独りでなくて良かった
気づけばお盆休みも終わり、全国大会が始まった。
見に来るつもりはなかったのだが、兄に、清雅にと、しつこかったせいで「分かった、行けば良いんでしょう!」と売り言葉に買い言葉をしてしまった。
炎天下の陽射しがじりじりと痛い。日焼け対策はしているものの、肌が痛いってなんなの。
日傘を差して、テニスコートに来てみればやたらと騒がしい。なんなの?何が起きてるの?
救急車が走り去っていき、なんだか騒がしい。
遠い記憶を巡らせてみても、あまり思い出せない。
判っているのは全国を制するのは主人公たるリョーマがいる青学であって、立海は準優勝だということである。
判りきっているものを何故見に来なくてはいけないのか、兄には言えないが、清雅なら判るはず……いや、違う。
結果は変わることない世界だが、経過が少し違くなっていたのだ。
(…………大丈夫だろうか…)
恐る恐ると立海の試合コートへと足を向ければ、「常勝!立海大!!」と声援が聞こえる。
人だかりをかき分け、コートがみえる場所へと行けば、既に決着は着いていたようだ。
相手チームを見れば、げんなりといったようだが彼らにはあまり見向きもせずに会話をしている。
それでも圧倒的な強さを見せつけ、準々決勝へと進めていた。
あのマネージャーも『みんな、すごい!格好良かったよ』とタオルを渡している。しかし──
「初戦とはいえ…………皆、動きが悪すぎるよ!」
声援がある中で、啓示の如く響く声に鼓動が早まる。──怖い。彼の印象はそれしかない。
初めて会ったのは数日前であるが、遠くから見たことはあった。周りも「幸村先輩は綺麗で格好よくて優しい」なんて言っていたが、決してそうではない。
いや、それも彼であり、今厳しい言葉を放ち、あの真田先輩を従えさせる姿も彼なのだろう。
自由奔放なテニス部員を従わせる。なるほど「神の子」と呼ばれるだけある。
その様子を遠くから眺めていると、携帯が震えた。見れば日吉くんからで驚いてしまった。
『観に来ているのか?』と短い内容に首を傾げた。
(……もしかして、見られた?)
確認するかの様な内容に簡単に『来てるよ』と返信した。
あまり、正直、氷帝にまで今日は会いたくはないな、と思った。いや、面倒なのはあの関西弁の人とみそみそ言う人であろう。ある意味鳳くんも面倒である。
(よし、清雅に少し会ってさっさと帰ろう。リョーマや手塚を見たかったが仕方ない)
うんうん、と頷いていればふと自身に影が落ちる。
ん?と仰ぎ見れば、そこにはお兄様の姿が。
「うわっ!」
「なんだ、その言いぐさは……。来ていたのか、葵衣」
「え、あ、はい」
「…………清雅が呼んだのか?」
スッと切れ長の眸がこちらを凝視した。
「え、ま、まぁ……」
「…………ッ」
「…………」
(今、小さく舌打ちしたよ、この人)
「葵衣」
「…………あー、…………………………清雅…」
何故、このタイミングで出てくるんだ?
バカなの? ねえ、バカなの?
そんなことを思っていると、腕を掴まれた。
「柳先輩、葵衣を借りますね」
「ちょっ、清雅!」
「ちゃんと返すんだぞ」
「はーい」
「????」
なんだ、どうしたんだ?ついこないだまでギャーギャー騒いでいたのに、物分かりが良くなっ…………てないし!滅茶見てる!眼を開けたままだよ!
あ、切原が顔を青くして、あ、真田先輩が肩を震わせた。
腕を引かれながら歩き、少し離れた場所へと連れ出されるとようやく手を放してくれた。
「清雅?」
「……お前さ、氷帝の日吉と付き合ってないよな?」
「………は?」
「いや、だからさ、日吉とは付き合ってないんだよな?」
「は、ぁ…?」
何を訳の分からない事を言っているのだろうか?
日吉と付き合ってる?誰が?そんな訳ないじゃないか。
「……なんで、そんな話に??」
意味が分からないとばかりに聞いてみれば、試合前に氷帝のレギュラーと行き合ったらしい。
その時、レギュラーの誰かが柳──お兄ちゃんに聞いたらしい。
「ウチの日吉が柳の妹と交際してると聞いたが、本当なのか」と。
誰かとは誰だ?頭にテニスボールをぶつけまくりたい。
「いや、日吉くんは友人であって、付き合ってる訳ないじゃん」
そう話せば、清雅はホッとした顔を見せた。
なんだよ、そのあからさまに安心した顔は。そんな態度を取られてはどうしたらいいのか分からなくなる。
「葵衣……」
「うん?」
「とうとう全国大会だな」
「……そう、だね」
結果は知っている。だからこそ怖い。そして、その後は?
その後はあるの?知らないからこそ怖い……。
どうなるのだろう……私たちは。
知っている未来を、知らない未来を思って、葵衣は縋るように清雅のジャージの裾を握ってしまえば、葵衣の手を彼が優しい手つきで包み込んだ。
「………何があっても、お前には俺がいるからな」
「…………………ぅん…」
その一言に、傍にいてくれたのが、出会ったのが、此処にいたのが、清雅で良かったと罪悪感でいっぱいだった息を吐いたのだった。
To be Continued
act.27
2017/01/01
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