球部員はチームメイトたちと走って見に行ったようだし、他の人たちも同じだ。
「──そうだね。じゃあ、やっぱり一緒に行こう」
だから、何故一緒に──?と思った時、呼び出し音が鳴った。どうやら、携帯に電話が着たようである。
「す、すみません。電話が着たので」
意外にもあっさり腕を離してくれた事にホッとして、携帯を見れば自宅からである。
「家からなので、失礼します」
頭を下げて、彼から離れることが出来た。ありがとう、お母さん。電話をくれて。
そんな感謝をしながら、電話に出ると帰宅しないことに心配したようだ。
そういえばお昼には戻ると伝えていたのだ。
思いがけず、先生から手伝いを頼まれたのだと言えば、連絡くらい寄越しなさいと言われてしまった。
まさか、私もお昼過ぎまで掛かるとは思ってもいなかったが、お母さんが言うのは正論である為、素直に謝った。
今から帰る事を告げ、まだ騒がしいテニスコート方面に後ろ髪引かれながらも、葵衣は校門へと歩き出した。
テニスコートへは行ってはいけない。
幸村精市を見て、そんな風に思えた。
「……そういえば…」
幸村精市はあのマネージャーをどう思っているのだろうか、そんな事を思いながらまた歩き出した。
後ろから誰かが走る音が耳に入った。スッと真横を走り抜いたのは輝く金髪がフードから見え隠れしていた。
(──跡部だ)
立海へ乗り込んできた理由はなんだったか、もうあまり覚えてはいない。
振り向きもせずに走り去っていく跡部に、ホッと息を吐いた。
知り合いではない。勝手にこちらが知っているだけだが、”漫画”で知っていただけに、変な気分になりそうだ。
(……気を付けないとな……)
立海はまだしも、他の学校の人とはなんの接点もないのだから。いくら漫画を読んで知っていたとしても一方的なものだ。
(………今日、本なんて返しに来なければ良かった……)
そんな事を思いながら、家路についた。
夜、帰宅した兄に「精市と会ったそうだな」と訊かれたかと思えば、連絡を寄越した清雅にも同じことを訊かれた。
「ああ、うん」と答えると「気を付けろ」とだけ言われた。
清雅ならともかく、幸村と親友といっても過言ではない兄までどうしたのか、と不安になってしまったのは言うまでもない。
あの人は怖い──それだけで、本当にテニス部とは関わりたくはないと思えたのだった。
To be Continued
act.26
2016/07/06
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