姉兄妹の仲
清雅には大丈夫だとは言われたが、彼女の存在には畏怖しか感じない。同じようで彼女はどこか違う。
そのせいか、テニスの試合は見に行けずにいる。
何か変わってしまうのではないか、変えてしまって何か起こるのではないか、と……。
「あら? 葵衣は蓮二の試合 見にいかないの?」
「………お姉ちゃん…」
いつの間にいたのだろいか、姉の姿に驚いてしまった。
「どうしたのよ? そんな呆然としちゃって」
「お姉ちゃんこそどうしたの? なにか取りに来たの?」
「えぇ、帯留めをね。それよりも試合の応援に行きましょう?」
ぐいっと腕を掴まれた。
「え? お姉ちゃんこそ珍しいね、お兄ちゃんの試合を見に行こうだなんて」
「あぁ、由美子の弟もテニスしてるらしくて。聞いたら準決勝なんですって」
「……由美子?」
「会ったことなかったかしら? 東京の友人でね、占い師なのよ」
え、待って、それって……。
もしかして、もしかする?
確かに友人に占い師がいてもおかしくはないかもしれないけど、その占い師には弟がいてテニスをしていて、今日が準決勝とかって、誰を連想出来るかなんて想像出来る。
「へ、へぇ…」
「由美子の占いは当たるから葵衣も見てもらったら?」
「わ、悪いからいいわよ」
「大丈夫!由美子、気さくだから。せっかくだし恋愛占いでもどう? 蓮二……というよりはお母さんから聞いたけど彼氏いるらしいじゃない」
「は?」
「その辺の話も聞きたいし、東京までの道程をお姉ちゃんとコイバナしましょ」
姉の勢いに負け、葵衣は行く予定もなかったテニスの会場へ向かう事になった。
「えー、じゃあ、付き合ってないの?」
「………そう、だけど…」
「なによ、それ? 蓮二に隠してるから? お姉ちゃんには」
「だから!付き合ってなんかないってば!そうだなぁ、恋人未満友人以上?」
「葵衣〜 それ付き合う一歩手前のすっごく楽しい時期じゃない!というか、友達以上恋人未満じゃないの?」
「………恋人じゃないと思うけど…」
清雅とはそんな関係ではない。清雅が何を思って付き合ってる宣言をしたかは誤魔化す為なんだろうけど……。
言わば、自分たちはこの世界で唯一分かり合える友人である。前世(というのか)からの知り合いがこの世界にいる事に驚きを隠せないが。
まぁ、正直 清雅の事は嫌いではない。それは前の世界から同じだった。
ふと、そういえば何故自分たち二人は同じこの世界に転生?したのだろうか──。
しかも同じ学年に、同じテニス部に兄がいるという偶然に、偶然なのかと疑ってしまう。
「………はぁ…」
小さくため息まじりに息を吐けば、「ふふ、青春ねぇ」などと勘違いしていたようだが、車の窓の向こう側をただ眺めていた。
車はやがて潮の匂いが少しあるテニスコートへと来ていた。
時計を確認して、清雅に連絡をしていると姉が誰かと話していた。
「百合子、遅いじゃない!」
「ごめん、ごめん!でも試合には間に合ったでしょ?」
「ふふ、まぁね。あら、あなたが葵衣ちゃんね!本当に可愛いわね」
「当たり前じゃない!私の妹よ?」
「よく言うわね。初めまして、かしら? 百合子から可愛い妹がいるとよく聞かされていたから初めての気がしないけど。不二 由美子です」
──ああ、やはり そうだったか…
そんな思いを抱きながら、葵衣は差し出された手を触れた。
「柳 葵衣です。姉がお世話になっています」
当たり障りのない挨拶をすれば、由美子さんは「私もお世話になっているわ」と気さくに答えてくれた。
姉はどちらかといえば、和風美人、アジアンビューティーで、由美子さんは何て言うのかしら……正統派美人かしら?
どちらにしろ、美人が二人も揃っているからか目立つ目立つ。
「あら、準決勝はコートは離れているのね」
「本当。残念だわ、由美子の自慢の弟くんを見たかったのに」
「私も残念だわ」
二人の共通点をあげるならば、常に目を瞑っているところだわ。なんて思ってしまった。
じゃあ、なにかあったら連絡するわ、と由美子さんと別れて立海が試合をしているコートへと足を向ける。
どこと試合なんだっけ……と考えていると、ザワザワとやたら騒がしい。なんだろうと辛子色のジャージが見えて近寄った。
スコアボードを見て、驚きを隠せなかった。
立海が決勝に進むのは分かっていたとしても、本当に?と疑わずにはいられない。
相手側を見れば、全員が外国人のようでどういうことなんだろうと思ったりもしたが、今、コートで起きている出来事に葵衣は姉と共に驚いている。
身体が真っ赤になり、何故か髪は白髪になっているの切原赤也であるがかなりの流血を帯びている。
こんな中で試合になるのか、止血とかしないのか、というよりも切原の超攻撃なテニスが怖くて姉にしがみついた。姉も同様に手を握り返された。
『ゲームセット! ウォンバイ 立海大附属 切原赤也 7ー5!!』
ようやく立海の一勝になったようだ。
しかし、次は兄の出番のようで、よりにもよってというか、仁王雅治とダブルスを組んでいる。
なんで?仁王は柳生とのコンビじゃなかったのかと見ていると、彼が兄になにかを言ったのかこちらを指差して見ている。
と、同時にポンと肩を叩かれた。振り向けばやはり清雅が立っている。
「よ、葵衣」
「え、えぇ。それよりも……」
「ん、あぁ……………めっちゃこっち見てるな」
「………うん…」
兄が開眼し、こちらを見ている。仁王雅治もだが、どこか面白げに飄々としている。
「蓮二、頑張りなさい!ほら、葵衣も声掛けたら?」
隣に立つ姉に言われてしまえば、何も言わない訳にはいかない。清雅は誰?と言いたそうにしていたが、姉だと察したのだろう。会釈をしている。
「う、うん………。お兄ちゃん、頑張って!!」
口元に手をやって、聞こえるように声を上げれば、口の端をあげて頷いただけだった。
「………ふふ、蓮二ったら嬉しそうね」
姉が楽しげに笑うなか、コールがなり兄たちの試合が始まった。
S3、D2、S2と苦戦してきた以上、こちらも手強いのかと思えば、圧勝というべきなんだろうか呆気なく終わってしまった。
どうやら、わざと試合に負けて切原を覚醒させたかったらしいが、覚醒させるにしてもあんな血だらけにする必要はあったのだろうか。
最後のS1はいうまでもなく、真田の登場に相手側が気の毒に思えてしまった。
「葵衣、姉さん、来てくれたのか」
「蓮二! 試合 お疲れ様」
「…………お疲れ様」
「ああ、ありがとう」
汗をかいているわりに涼しげな兄は何故か葵衣の頭を撫でている。無論、隣にいた清雅から離すように二人の間に割り込んで、だ。
姉はおかしそうに笑い、清雅は苦笑いしながら兄にくっついて来た仁王雅治と話をしている。
というか、真田の応援はしなくていいのかと思っていれば、試合は瞬く間に終わっていた。
結局は、予定通りに立海は決勝へとコマを進めたのだった。
コートで互いに挨拶をしている選手を見ていると、どこからか禍々しい視線を感じれば、こちらを睨むマネージャーがいた。
「──あの、あからさまにこっちを睨んでいるあのコはなぁに?」
「立海のマネージャーだよ」
「マネージャー?」
「うん。…………なんだか目の敵にされてんだよ」
「まぁ、なぁに? 葵衣に対して」
「別に気にしてないからいいよ。お姉ちゃんがそんなことで怒らなくても」
そう伝えれば、わしわしと頭を撫でられた。
日傘差してるんだから、ちょっとやめて。
「んもぅ!葵衣は良い子ね!大好き!」
「私もお姉ちゃんのこと、好きだよ」
それを聞いた百合子はますます葵衣を撫でるのだった。
「こんにちは、百合子さん」
「あら、幸村くんに真田くんじゃない、久しぶりね」
挨拶が終わったのか、幸村と真田が近寄ってきた。
「ご無沙汰しております、百合子さん」
「ふふ、久しぶりね。幸村くん、身体の調子はどう?」
「はい、皆に支えられ、良くなりました」
「良かったわぁ………」
会話が続いている中、葵衣はこちらを未だに見てくるマネージャーにため息を吐いた。そんなに睨まなくても良くない?
彼女が何者かはよくは知らない。
だけど、自分たちと同じできっと違う。
自分たちもこの世界では違うとは思ってはいたけれど、彼女はあまりにも異質だった。
「葵衣」
そっと声を掛けられ、清雅の近くへと歩いていく。
離れたその時、姉が幸村先輩にマネージャーのことを話していたとは考えてもいなかった。
To be Continued
act.31
2017/09/09
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