イレギュラーな存在

テニスの王子様

突然の出来事に葵衣は唖然とした。
あの、マネージャーに対して幸村 精市という人物は他のテニス部員とは別で、甘さも何もなかった。
それほどではなかったが、兄──柳 蓮二でさえ彼女を甘やかしていたというのに。
清雅は毛嫌いしていたが。

「幸村……てめぇ、姫奈に対して何を言ってやがる」

「何って……そのままだよ。マネージャーとして役に立ちもしない人に名前で呼ばれたくはないかな。ね、そう思わない、清雅」

「まぁ、俺は呼ばれたくないっスね」

「フフ、だよね」

「な、ひ、酷いよ。精市くん、清雅くん」

「───だから、名前、呼ばないでくれる?」

一瞥する幸村に姫奈は身体を震わせた。
「酷いよ…」と溢しながら、両手で顔を覆っている。そんな如何にも泣いてます。という仕草に、氷帝のダブルスコンビが彼女を慰めるか如く近づいてきた。

「泣くなよ、姫奈」

「せや、気にすることあらへん」

彼女の頭を撫でながら、冷たく突き放した幸村を睨みつけてきた。
葵衣はあまりの場違いさにこの場から離れたくて仕方なかった。
青学のメンバーも比嘉中のメンバーも何事かとこちらを見ている。異様な雰囲気を感じ取ったからだろう。

(…………私、離れちゃダメかな?)

寧ろ、いる意味がない。
よし離れよう。うん、と自分に言い聞かせるが、なかなか難しかった。
異様な雰囲気が終えたのは一重にあの生意気なルーキーのおかげだろうか。
主人公はどこまでも主人公だ。

「さっきから煩いんだけど、ケンカなら他所でやってよね」

その一言にあの跡部は舌打ちをし「行くぞ、オメーら」と彼らを引き連れて行ってしまった。
しくしくとあからさまに泣いていたあのマネージャーは何故か「ありがとう、リョーマくん」とか言い出し、リョーマは眉を潜めたがそれを無視した。
彼女はそんなリョーマの姿に「……え、」と声をあげたが、彼はそれを見返ることもなく歩いて行ってしまった。

やっべ、格好いいじゃねーか!リョーマくん!

そんな事を考えていると、幸村が「俺たちも戻ろうか」と笑みを浮かべていた。だから、怖いって!
彼らが立海の場所に戻るならば、これ幸いと葵衣は清雅と蓮二に「じゃあ、帰るね」と声を掛けた。

「あれ? 蓮二の妹さんは一緒に行かないかい?」

「ぅえ、あ、この後用事があるので……失礼します!」

「おい、葵衣!!」

「じゃ、じゃあ、先に帰るね〜」

一緒に行くよね?と無言で言う幸村に葵衣はアハハハと誤魔化しながら、その場をそそくさと逃げた。
清雅が名前を呼んでいたが、知るか!誰が行くか!
マネージャーがどうなるかなんて知らん。
ようやく彼らから離れる事が出来たので、今度こそ帰ろうと歩いていると、テニスボールが足元に転がってきた。
こんな通路で、怪我したって知らないよ?なんて思いながら、それを拾い上げると横から声が聞こえた。

「わわ、ラッキー♪ 可愛い女の子に拾って貰っちゃった」

見ればニヤニヤしている男がいる。
葵衣はそちらを見ると、足早に彼に近づくと、無言でテニスボールを手渡すとまた足早に歩いて行ってしまった。
その流れるかのような動作に、テニスボールを渡された千石は慌てたように彼女を追いかけた。

「ねえ、ねえ、キミ。拾ってくれたお礼にジュース奢るよ?」

「結構です」

「またまたそんなツれない事言わないでよ〜。あ、なんなら今度デートでもしない? あ、まだ自己紹介がまだだったね、俺は山吹中の千石清純。せいじゅんって書いてキヨスミだよ、キミは?キミの名前は何て言うの?」

「……………(うざい)」

ジト目で見やるもへらへらとした態度に頭が痛くなる。なんでこんな面倒臭いことになってんの、私?
一瞥しながら歩けば、後ろから「ねえ、ねえ、ジュース奢るよ、自販機はあっち」と腕を掴まれた。
ちょっ、何?と思ったのも束の間、葵衣の腕を掴んでいる千石の腕を誰かが掴んでいた。

「あれ? 乾くんじゃない」

「いい加減にしておけ、千石」

「貞治くん」

「葵衣、こちらへ」

掴まれていた腕から手を離され、促されるように乾の背に回った。
それを見た千石が「ちょっと乾くん、邪魔しないで欲しいなー、ってか葵衣ちゃんって言うんだ、可愛いね」とまたベラベラ喋り出す。

「千石、この子は止めておけ。教授に狙われたら大変だぞ」

「教授?教授って??」

分からないとばかりに疑問符を頭の上に浮かべてる千石に、乾は溜め息と共に教授は誰かと伝えれば
彼は顔を引きつらせて、そそくさと行ってしまった。
その様子を見ていた葵衣は溜め息と同時に「何て言ったの?」と問えば「何、立海、柳蓮二が溺愛している妹だと言っただけだ」と言う。
それだけで逃げるものかとも思うが、立海のネームバリューに加え、三強の一人でましてや参謀たる兄は幸村、真田に続き恐れられる人物だからだと乾は笑いながら言った。

「そんなもん?」

「ああ、そんなもんだ。ところで葵衣はもう帰るのか?」

「ん?ああ、うん、帰る予定だよ」

「しかし珍しいな、お前が試合を観に来るなんて」

「試合は見てないよ。着いたら終わってたし」

「……それは、また……蓮二は残念だったろうな」

「仕方ないじゃない、暑いし、人多いし」

「だから日傘も持ち歩いているのか」

「うん、日に焼けるの嫌だしね」

「言うことが一丁前だな。ああ、お前は皮膚が弱かったな、そういえば」

「そうそ、暑いの嫌いだしね」

軽口を言い合いながら、いつの間にか自販機がある所に連れて来られた。
暑いだろうと渡された飲み物は、キンキンに冷えたお茶だった。

「ありがとう」

「どういたしまして」

「──で?」

「ん?」

「何か聞きたいことあるんじゃないの?」

「いや、そうでもないさ。先程の事が気になっただけだ」

「あー……あのマネージャーの事?」

お茶を飲むと、渇いていた喉を潤していくのを心地よく感じた。
あのマネージャーについてはよく分からない。
前にあった時に気を付けろ的な事を言われていたのを思い出した。

「まぁ、彼女についてはもういいさ。なんとなく分かるからな」

「わかる?」

「あのコはテニスは好きではないのだろう。純粋に応援とかではなく、テニス部──いや、テニス部レギュラーが好きなんじゃないかと思ってな。簡単に言えば、ただのミーハーなんじゃないか」

「……あー、うん、私もそう思うよ。レギュラーにはタオル手渡してたりしてるって聞いたから」

後、清雅にもだっけ?
前にテニス部ファンクラブのおねーさま方があのマネージャーに言っていたのを思い出した。

「そうか……。蓮二は気づかなかったのか?」

「さぁ? なんだかんだとお兄ちゃんも真田先輩も甘かったみたいだよ」

「真田までもか……。氷帝の跡部や忍足たちもそんな感じだったな」

そういえば、いつの間にか仲良くなっていたのだろうか?あの関東大会の時に話しかけていたと清雅が言っていた気がする。
彼女は何がしたいのだろうか?──ちやほやされたい?
まさかね。

「葵衣」

「ん?」

「彼女はミーハーだと思うが、なんというか、変なんだ」

「変?」

「ああ、前に偶然耳にしたのだが───」

乾が語る事に葵衣は耳を疑った。
「テニプリ」というワード。それは──。
この世界ではないだろう。いや、あるかもしれないけれどそんな単語をいう人はいない。自分たちを除いて。
もしかして、彼女は───私たちと同じ…なんだろうか…?

清雅に、会いたくなった。



To be Continued

act.29
2017/02/27


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