14年ぶりの再会

テニスの王子様

チャイムと同時に担任が声をかける。

「じゃあ、今日はここまでだな。明日は委員やら係とか決めるぞ。出席番号一番、号令」

起立、礼をして教室内はざわざわと騒がしくなる。
私と言えば、自己紹介後から彼の事が気になって仕方ない。
どうしたらいいだろうか、とそわそわしてしまう。
近づいてみようか、なんて思いながらも、彼の横には切原 赤也がいる。
正直、あまり関わりたくはない。
どうしようか、今日は止めておこうか、など色々考えていると、教室に声が響いた。

「はぁ? なんで行かねぇんだよ、部長の見舞いに」

「だから用事があるんだよ。それにレギュラーだけで行くのになんで俺も行かなきゃなんねぇんだよ」

「別に清雅なら部長だって怒らないだろ」

「そりゃ、怒らないだろうけど。今日はダメなんだよ。部長や真田先輩に言っといてくれよ、な? 明日、焼きそばパン奢るからさ」

「…………分かった、約束だぞ、焼きそばパン」

「おう、じゃあ、幸村部長によろしく言っといてくれ」

「あぁ、じゃあ明日な」

切原はそう答えるとテニスバッグを肩に掛けて教室から出ていってしまった。
それを眺めていたクラスメイトたちも教室から出ていく。
疎らになった教室で、彼──仁王 清雅はこちらを見た。
互いに見つめあい、とりあえずはこのまま教室に残っている場合ではないと思い、スクールバッグを手にした。
指で外にと合図を送ると、分かったらしく頷かれた。
あまり人が行き来しない階段を昇り、屋上入口の踊り場まで来る。
屋上へは鍵が掛かっているので、注意していれば大丈夫だろう。
後ろに付いて来ていた彼に振り向くと、ガシッと肩を掴まれた。

「お前、もしかして、葵衣か?」

「そういうアンタは清雅?」

「その呼び名、やっぱり葵衣か」

「「なんで此処に!?」」

互いに重なった言葉に、驚きを隠せなかった。

「「…………」」

何を話したらいいのだろう、どこから聞けばいいのだろう、話したい聞きたい事は山程あるのに、言葉が出ない。
見つめあってるとブブブブと振動音が聞こえた。肩に乗っていた手が離れ、ポケットの携帯を取り出す。

「チッ……赤也か……もしもし? あぁ、……」

手を上げて、悪いという様に彼は背を向けて電話をしている。
どうやら切原らしい。
多分、先程の会話から幸村の見舞いに行く予定だったのだろうが、予期せぬ出来事に彼はこちらを優先させたのだろう。
私でもこちらの方が優先すべき事だろう、例え、姉が帰ってくる予定だとしても。まぁ今日はその予定ではないから、構わないけど。
ボーッとしていると会話が終わったのか、ガシガシ頭を掻きながら通話終了ボタンを押したようだ。
振り向く彼の銀髪が光に反射する。

「ねぇ、それって地毛なの?」

急な問いに清雅は目を丸くした。

「そういうお前は真っ黒過ぎねぇか、それ。前のイメージと違いすぎ」

「だよね。でもお家柄髪を染めるのが憚れてさ……ってか、地毛?」

「まぁ、な。なんか色素が薄いみたいなんだよな」

「って言うか、仁王、の弟なの?」

「そういうお前こそ、もしかして、参謀の…柳先輩の妹?」

互いに、ハァとため息を吐いた。
やはり彼は私が知る清雅で、私は彼が知る私のようだ。

「えーっと、どういうことか説明プリーズ!」

「それは俺もなんだけど?」

「気づいたら、小さな子供になってたよ、プリーズ」

「簡単すぎるだろ! 俺もだ」

「そっちこそ簡単すぎる!」

結局の所は分からない。
ただ、互いに同じ状況なようだ。
今でも思い出せない、あちらの世界の最期が。

「……よく、俺だって分かったな…」

ポツリと呟く彼を見上げると、困惑顔だった。安堵したような、複雑のような。

「前とあまり変わらないように見えたから、かな? 直ぐに分かったよ。そっちこそよく分かったね、私だって」

「お前もあまり変わらないから、黒髪なのは笑えるけどな」

髪を一房取ると、意外そうな顔をしている。

「なぁ、俺たちは、さ、もう、あっちには───」

声にならない言葉が聞こえる。
私たちにとって、この世界は漫画の中なのに、今まで生きてきた情も既に出来ている。
漫画の世界だが、私は確かに今の両親から生まれ、柳 蓮二を兄として十四年間も生きてきた。
それは彼も同じなのだろう。今の両親から生まれ、キャラクターである仁王 雅治を兄として生きてきたのだ。
それでも、と胸の中に秘めた想いがあった。
戻れるならば、戻りたい、と。
でも、きっと、無理なのだと。
同じ気持ちなんだろう。

彼に近づき、俯いている頭に手を伸ばした。
途端、背中に手を回され、ギュッと抱きしめられる。

「ちょ、清雅っ……」

「わり、ちょっとだけ、こうさせて」

切羽詰まるような声音に葵衣は抵抗するのを止めた。
泣きたい気がするが、泣けない。
それでもすがりたくて、清雅の制服の裾を握った。

十四年ぶりの再会だ。





act.2


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